北朝鮮報道に関する疑問:박미향(パク・ミヒャン)はいつ粛清されたのか?

デイリーNKジャパン編集長の高英起氏が2018年12月15日にこういう記事を出しています。

北朝鮮の「清純派女優」はこうして金正恩に抹殺された

高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2018/12/15(土) 11:06

張成沢粛清を振り返る(5)

(抜粋)
キム・ヘギョン氏は張成沢氏の死後、政治犯収容所へ送られたという。だが、張成沢の巻き添えになって粛清された女優の中には、彼の愛人でも何でもなかった人もいる。代表的なのが、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画「ある女学生の日記」に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャン氏だ。
同作品に出演した彼女の映像を見ると、実にういういしい。このように世界的に顔を知られた女優が、一夜のうちに姿を消してしまうのが北朝鮮社会の現実なのだ。
(参考記事:【動画】北朝鮮の女子高生「タイマン」場面…映画『ある女学生の日記』)
それも、彼女には何の落ち度もないにかかわらずである。彼女が夫や幼い息子とともに政治犯収容所に送られた理由は、夫の父である前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏が、張成沢氏と近しい間柄だったというだけのことだ。
金正恩氏はそこまでして、張成沢氏の存在の痕跡を徹底的に消し去ろうとした。しかし、いくら「禁止リスト」に載せて厳しく取り締まったところで、多くの国民に親しまれた俳優たちの記憶を、社会から完全に除去することなど不可能だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20181215-00107716/

高英起氏によると北朝鮮映画「ある女学生の日記」の主演女優であるパク・ミヒャン氏が張成沢の巻き添えになって粛清されたとのこと。
2018年10月の高英起記事ではパク・ミヒャン氏の素性についてさらに具体的に記載されています。

金正恩氏はなぜ「清純派」美人女優を抹殺したのか (1/2ページ)

2018.10.7
(抜粋)
 また、張成沢氏の粛清に際しては、彼につながる外交官たちも粛清された。その中に、前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏がいる。彼の息子の嫁は、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画『ある女学生の日記』に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャンだ。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181007/soc1810070006-n2.html

このパク・ミヒャン氏粛清の件についてソースをたどっていくと、2014年3月のアジアプレス記事に行き着きます。

北朝鮮>張氏親族また銃殺か 行政職員が伝える

2014.03.31 石丸次郎
◇張氏姪の夫と女優ら三人処刑 出演映画回収命令
昨年12月に粛清処刑された張成沢(チャンソンテク)氏の親族と関係者が、また銃殺されたという情報が飛び込んできた。(石丸次郎)
情報を伝えてきたのは、北朝鮮北部に住むアジアプレスの取材協力者P氏。3月30日に電話で次のように述べた。
「元映画俳優で、張成沢の姪の夫チェ・ウンチョルと女優のキム・ヘギョン、パク・ミヒャンの三人が銃殺されたと騒ぎになっている」
この取材協力者P氏は地方都市の行政職員で、党や軍などの幹部情報に接する地位にある。P氏は、銃殺刑がいつ、どこで執行されたのか、未だ正確には不明だとしつつも、
「幹部たちに情報がもたらされたのはごく最近のこと。チェ・ウンチョルは張氏の『婿』で、映画『デホンダンの責任秘書』に出ていた。反党反革命分派だとして三人の関係した映画は、すべて回収しろと指示が降りてきて騒ぎになっている」
と述べた。
また銃殺された他の二人の女性については、
「女優のキム・ヘギョンは、張成沢が寵愛していた女だったらしい。パク・ミヒャンはモランボン楽団にいた若い娘で、張の関係した人間の孫だということだ」
とP氏は説明する。
平壌に居住していた脱北者は、処刑されたとされるチェ・ウンチョルについて、次のように話す。
「チェ・ウンチョル氏は、今、年齢が48歳ぐらいだと思う。若い女性に人気があった。共演した女優と恋愛関係にあったが、張成沢の姪と結婚したため、『金 と権力のために恋人を捨てた』と評判が良くなかった。俳優をやめて人民経済大学に入学した。その後、平壌市内のタクシーを独占運営する運輸会社の社長に なったということだ」
また、この脱北者によると、キム・ヘギョンは年齢が30代後半、「幹は根から育つ」という映画に主演した美貌の人で、多くの男性との関係があると噂の多い女優だったという。
張成沢は昨年12月に「国家転覆陰謀」の罪で処刑されたが、親戚や部下、そして系列とみなされた大勢の人々が連座して今年1月にかけて大量に粛清された。今回のP氏の情報が正しいとすれば、張氏粛清に関連する混乱がまだ続いていることになる。

http://www.asiapress.org/apn/2014/03/north-korea/post_5090/

しかし、このアジアプレス記事では「パク・ミヒャンはモランボン楽団にいた若い娘で、張の関係した人間の孫」とされています。
高英起記事では「前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏」「の息子の嫁」となっており、石丸記事と一致しません。カンヌ出典の北朝鮮映画の主演女優という情報も石丸記事にはありません。

この件をさらに調べるとおかしな事実が出てきます。

2013年8月17日(この日付が重要です)の中央日報記事です。
'한 여학생의 일기' 北 유명 여배우 사라진 이유가…

북한에서 영화 ‘한 여학생의 일기’로 인기를 끌었던 신인 여배우 박미향이 연좌제 처벌을 받는 것으로 알려졌다고 미국의 자유아시아 방송이 17일 보도했다. 처벌 이유는 박미향이 화폐 계혁 당시 숙청당한 박남기 전 노동당 계획재정부장의 친척이라는 이유라고 전해졌다.

보도에 따르면 중국에 친척 방문차 나온 한 북한 주민은 “당국이 ‘한 여학생의 일기’를 보지 말라고 지시하고, 이 영화를 녹화한 DVD까지 전부 없애라고 지시했다”면서 “이유는 영화의 주인공이 화폐개혁 때 처형된 박남기 노동당 계획재정부장의 친척이기 때문이었다”고 밝혔다.

이 북한 주민은 “배우 박미향은 원래 외무성 간부의 딸로 알려졌으며, 그의 가족은 외국에도 여러 번 다녀오고, 오빠도 외국어대학에 다니는 등 괜찮게 살던 집안이었다”면서 “하지만, 2010년쯤 북한 당국이 이 영화를 보지 말라고 지시하는 동시에 박미향도 영화무대에서 사라졌다면서 박남기 부장의 숙청과 함께 연좌제 처벌을 받았을 가능성이 크다”고 말했다.

https://news.joins.com/article/12363958

アメリカの自由アジア放送が'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)が連座制処罰を受けたと報じたとあります。日付は2013年8月17日です。
高英起記事や石丸記事で言及されているパク・ミヒャンが、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優の박미향(パク・ミヒャン)であるならば、張成沢連座して2013年8月17日に粛清されることはありえません。
なぜなら、張成沢の失脚はこの3ヶ月後の2013年12月だからです。

上記中央日報記事では、박미향(パク・ミヒャン)は、通貨改革に失敗して粛清された박남기(パク・ナムギ、朴南基)労働党計画財政部長の親戚だから粛清されたという観測を述べています。張成沢連座ではありません。
もっともこの自由アジア放送の観測も奇妙です。박남기(パク・ナムギ、朴南基)の失脚は2010年2月から3月であって金正日時代です。金正恩が権力を継承したのは2011年12月ですから、代替わりしてさらに2年近く経ってから、박남기(パク・ナムギ、朴南基)の関係者を連座させたというのはちょっと理解しがたいところです。

考えられる可能性

1.2013年8月の自由アジア放送記事が誤報で、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)が粛清されたのは2014年3月である。
2.2018年10月12月の高英起記事が誤報で、2014年3月に粛清された박미향(パク・ミヒャン)は、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優とは別人である。
3.2018年10月12月の高英起記事と2014年3月の石丸記事が誤報で、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)は2013年8月に張成沢とは無関係に既に粛清されていた。
4.'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)が表舞台に出なくなったのは別の理由で、粛清されたわけではない。

個人的には2の可能性が高いように思います。そもそも2018年10月の時点で高英起氏は、2014年3月の石丸記事も2012年8月の中央日報記事も知りうる立場にいますから、박미향(パク・ミヒャン)が同名の別人なのか、同一人物なのかをまず確認すべきでした。高英起氏はそういった最低限の確認を怠っており、情報源としての信頼性を疑わざるを得ないところです。同時に2014年3月の石丸記事が2013年8月の自由アジア放送記事での박미향(パク・ミヒャン)について別人なのかどうかを明記しておくべきだったかもしれません。

また、北朝鮮情報の多くは脱北者北朝鮮内部の協力者を情報源としていますが裏づけがほとんど取られていません。北朝鮮報道を行う限られた団体が発する情報が最初は真偽不明の疑惑として慎重に記載されていても、相互に参照されるうちに、事実であるかのようにロンダリングされることがあります。
박미향(パク・ミヒャン)粛清の件は、その事例の一つと言えるかもしれません。





[출처: 중앙일보] '한 여학생의 일기' 北 유명 여배우 사라진 이유가…

[온라인 중앙일보] 입력 2013.08.17 17:39 인쇄기사 보관함(스크랩)글자 작게글자 크게
북한에서 영화 ‘한 여학생의 일기’로 인기를 끌었던 신인 여배우 박미향이 연좌제 처벌을 받는 것으로 알려졌다고 미국의 자유아시아 방송이 17일 보도했다. 처벌 이유는 박미향이 화폐 계혁 당시 숙청당한 박남기 전 노동당 계획재정부장의 친척이라는 이유라고 전해졌다.
보도에 따르면 중국에 친척 방문차 나온 한 북한 주민은 “당국이 ‘한 여학생의 일기’를 보지 말라고 지시하고, 이 영화를 녹화한 DVD까지 전부 없애라고 지시했다”면서 “이유는 영화의 주인공이 화폐개혁 때 처형된 박남기 노동당 계획재정부장의 친척이기 때문이었다”고 밝혔다.
이 북한 주민은 “배우 박미향은 원래 외무성 간부의 딸로 알려졌으며, 그의 가족은 외국에도 여러 번 다녀오고, 오빠도 외국어대학에 다니는 등 괜찮게 살던 집안이었다”면서 “하지만, 2010년쯤 북한 당국이 이 영화를 보지 말라고 지시하는 동시에 박미향도 영화무대에서 사라졌다면서 박남기 부장의 숙청과 함께 연좌제 처벌을 받았을 가능성이 크다”고 말했다.
북한 내부에서 상영이 금지된 이 영화는 해외에서는 여전히 상영되고 있는 것으로 알려졌다.북한은 지난해 중국에서 열린 ‘북한(조선)영화상영주간’ 때 ‘한 여학생의 일기’를 비롯해 영화 5편을 무료로 돌렸고, 해외 동영상 웹사이트 유튜브에도 이 영화를 올려놓고 있다.
평양 출신 탈북자는 “북한에서 영화배우가 숙청되면 그가 출연한 영화까지도 모두 없애는데 박미향은 연좌제로 불이익을 받았기 때문에 앞으로 영화를 다시 돌릴 가능성이 있다”고 말했다고 해당 매체는 전했다.
박미향이 출연한 영화‘한 여학생의 일기’는 2006년 개봉했으며 1시간 34분 분량으로 신세대 북한 여고생이 과학 연구에 헌신하는 아버지와 그를 내조하는 어머니와 갈등을 빚다가 부모의 입장을 이해한다는 내용을 담고 있다.
김정일 국방위원장이 직접 대본 작성과 촬영 등을 직접 지도한 것으로 전해진 이 영화는 김정일이 “모든 주민이 다 보게 하라”라고 지시하면서 북한 주민 800만명이 관람하는 등 당시 북한에서 최고 인기를 누린 것으로 알려졌다.
온라인 중앙일보
[출처: 중앙일보] '한 여학생의 일기' 北 유명 여배우 사라진 이유가…

https://news.joins.com/article/12363958

「北、張成沢の姪の婿?女優ら3人また処刑」

2014年04月03日16時00分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
日本の『アジアプレス』が3日、北朝鮮北部地域の消息筋から引用して「元映画俳優で張成沢チャン・ソンテク)の姪の婿であるチェ・ウンチョルと女優キム・ヘギョン、パク・ミヒャンら3人が銃殺されたという知らせで沸き返っている」と伝えたと、ノーカットニュースが報道した。
ノーカットニュースによれば張成沢の姪の婿チェ・ウンチョルは映画『大紅湍(テホンダン)責任秘書』などさまざまな映画に出演し、キム・ヘギョンは張成沢が寵愛していた女優として知られ、パク・ミヒャンは牡丹峰モランボン)楽団に所属する若い女性で、張成沢に関係する人の孫娘と伝えられた。さらに「最近『反党反革命分子の容疑で処刑された3人が出演した映画も全て回収せよ』という指示が下った」と処刑のニュースを裏付けした。
『アジアプレス』大阪オフィスの石丸次郎代表は今回の処刑について、張成沢粛清に関する連鎖粛清第2弾が始まり、すでに粛清は終わったが映画や音楽を通じて北朝鮮住民に良く知られている作品についての整理が必要なため出演作品を消し去る作業に入ったと解説した。

https://japanese.joins.com/article/732/183732.html

北朝鮮の「清純派女優」はこうして金正恩に抹殺された

高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2018/12/15(土) 11:06

張成沢粛清を振り返る(5)

デイリーNKジャパンは最近、「コンピュータに入力してはならない電子ファイル目録」と題された北朝鮮の内部文書を入手した。2015年5月の日付が入ったもので、韓国誌・月刊朝鮮11月号はこれを、北朝鮮の体制に不都合な映像・音楽作品を取り締まるタスクフォース「109常務(サンム)」が作成したものだと断定している。
内容は視聴が禁止された映像・音楽・ソフト類のリストで、列挙されたタイトルはざっと300以上にもなる。その多くは、体制に「有害」と見なされた俳優の出演しているものだ。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)
その中には、2013年12月に処刑された金正恩朝鮮労働党委員長の叔父・張成沢チャン・ソンテク)元党行政部長の「関係者」とみなされた俳優たちの出演作が、多数含まれている。
一時は北朝鮮の権力中枢でも「実力ナンバーワン」と言われた張成沢は、複数の女優を愛人にしていたと言われる。その筆頭は、「喜び組」出身で元トップ女優のキム・ヘギョン氏だが、彼女の出世作である「幹は根から育つ」もまた、前述したリストに含まれている。
(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯)
キム・ヘギョン氏は張成沢氏の死後、政治犯収容所へ送られたという。だが、張成沢の巻き添えになって粛清された女優の中には、彼の愛人でも何でもなかった人もいる。代表的なのが、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画「ある女学生の日記」に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャン氏だ。
同作品に出演した彼女の映像を見ると、実にういういしい。このように世界的に顔を知られた女優が、一夜のうちに姿を消してしまうのが北朝鮮社会の現実なのだ。
(参考記事:【動画】北朝鮮の女子高生「タイマン」場面…映画『ある女学生の日記』)
それも、彼女には何の落ち度もないにかかわらずである。彼女が夫や幼い息子とともに政治犯収容所に送られた理由は、夫の父である前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏が、張成沢氏と近しい間柄だったというだけのことだ。
金正恩氏はそこまでして、張成沢氏の存在の痕跡を徹底的に消し去ろうとした。しかし、いくら「禁止リスト」に載せて厳しく取り締まったところで、多くの国民に親しまれた俳優たちの記憶を、社会から完全に除去することなど不可能だ。
(参考記事:【写真】北朝鮮国民的美少女・洪英姫と映画「花を売る乙女」)
そしてむしろ、金正恩氏がそのようにムキになればなるほど、権力中枢の歪んだ内実を国民に知らせることになってしまったのである。(つづく)

https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20181215-00107716/

金正恩氏はなぜ「清純派」美人女優を抹殺したのか (1/2ページ)

“暴走”北朝鮮
2018.10.7 
 北朝鮮当局は最近、国内外の音楽や映像作品70余りを「不純宣伝物」に指定し、視聴や上映、配布を禁止する措置を取ったもようだ。驚くべきは、指定された作品の相当数が、金正恩ファミリー(金王朝)や朝鮮労働党を礼賛する内容のものだということだ。
金正恩
 咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によれば、当局者はその理由について「作品に出演した俳優や歌手が、体制に不満を持ち政治的に処理されたため」と説明したという。
 禁止された作品の具体的な名前やより詳細な背景については、いずれ取材結果を交えて述べることにしたい。ともかくいま言えるのは、またもや北朝鮮芸術かたちの「受難」が始まった可能性があるということだ。
 北朝鮮では金正恩時代に入り、芸術家が粛清・処刑される事件が繰り返し起きている。
 ひとつが、金正恩氏の元妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏がかつて所属していた銀河水(ウナス)管弦楽団メンバーの虐殺事件である。李雪主氏の「異性問題」に絡み、複数の芸術団メンバーがきわめて残忍な方法で処刑されたのだが、当局はその様子を、刑場に集めた芸術関係者数千人に見せつけた。前列で見ることを強要された女性歌手らの中に、失禁しなかった者はいなかったという。
 (参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち)
 また、金正恩氏の叔父である張成沢チャン・ソンテク元朝労働党行政部長が粛清された際にも、多数の芸術家が巻き添えになった。その中には一時、北朝鮮の銀幕スターだった女優キム・ヘギョンがいる。
 (参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン--その非業の生涯)
 彼女の悲惨な運命については、脱北者平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表が詳しくレポートしている。粛清情報は太永浩氏の証言と一致する。
 また、張成沢氏の粛清に際しては、彼につながる外交官たちも粛清された。その中に、前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏がいる。彼の息子の嫁は、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画『ある女学生の日記』に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャンだ。
 (参考記事:【写真】映画『ある女学生の日記』の主演女優パク・ミヒャン)
 彼女は夫や幼い息子とともに、政治犯収容所に送られてしまったという。
 さらには北朝鮮の大人気映画で、海外でもよく知られている『洪吉童(ホンギルトン)』のヒロインも粛清された。これまた「清純派女優」であるパク・チュニは、張成沢氏の甥である張ヨンチョル元駐マレーシア大使の妻だった。彼女自身は処刑を免れたものの、収容所に送られたとも、山間僻地に追放されたとも言われている。
 (参考記事:「あまり美人に育たないで」北朝鮮の親たちが娘の将来を案じる理由)

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181007/soc1810070006-n2.html

「粛清の嵐」吹かせる金正恩(1)張成沢処刑、その時北朝鮮で起こっていたこと 石丸次郎

2015.05.22 石丸次郎

北朝鮮で粛清の嵐が止まらない。5月13日に韓国国情院が公開した人民武力部長の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)の処刑情報は世界を驚かせた。だが、金正恩 氏による高官粛清が本格化するのは、言うまでもなく2013年12月の張成沢氏の処刑からであった。張氏が殺された時、当局はどう動いたのか?民衆は、若 い指導者による「叔父殺し」をどのように受け取ったのだろうか?張成沢が粛清された直後から、アジアプレスの北朝鮮国内の取材パートナーたちからは続々と 関連情報と感想が寄せられた。粛清事件は本人の処刑で終了したわけではなかった。側近、系列とみなされた人たち、親類縁者などに対する追加の調査や、処 刑、連行、追放などの連座処罰が長期に渡って続いていたのである。現在に至るも余波が続く張成沢粛清事件。北朝鮮社会はどんな空気に包まれていたのか? (取材 ミンドルゥレ 整理 石丸次郎=リムジンガン編集部)

◆大々的な反張成沢キャンペーン
金正日亡き後の北朝鮮最大の実力者が張成沢(チャン・ソンテク)であったことには、誰も異論がなかったはずである。金正日実妹・金慶姫(キム ギョンヒ)の夫であり、70年代から労働党中枢で仕事をし、中国はじめ諸外国中枢とのパイプも太かった。また若い金正恩を傍で補佐していると見られてい た。
だからこそ、2013年12月に張成沢が粛清されたことは世界中を驚かせたのである。粛清直後、電話で北朝鮮内部の様子を知らせてくる北朝鮮のパートナーたちの声は、時に憤懣で上ずり、時に恐怖でヒソヒソとか細かった。
13年12月9日に張成沢粛清が報じられた直後から、人民班(末端の行政組織で隣組のようなもの)や職場では、たびたび集会が持たれ、当局は住民た ちに対して「張がいかに悪い奴か」を宣伝していた。不正、腐敗、横領、女性関係や麻薬使用などの放蕩、分派を作って国家転覆を陰謀していたなどが、その内 容である。
特に、張が失政や横領で国家に莫大な損失を与えたため人民生活が悪化したという宣伝が繰り返されていた。各地で国家安全保衛部(情報機関)が主催する講演がたびたび行われた。

http://www.asiapress.org/apn/2015/05/north-korea/1_97/

「粛清の嵐」吹かせる金正恩(2)張成沢親族と関連者の処刑続く 有名俳優も 石丸次郎

2015.05.26 石丸次郎
2013年12月、張成沢が粛清された直後から、アジアプレスの北朝鮮国内の取材パートナーたちからは続々と関連情報が寄せられた。粛清事件は本人の処刑 で終了したわけではなかった。側近、系列とみなされた人たち、親類縁者などに対する追加の調査や、処刑、連行、追放などの連座処罰が長期に渡って続いてい たのである。現在に至るも余波に揺れる張成沢粛清事件。北朝鮮社会はどんな空気に包まれていたのか?(取材 ミンドルゥレ 整理 石丸次郎=リムジンガン 編集部)
「粛清の嵐」吹かせる金正恩. 記事一覧
◆張の親族ら3人の処刑 元有名俳優も 
14年の春になっても粛清の情報は続々届けられた。3月末、咸鏡北道に住む、党や軍などの幹部情報に接する地位にある取材協力者は電話で次のように伝えてきた。
「元映画俳優で、張成沢の姪の夫チェ・ウンチョルと女優のキム・ヘギョン、パク・ミヒャンの3人が銃殺されたと騒ぎになっている。反党反革命宗派分 子だとして3人の関係した映画は、すべて回収しろと指示が降りてきた。女優のキム・ヘギョンは、張成沢が寵愛していた女だったらしい。パク・ミヒャンはモ ランボン楽団にいた若い娘で、張成沢が関係した人間の孫だということだ」。
銃殺刑がいつ、どこで執行されたのか、未だ正確には不明だとしつつも、幹部たちに情報がもたらされたのはごく最近のことだったという。
リムジンガン編集部のメンバーで平壌に居住していた脱北者のペク・チャンリョンは、処刑されたとされる元俳優のチェ・ウンチョルらについて記憶していた。

http://www.asiapress.org/apn/2015/05/north-korea/2_118/