韓国の離婚後親子関係に関する法律について

離婚後面会交流及び養育費に係る法制度 ―米・英・仏・独・韓― 調査と情報―ISSUE BRIEF― NUMBER 882(2015.11.17.)」に関連して、韓国の法制度を少し調べてみました。
家族関連の法律は日本と同じく民法中の家族関連の規定として定められています。
日本民法との類似点と相違点を条文に照らしてみてみましょう。
(※:韓国民法の翻訳は全て機械翻訳による。)

親族の範囲

제777조(친족의 범위) 친족관계로 인한 법률상 효력은 이 법 또는 다른 법률에 특별한 규정이 없는 한 다음 각호에 해당하는 자에 미친다.
1. 8촌 이내의 혈족
2. 4촌 이내의 인척
3. 배우자

第777条(親族の範囲) 親族関係による法律上の効力は、この法律又は他の法律に特別な規定がない限り、次の各号に該当する者に及ぶ。
1. 8親等以内の血族
2. 4親等以内の姻戚
3. 配偶者

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)
日本民法

第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1

日本よりも広い範囲を親族とみなしています。

家族の範囲

제779조(가족의 범위) ①다음의 자는 가족으로 한다.
1. 배우자, 직계혈족 및 형제자매
2. 직계혈족의 배우자, 배우자의 직계혈족 및 배우자의 형제자매
②제1항제2호의 경우에는 생계를 같이 하는 경우에 한한다.

第779条(家族の範囲) ①次の者は、家族とする。
1.配偶者、直系血族及び兄弟姉妹
2.直系血族の配偶者、配偶者の直系血族及び配偶者の兄弟姉妹
②第1項第2号の場合には、生計を一にしている場合に限る。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)

家族の範囲については日本の民法には見当たりません。おそらくは韓国には本貫が重視される文化があることによるとは思いますが。

協議離婚の規定

제834조(협의상 이혼) 부부는 협의에 의하여 이혼할 수 있다.

第834条(協議上の離婚) 夫婦は協議によって離婚することができる。

제836조(이혼의 성립과 신고방식) ①협의상 이혼은 가정법원의 확인을 받아 「가족관계의 등록 등에 관한 법률」의 정한 바에 의하여 신고함으로써 그 효력이 생긴다.
②전항의 신고는 당사자 쌍방과 성년자인 증인 2인의 연서한 서면으로 하여야 한다.

第836条(離婚の成立と申告方式) ①協議上の離婚は、家庭裁判所の確認を受け、「家族関係の登録等に関する法律」の定めるところにより申告することにより、その効力が生じる。
②前項の届出は、当事者双方と成年者である証人2人の連署した書面でなければならない。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)

協議による離婚を認めている点は日本と同じですが、その届出に関して韓国では家庭裁判所の確認を受けることが必要とされている点が異なります。

日本民法

第七百六十三条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1

日本では協議離婚に際し家庭裁判所の確認などを経ることなく、子の親権者をどちらか一方に定める旨(民法819条1)を行政が確認さえすれば、それで離婚届が受理されます*1民法765条1)。

協議離婚のための手続き

家庭裁判所の確認を受けることがどういう意味を持つのかという部分がこれです。

제836조의2(이혼의 절차) ① 협의상 이혼을 하려는 자는 가정법원이 제공하는 이혼에 관한 안내를 받아야 하고, 가정법원은 필요한 경우 당사자에게 상담에 관하여 전문적인 지식과 경험을 갖춘 전문상담인의 상담을 받을 것을 권고할 수 있다.
② 가정법원에 이혼의사의 확인을 신청한 당사자는 제1항의 안내를 받은 날부터 다음 각 호의 기간이 지난 후에 이혼의사의 확인을 받을 수 있다.
1. 양육하여야 할 자(포태 중인 자를 포함한다. 이하 이 조에서 같다)가 있는 경우에는 3개월
2. 제1호에 해당하지 아니하는 경우에는 1개월
③ 가정법원은 폭력으로 인하여 당사자 일방에게 참을 수 없는 고통이 예상되는 등 이혼을 하여야 할 급박한 사정이 있는 경우에는 제2항의 기간을 단축 또는 면제할 수 있다.
④ 양육하여야 할 자가 있는 경우 당사자는 제837조에 따른 자(子)의 양육과 제909조제4항에 따른 자(子)의 친권자결정에 관한 협의서 또는 제837조 및 제909조제4항에 따른 가정법원의 심판정본을 제출하여야 한다.
⑤ 가정법원은 당사자가 협의한 양육비부담에 관한 내용을 확인하는 양육비부담조서를 작성하여야 한다. 이 경우 양육비부담조서의 효력에 대하여는 「가사소송법」 제41조를 준용한다.

第836条の2(離婚の手続き) ①協議上の離婚をしようとする者は、家庭裁判所が提供する離婚に関するご案内を受けなければならず、家庭裁判所は、必要に応じて、当事者に相談について専門的な知識と経験を備えた専門相談者の相談を受けることを勧告することができる。
家庭裁判所に離婚の意思の確認を申請した当事者は、第1項の案内を受けた日から、次の各号の期間が経過した後に離婚の意思の確認を受けることができる。
1.養育なければならない者(ポテ中者を含む。以下この条において同じ。)がある場合には、3ヶ月
2.第1号に該当しない場合には、1ヶ月
家庭裁判所は、暴力により当事者の一方に立つことができない苦しみが予想されるなど、離婚をしなければならする急迫した事情がある場合には、第2項の期間を短縮又は免除することができる。
④養育しなければならない者がいる場合、当事者は、第837条の規定による者(子)の養育と第909条第4項の規定による者(子)の親権者の決定に関する協議又は第837条及び第909条第4項の規定による家庭裁判所の審判正本を提出しなければならない。
家庭裁判所は、当事者が協議した養育費負担に関する内容を確認する養育費の負担調書を作成しなければならない。この場合、養育費の負担調書の効力については、「歌詞訴訟法」第41条を準用する。

제837조(이혼과 자의 양육책임) ①당사자는 그 자의 양육에 관한 사항을 협의에 의하여 정한다.
② 제1항의 협의는 다음의 사항을 포함하여야 한다.
1. 양육자의 결정
2. 양육비용의 부담
3. 면접교섭권의 행사 여부 및 그 방법
③ 제1항에 따른 협의가 자(子)의 복리에 반하는 경우에는 가정법원은 보정을 명하거나 직권으로 그 자(子)의 의사(意思)·연령과 부모의 재산상황, 그 밖의 사정을 참작하여 양육에 필요한 사항을 정한다.
④ 양육에 관한 사항의 협의가 이루어지지 아니하거나 협의할 수 없는 때에는 가정법원은 직권으로 또는 당사자의 청구에 따라 이에 관하여 결정한다. 이 경우 가정법원은 제3항의 사정을 참작하여야 한다.
⑤ 가정법원은 자(子)의 복리를 위하여 필요하다고 인정하는 경우에는 부·모·자(子) 및 검사의 청구 또는 직권으로 자(子)의 양육에 관한 사항을 변경하거나 다른 적당한 처분을 할 수 있다.
⑥ 제3항부터 제5항까지의 규정은 양육에 관한 사항 외에는 부모의 권리의무에 변경을 가져오지 아니한다.

第837条(離婚と子の養育の責任) ①当事者は、その者の養育に関する事項を協議によって定める。
②第1項の協議は、以下の事項を含まなければならない。
1.養育者の決定
2.養育費の負担
3.面会のイベントかどうかと、その方法
③第1項の規定による協議が、子の福祉に反する場合には、家庭裁判所は、補正を命じ、又は職権で、その者(子)の医師(意思)・年齢と親の財産状況、その他の事情を斟酌して子育てに必要な事項を定める。
④子育てに関する事項の協議が行われず、又は協議することができないときは、家庭裁判所は、職権で又は当事者の請求に基づいて、これについて決定する。この場合、家庭裁判所は、第3項の事情を参酌しなければならない。
家庭裁判所は、子(子)の福利のために必要であると認める場合には、父・母・子(子)と検査の請求又は職権で、子の養育に関する事項を変更したり、他の適切な処分を行うことができる。
⑥第3項から第5項までの規定は、養育に関する事項以外の親の権利義務に変更を持って来ない。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)

韓国では協議離婚であっても役所に届け出て完了ではなく、家庭裁判所が提供する離婚に関するガイダンスを受けなければならず、ガイダンスを受けた後も未成年の子がいる場合は3ヶ月、いない場合は1ヵ月の猶予期間を設けて、その後に再度離婚の意思確認を求めることができるようになっています。衝動的に離婚しないようにする冷却期間といえるでしょうか。
もちろん、暴力があるなど急迫している場合には、家庭裁判所はその猶予期間を短縮・免除できるようにもなっています。

重要なのは未成年の子がいる場合で、養育や親権者に関して決定した内容を提出しなければならず、養育費負担に関しては家庭裁判所が調書として書面化しなければならないことになっています。
いわば離婚後養育計画を当事者は協議して決める必要があり、その決めた内容に対して家庭裁判所が子の福祉の観点からチェックし、必要に応じて修正を求めるという制度設計です。
家庭内権力関係によって協議の内容が一方に偏したものになりがちであること、そしてその影響を離婚当事者でない子が受けるということを踏まえると、協議離婚であってもその後の養育計画に関して家庭裁判所がチェックするというのは非常に合理的で、子の福祉に適ったものといえるでしょう。

日本民法

対応する日本民法の規定はこうなっています。

第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1

親権者をどちらか一方に定めることは民法819条に明記されていますので、それ以外の監護者や面会交流、養育費などについて協議して定めることを求めていますが、家庭裁判所は協議がまとまらなかった場合のみ関与することになっていて、協議がまとまってしまえば家庭裁判所は何もしなくてもよいことになっています。
ここでいう協議が調った場合とは、離婚届が出せた場合ということに過ぎず、面会交流の実施が合意されてなくても、養育費の条件が決まっていなくても、構いません。韓国と違って家庭裁判所がその内容をチェックするわけではありませんので、監護者や面会交流、養育費などについて調った内容が、子の福祉に反しているかどうか、当事者以外の誰も確認することのないまま離婚が成立するようになっています。

離婚したい当事者にとっては簡便ですが、子にとっては災難としか言いようのない制度ですね。

面会交流に関する規定

제837조의2(면접교섭권) ① 자(子)를 직접 양육하지 아니하는 부모의 일방과 자(子)는 상호 면접교섭할 수 있는 권리를 가진다.
②가정법원은 자의 복리를 위하여 필요한 때에는 당사자의 청구 또는 직권에 의하여 면접교섭을 제한하거나 배제할 수 있다.

第837条の2(面会) ①者(子)を直接養育しない親の一方と、子は相互面接交渉することができる権利を有する。
家庭裁判所は、子の福祉のために必要なときは、当事者の請求又は職権により面接交渉を制限したり、排除することができる。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)

離婚後の別居親と子の面会交流を、別居親の権利であり子の権利であると、その権利性を明確にしています。面会交流は子の福祉のために必要な場合にのみ、家庭裁判所によって制限することができるとされていて、原則として面会交流は必須であることがわかります。
日本の民法では766条で「父母が協議上の離婚をするときは(略)父又は母と子との面会及びその他の交流(略)は、その協議で定める」とあるだけで、権利性については明確にしていません。
韓国で同居親が面会交流を妨害すれば韓国民法837条2にある面会交流権を侵害することになりますが、日本では面会交流を妨害しても面会交流を行うと定めた協議内容の違反程度に過ぎず、権利侵害とまで認められにくいでしょうし、そもそも面会交流について定めていなければ、合意違反にすらならない制度になっています。

日本では面会交流が別居親の権利であるという考え方はおろか、子の権利であるという考え方すら浸透していないといえるでしょう。

親権に関する規定

제909조(친권자) ①부모는 미성년자인 자의 친권자가 된다. 양자의 경우에는 양부모(養父母)가 친권자가 된다.
②친권은 부모가 혼인중인 때에는 부모가 공동으로 이를 행사한다. 그러나 부모의 의견이 일치하지 아니하는 경우에는 당사자의 청구에 의하여 가정법원이 이를 정한다.
③부모의 일방이 친권을 행사할 수 없을 때에는 다른 일방이 이를 행사한다.
④혼인외의 자가 인지된 경우와 부모가 이혼하는 경우에는 부모의 협의로 친권자를 정하여야 하고, 협의할 수 없거나 협의가 이루어지지 아니하는 경우에는 가정법원은 직권으로 또는 당사자의 청구에 따라 친권자를 지정하여야 한다. 다만, 부모의 협의가 자(子)의 복리에 반하는 경우에는 가정법원은 보정을 명하거나 직권으로 친권자를 정한다.
⑤가정법원은 혼인의 취소, 재판상 이혼 또는 인지청구의 소의 경우에는 직권으로 친권자를 정한다.
⑥가정법원은 자의 복리를 위하여 필요하다고 인정되는 경우에는 자의 4촌 이내의 친족의 청구에 의하여 정하여진 친권자를 다른 일방으로 변경할 수 있다.

第909条(親権者) ①親は未成年者の子の親権者となる。両者の場合には、養父母(養父母)が親権者となる。
②親権は父母が婚姻中のときには、親が共同でこれを行使する。しかし、親の意見が一致していない場合には、当事者の請求により家庭裁判所がこれを定める。
③親の一方が親権を行使することができないときは、他の一方がこれを行使する。
④婚姻以外の者が認知された場合と、親が離婚した場合には、親の協議で親権者を定めなければならず、協議することができない場合、または協議が行われない場合には家庭裁判所は、職権で又は当事者の請求に基づいて親権者を指定なければならない。ただし、親の協議が、子の福祉に反する場合には、家庭裁判所は、補正を命じ、又は職権で親権者を定める。
家庭裁判所は、婚姻のキャンセル、裁判上離婚または認知請求の牛の場合には、職権で親権者を定める。
家庭裁判所は、子の福祉のために必要と認められる場合には、子の4親等以内の親族の請求によって定められた親権者を他の一方に変更することができる。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)

離婚した場合の子の親権者については、協議で定めなければならないとはありますが、父母どちらか一方のみを親権者をしなければならないとは明記されておらず、要するに離婚後共同親権を許容していると言えます。
もちろん、協議によって単独親権にすることもできますので、選択的共同親権といえるかもしれません。
ただし、元々離婚後共同親権を想定していたかというと、⑥の「定められた親権者を他の一方に変更することができる」との記載を読む限り、親の一方を親権者に定める離婚後単独親権を想定していたようにも読めますので、改正前民法ではそのように規定されていたのかもしれません(どうも1990年の民法改正で共同親権が許容されるようになったようです)。

日本民法

対応する日本民法の規定はこうなっています。

第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1

日本の場合は「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない」とあり、これが離婚後単独親権の根拠法となっています。離婚後も単独親権しか選べないのは、先進国では日本以外に見られず、かなり特異な制度といえるでしょう。

婚姻中の親権行使

ちなみに婚姻中の親権行使についても日韓では面白い違いがあります。

日本ではこう書かれています。

3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

韓国ではこうです。

第909条(親権者) ②親権は父母が婚姻中のときには、親が共同でこれを行使する。しかし、親の意見が一致していない場合には、当事者の請求により家庭裁判所がこれを定める。
③親の一方が親権を行使することができないときは、他の一方がこれを行使する。

親権者が二人いる場合、意見が一致しないことも当然あるわけですから、その場合に当事者が請求すれば家庭裁判所が定めるという明文規定は当事者間の紛争を深刻化させない効果もありそうに思います。家庭内権力関係によって一方の意見が押し通されることによる不満を回避できるとかが考えられますが、もちろん、家庭裁判所に相談するという行為が文化的に敬遠されていないことが前提にはなりますが。

ただ、「親の意見が一致していない場合」の記載がある韓国民法に比べて、婚姻中にはそれが一切書かれていない日本民法は、親の意見は一致するものという前提をおいているのか、一方の親に他方の親が従属することを想定しているのか、どうにも不完全な感じはします。

親権者の権利義務に関する規定

제912조(친권 행사와 친권자 지정의 기준) ①친권을 행사함에 있어서는 자의 복리를 우선적으로 고려하여야 한다.
② 가정법원이 친권자를 지정함에 있어서는 자(子)의 복리를 우선적으로 고려하여야 한다. 이를 위하여 가정법원은 관련 분야의 전문가나 사회복지기관으로부터 자문을 받을 수 있다.

第912条(親権行使と親権者指定の基準) ①親権を行使に当たっては、子の福祉を優先的に考慮しなければならない。
家庭裁判所が親権者を指定する場合においては、子の福利を優先的に考慮しなければならない。このため家庭裁判所は、関連分野の専門家や社会福祉機関からの諮問を受けることができる。

제913조(보호, 교양의 권리의무) 친권자는 자를 보호하고 교양할 권리의무가 있다.

第913条(保護、教養の権利義務) 親権者は子を保護し、教養する権利義務がある。

제914조(거소지정권) 자는 친권자의 지정한 장소에 거주하여야 한다.

第914条(巨大所持政権) は、親権者の指定した場所に居住しなければならない。

제915조(징계권) 친권자는 그 자를 보호 또는 교양하기 위하여 필요한 징계를 할 수 있고 법원의 허가를 얻어 감화 또는 교정기관에 위탁할 수 있다.

第915条(懲戒権) 親権者は、その者を保護または培養するために必要な規律をすることができ、裁判所の許可を得て感化または校正機関に委託することができる。

제916조(자의 특유재산과 그 관리) 자가 자기의 명의로 취득한 재산은 그 특유재산으로 하고 법정대리인인 친권자가 이를 관리한다.

第916条(子の特有財産とその管理) 者が自己の名義で取得した財産は、その特有財産として法定代理人である親権者がこれを管理する。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)
日本民法

対応する日本民法の規定はこうなっています。

第八百二十条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
第八百二十一条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
第八百二十二条 親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1

韓国民法912条②が親権者指定の基準として「家庭裁判所が親権者を指定する場合においては、子の福利を優先的に考慮しなければならない」という条文を入れている以外は、概ね日韓同じような記載となっています。
韓国民法912条②についても、日本民法では、766条3の監護権者決定に際して766条1の「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」を適用するとか、819条6の親権者変更の規定に考慮される「子の利益のため必要があると認めるとき」が819条2の裁判離婚における親権者決定に際しても適用されるとかいうことで一応対応しているとは思います(まあ、明文化した方が良いとは思いますが)。

日本で昨今問題になっている懲戒権については、韓国民法内にも存在します。ただし、ただ「懲戒することができる」とある日本民法に比べればもう少し具体的に書かれています。


親権喪失に関する規定

제924조(친권상실의 선고) 부 또는 모가 친권을 남용하거나 현저한 비행 기타 친권을 행사시킬 수 없는 중대한 사유가 있는 때에는 법원은 제777조의 규정에 의한 자의 친족 또는 검사의 청구에 의하여 그 친권의 상실을 선고할 수 있다.

第924条(親権喪失の宣告) 父または母が親権を濫用し、顕著な飛行その他親権を行使することができない重大な事由があるときは、裁判所は、第777条の規定による子の親族又は検査の請求により、その親権の喪失を宣告することができる。

제925조(대리권, 재산관리권 상실의 선고) 가정법원은 법정대리인인 친권자가 부적당한 관리로 인하여 자녀의 재산을 위태롭게 한 경우에는 제777조에 따른 자녀의 친족 또는 검사의 청구에 따라 그 법률행위의 대리권과 재산관리권의 상실을 선고할 수 있다.

第925条(代理権、財産管理権の喪失の宣告) 家庭裁判所は、法定代理人である親権者が不適当な管理により、子供の財産を危険にさらすした場合には、第777条の規定による子供の親族または検査の請求に基づいて、その法律行為の代理権と財産管理権の喪失を宣告することができる。

제926조(실권회복의 선고) 전2조의 원인이 소멸한 때에는 법원은 본인 또는 제777조의 규정에 의한 친족의 청구에 의하여 실권의 회복을 선고할 수 있다.

第926条(実権回復の宣告) 前2条の原因が消滅したときは、裁判所は、本人又は第777条の規定による親族の請求によって実権の回復を宣告することができる。

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)
日本民法

対応する日本民法の規定はこうなっています。

(親権喪失の審判)
第八百三十四条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。
(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
(管理権喪失の審判)
第八百三十五条 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。
(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消し)
第八百三十六条 第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項又は前条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。
(親権又は管理権の辞任及び回復)
第八百三十七条 親権を行う父又は母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる。
2 前項の事由が消滅したときは、父又は母は、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を回復することができる。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1

日本民法には親権停止の規定がある他、日本では喪失・停止の要件において「虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」「親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされているのに対し、韓国では親権濫用・顕著な非行と要件が曖昧になっています。

少しのまとめ

植民地支配していた日本の影響が韓国民法上にも多く見られますが、それでありながら、韓国は離婚後共同親権を許容し、日本は離婚後単独親権に固執しているのは少し不思議な感じがしました。
韓国でも長く戸主制度がありイエの影響が強かったのですが、日本が戸籍単位で考えるのに対して韓国では本貫の影響が強かったためか、とにかく結果として離婚後親権を一方に定めることを明記した条文とはなりませんでした。
日本は敗戦で旧民法から大きく改正し家父長制は形式的には消滅したものの、戸主が子どもを支配するという形は維持された結果、離婚後単独親権という歪んだ制度が残ったという感じです。これに対して韓国は長く戸主制度を維持したものの民主化以降、急速にその制度を改め、離婚後共同親権を許容し面会交流を権利として明記するに至ります。

結局のところ、日本では戸主がイエを支配するという思想から抜け出ることが出来ず、ただ単に離婚に際し父親が親権者となって子どもを支配した慣習が、母親が親権者となって子どもを支配する慣習に変わっただけと言えるかも知れません。





参考:韓国の親権・監護権

*1:一応、他にも当事者双方の署名及び成年の証人2名の署名が必要とはされます(民法739条2)。