日韓問題に関するいくつかの論点を簡単に説明してみる

火器管制レーダー照射疑惑

日本政府側が確たる証拠を示しておらず、公表ベースで見る限り、韓国駆逐艦から日本哨戒機に対して火器管制レーダーが照射されたとは断定できない。
外交的には実務者ベースで協議して終了程度の疑惑だが、日本政府が拙速に事件だと公表したことで外交問題化。
韓国政府側は日本側の主張内容に対して同意しなかったが、それ以外に特に積極的に外交問題化させようとする行動はなかった。

日本哨戒機による低空飛行

韓国政府側からレーダー画面が証拠として提示されており、事実と見て間違いない。日本政府側は否定しているが、反論も反証もしていない。
150mは低空じゃないとか言っている人もいるが、都内で問題になっている羽田空港新ルートはもっと高い。
ま、低空飛行自体は、個人的には問題だとは思わないが、日本側がその事実すら否定したのは日本側発表の信頼性を損なったと思うし、韓国側も不信感を抱いたと思う。

徴用工訴訟韓国大法院判決

2012年5月の大法院による差戻と同じ論理であり、同訴訟を追っていれば、大法院判決の日時*1も判決の内容も十分に予想できた。
日本のメディアは事前に政府からレクチャーがあったかのごとく、同じ論調で同判決を非難する内容で報じた。
個人請求権が残っていることについては日本も同じ見解をとっていることについて報じたが、既に韓国での判決に批判的な世論が形成された後で、報道量も極めて限定的だった。

三権分立の原則から韓国行政府が直接的に司法判断を否定する言動が出来ないのは常識なのに、日本では韓国行政府を非難する論調が溢れた。
大法院判決は1965年請求権協定を否定したのではなく、賠償は同協定の範囲外だ、と解釈した。

日本の司法が日本国内の訴訟に際して請求権協定の解釈を行ったように、韓国の司法も韓国国内の訴訟に際して当然の解釈権を行使したに過ぎないので、これ自体が請求権協定違反や国際法違反だという主張は成立しない。少なくとも日本側の一方的な主張にすぎず、韓国側にそれを受け入れる義務はない。

請求権協定に沿った協議や仲裁委員会は、やるべきだと思うので韓国政府が応じていないことについては賛同できない。
但し、日本側の協議要求も、違反だと決め付けた上での要求で協議の申し入れというには逸脱しているとは思うし、過去に韓国政府が協議要求した際に、日本側が無視したという経緯もあって、韓国政府のみを責めることもできない。

解決手段としては両国企業出資の財団を仲介した解決が適切だと思うが、日本側が感情的になりすぎている現状では日本の国民情緒が受け入れないと思う。

大法院判決で敗訴が当然予想されていたので、判決以前に和解して解決するのは外交的には最善の策だったし、日本企業もそれに応じる意向だったが、安倍政権が介入して和解を拒否させている。安倍政権は代案も何も無く、ただ無為に大法院判決に突入させた挙句、当然の敗訴となって、外交が混乱した。

日本側の態度は、当然の注意を受けたチンピラが逆ギレして注意した相手に対して頭を丸めて素っ裸で土下座するよう要求しているに等しい。そのような理不尽な要求を相手が呑むわけも無く、その結果として外交問題となっている。

観艦式での旭日旗掲揚問題

軍艦旗掲揚は大臣訓令レベルで対応できるもので、日本側がその気になれば簡単に対応できた。
旭日旗が日本極右、排外主義、特に嫌韓煽動のアイコンに使われてきたのは事実で、韓国側が感情的に受け入れがたいのも当然と言える経緯がある。
韓国側が通知した要望は「自国の国旗と韓国国旗をマストに掲揚する」及び「艦首及び艦尾の旗は掲げない」という点で、明示的に旭日旗の掲揚を禁止したわけではないが、自衛隊の規則では艦首か艦尾に旭日旗を掲揚となっているので、「艦首及び艦尾の旗は掲げない」という要望が実質的に旭日旗を掲揚しないように求める要望と言える。
日本側としては、訓令を変えて旭日旗を艦首艦尾ではなくメインマストに掲揚することもできなくはないが、それで訓令を変えるなら旭日旗ではなく日章旗掲揚に変えることもできるでしょ、くらいの韓国側の意はあったかもしれない。
韓国側の通知に対して、インド以外はちゃんと要望どおりの対応をしていた。

日本側としては対応策がいくつかあり、1)訓令で観艦式では国旗を掲揚することにして韓国側の要望にしたがう、2)要望に無視して旭日旗を掲揚して参加する、3)“要望にしたがい”メインマストに韓国国旗と日章旗を掲げ、同時に旭日旗も掲揚して参加する、4)理由を明示せず不参加、などがある。
観艦式の趣旨に沿った最善の対応は1)だが、対韓優越感に満ちた安倍政権にはその選択ができなかった。2)や3)は物議を醸しただろうが、政府レベルで言及しなければ、外交問題としては一過性のもので終わったと思う。4)も現実的で、“国内的な事情”といった曖昧な理由で参加しないことは他国でも珍しくはない。
だが、安倍政権の選択は、5)旭日旗掲揚禁止を要求されたと公表して外交問題化させた挙句に不参加、という外交上はおよそ最悪の選択肢を採っている。

なお「帥」旗の掲揚は、韓国側の通知「自国の国旗と韓国国旗をマストに掲揚する」及び「艦首及び艦尾の旗は掲げない」には違反しない。

韓国政府は要望は出したものの、日本側の対応に対して特に非難することもなく穏便にすませている。

ソウルの日本大使館前の少女像

判例を踏まえると、少なくとも韓国司法が少女像をウィーン大使館条約違反とみなすことは考えにくい。また、米英での判例も少女像をウィーン大使館条約違反とみなすことは考えられず、仮に国際司法裁判所(ICJ)に訴えたとしても、日本側の主張が通る可能性は極めて低い。
ウィーン大使館条約についてはICJの強制管轄権を認める条項があり、日本も韓国もそれを批准しているので、日本側がウィーン大使館条約違反としてICJに提訴したら韓国は応じなければならない。(領土問題と区別できずに、日本が提訴しても韓国が応じなければ裁判にならないと誤解している人が多いが)

日韓政府間合意でも、韓国政府に少女像を撤去・移転する義務が課されたわけではない。少女像を撤去・移転せよという日本側の主張は合意に無い要求にすぎない。
裏合意でも、韓国政府は少女像を撤去・移転する義務を認めていない。

道路法上の許可を得ずに設置したのが違法とも言えない。設置団体は事前に役所に届け出ており口頭では許可を得ていたが、正式な許可がいつまで経っても下りなかったが、この場合、行政側が不当に遅延させたともいえ、こちらの方が違法性が高い。なお、この行政の許可の遅延は、武藤在韓日本大使(当時)が裏で圧力をかけた結果とのこと。

慰安婦財団解散

財団理事は、日本の拠出金10億円は少女像撤去とバーターではないと韓国世論に向けて訴えていたが、日本側が10億円と少女像撤去がバーターだとする虚偽の主張を繰り返したため、韓国世論との間に板ばさみになり辞任に追い込まれた。
財団理事が辞任し、後任が選出できなくなったため、財団は機能停止してしまい、希望する元慰安婦等にたいする支給業務も動かなくなった。
韓国政府は、日本政府に協議を要求したが、日本政府は拒絶し、日本の世論は“韓国政府はとっとと元慰安婦等に金を押し付け黙らせろ”というものに集約していった。

財団理事不在により業務遂行ができない財団を維持している意味はなく、財団解散に問題があるとは言えない。それとも財団の名称のみ書類上で残しておけば、日本は満足したかと言えばそんなことも考えられない。
なお、日韓政府間合意では、財団を設置する義務が韓国側に課されているが解散を禁止してもいない。
既に機能が停止し、日本側も協議に応じない状況を踏まえれば、財団解散が合意の趣旨に反しているとも言えない。

財団の機能停止によって申請したが受給できていない元慰安婦らに対しては精算処理や韓国政府予算などで代替の支援を行うべきだと思う。

ちなみに、ただ金だけ支給する支援というのは、元慰安婦らの高齢化という要因もあって、日本の成年後見人制度のような問題も起こっている。受給資格のある元慰安婦の親族が口座を管理し支給された金額を着服するような事例があるとのこと。

日本が韓国をホワイト国から除外

誰がどう見ても、日本政府による徴用工問題の報復としての輸出規制で、日本側から一方的に仕掛けた貿易戦争。
「輸出管理」であって規制や禁輸ではないというのはレトリックでしかない。だいたい、そのような政府公式見解のみを絶対視するのなら、2010年の中国によるレアアースの禁輸さえ、厳密には禁輸ではないと説明しなければならない。
韓国政府は再三にわたって歴史問題を貿易問題に持ち込まないように求めたが、日本政府はこれを無視した。
日本のメディアは当初こそ日本政府による対韓報復措置を批判的に報じたが、徐々に腰砕けになって、現在は韓国批判を優先するか、どっちもどっちと日和った態度になっている。

韓国が日本から輸入したフッ化水素を第三国に横流ししたという流言があるが、日本政府は「輸出管理」の理由である“不適切事案”は韓国から第三国への輸出ではないとその流言を否定している。

“手続きが煩雑にはなるが輸出を許可しないわけではない”という主張は日本国内向けには通用するが、韓国企業には通用しない。1~2ヵ月で以前と同様の輸出量に戻ったとしても、企業側からすれば、いつ規制されるかわからないというリスクがある状況に代わりはなく、仮に文政権が倒れたとしても、代替調達先を探す動きは止まらない。
日本側が“禁輸ではない”という言い訳のために輸出が継続している状況は、代替調達先を探す韓国企業にとってはむしろカンフル剤として機能していて、貿易戦争としてはまるっきり逆効果で日本離れするための準備期間を与えているに等しい。

日韓GSOMIA終了

他の動きがあるんじゃないかと見ているので基本的には様子見。

一応、米国が不満なのは確かだろうが、これで米韓関係がおかしくなるとか、まして米国が韓国を見捨てるとかはまずない。米国にとっては朝鮮戦争で多大な犠牲を払って守った民主主義の砦。日韓間の協定を韓国が終了させたからと言って韓国を放棄したらトランプ政権が米国民から叩かれる。断交を歓迎する異常な興奮状態の日本と米国世論が同じとかありえない。


まとめ

全体として、韓国文政権側から積極的に日本側と対立しようとした意図はあまり感じられない。というより、当初よりツートラックと言って歴史問題と外交を切り離した対応を主張していて、歴史問題が解決しなくても、それはそれとして外交は緊密にやっていこうという融和的な態度を示していた。

実務者同士の協議で解決できたであろう火器管制レーダー照射疑惑では、日本政府が積極的に外交問題化させた。
徴用工訴訟では、大法院判決前に被告企業が和解するのに任せておけばいいものを、日本政府が介入して和解を拒絶させた。
慰安婦問題に関する日韓合意では、日本政府が率先して10億円と少女像がバーターであるという裏合意を積極的に示唆して、韓国国内の反対を煽った。

そして、徴用工問題で、韓国政府が三権分立を犯して司法判断を否定し日本企業を免罪しなかったことに腹を立てた日本政府がフッ化水素などの輸出規制を強行した。

どれも、安倍政権の火遊びが原因にしか見えないんですよね・・・。

ちなみに、ここには挙げませんでしたが、軍艦島などの産業遺産の登録に際して、朝鮮人強制連行の史実についても説明するという約束しておきながら反故にした件とか、平昌五輪を利用して南北関係改善を図る文政権外交を一貫して妨害してきた件*2とか、韓国側から反感買って当然のことを安倍政権は何度もやらかしています。

とまあ、ここまで言っても、どうせ嫌韓バカには理解できないし、嫌韓に狂った日本の世論も変わらないでしょうけどね。



*1:裁判では判決日が事前に知らされるのが普通。

*2:安倍政権に拉致問題を解決する意思がないのは明らかですが、南北・米朝交渉に拉致問題をねじ込み、交渉を頓挫させようと繰り返してきました。