韓国の大統領権限は強いというけれど・・・。
こんな記事がありまして。
韓国大統領が米国大統領よりも「広範囲な権限」を持つ理由(10/2(水) 16:00配信 NEWS ポストセブン)
あと、ちょっと前ですが、こういう増田もありました。
2019-09-10
■はてサは日本の民主主義を疑うのに韓国の民主主義を疑わないのがわからん。安倍自民党をあれだけ嫌い、言論封鎖だとか安倍や自民党だけでなく自民党支持者を揶揄したりだとか日本は終わっただとか民主主義じゃないとあれだけ騒ぐのに
https://anond.hatelabo.jp/20190910195553
韓国の大統領全権、司法も行政も立法も支配でき、軍隊も完全に掌握してるほどの全権があり検察でさえ自由にでき、それこそ国民世論が操作されてないことすら疑わず
徴用工や慰安婦を偏重し、韓国政治ふくめて韓国の民主主義が理想的であるかのように暗黙に肯定してるのがほんとわからん。
韓国の民主主義は異常だ。選挙はあるだろうが、選挙に勝ちさえすれば大韓民国の王も同じほどの権力が得られあらるゆことが意のままになる。
そんな制度が民主主義だというなら、なぜ日本の安倍自民党も同じような民主主義だと認められないのかわからん。
「韓国の大統領全権、司法も行政も立法も支配でき、軍隊も完全に掌握してるほどの全権があり検察でさえ自由にでき」の部分。
韓国は大統領権限が強いというのは巷間よく流布されていますし、それ自体が間違っているわけでもないとは思いますが、個別具体的に日本首相の権限と比較するとモヤる部分も多々あります。
司法
韓国大統領は大法院(最高裁)の院長を任命できますが、国会の同意が必要です。また、大法官は大法院長の提請と国会の同意を得た上でないと任命できません(憲法104条)。
韓国大統領には、9人いる憲法裁判所裁判官を任命する権限がありますが、うち3名は国会が選出した者、別の3名は大法院長が指名した者を任命することになっていますので、大統領が自由に任命できるのは残る3名のみです。韓国大統領には、9人の憲法裁判所裁判官のうちから裁判長を任命することができますが、それには国会の同意が必要です(憲法111条)。
大法院長、大法官、憲法裁判所裁判長、憲法裁判所裁判官、いずれも任命にあたって人事聴聞会の対象とされています。
これに対して日本の場合、内閣だけで最高裁判所長官を指名でき(任命は天皇(憲法6条))、他の最高裁判所裁判官も内閣だけで任命できます(憲法79条)。
内閣が最高裁長官や裁判官を指名・任命するにあたって、国会の同意も人事聴聞会も必要とはされていません。
司法トップの任命権という点では、韓国大統領よりも日本首相の方が強い権限を持っていると言えそうです。
行政
韓国大統領は国務総理を任命することができますが、国会の同意が必要です(憲法86条)。
国務委員は国務総理の提請があれば大統領が任命でき、国会の同意を必要としません(憲法87条)。しかし、国務総理も国務委員も人事聴聞会の対象となっています(国会法65条の2)。
これに対して日本の場合、首相が国務大臣を任命する上で国会の同意も人事聴聞会も不要です(憲法68条)。
大臣候補がどれほどの疑惑を抱えていようと、素質・能力に問題があろうと、韓国と違って日本では任命前に追及することはできませんし、任命後も国会会期中で無ければ野党議員には追及する場がありません。
行政府の大臣の任命権という点でも、韓国大統領よりも日本首相の方が強い権限を持っていると言えそうです。
立法
韓国の国会は一院制ですが解散がありません。そのため、大統領にも国会を解散する権限はありません。逆に国会には国務総理や国務委員の解任を大統領に提案する権限があり(憲法63条)、大統領を含む閣僚や裁判官などに対する弾劾訴追をする権限も有しています(憲法65条)。
これに対して日本の国会は二院制で参議院には解散がありませんが、衆議院には解散があり、首相には衆議院を好きな時に解散する権限があります(七条解散*1)。
衆議院は参議院に優先しますので、首相が衆議院解散の権限を持っていることは、立法府に対して非常に強い権限を有しているといえます。
衆議院には内閣不信任案を議決する権限がありますが、韓国と違って日本の首相には不信任案に対して衆議院を解散する権限があります(憲法69条)。
また、日本では弾劾の対象は裁判官のみで首相や内閣は憲法上対象となっていません。
七条解散を除けば、大統領制と議院内閣制の違いとも言えますが、立法府に対する権限という点で、日本首相の権限は韓国大統領に引けはとらないくらい強力だとは言えるでしょう。
検察
韓国では検事総長は国務会議の審議を経て任命できます(憲法89条)が、これも人事聴聞会の対象となっています。
日本でも検事総長は内閣により任免されます(認証は天皇)(検察庁法15条)。韓国と違い人事聴聞会などの対象ではありません。
任期
韓国大統領の任期は1期5年、再選は禁止されています。
一方の日本では首相の任期は最長4年です(憲法70条、憲法45条)が再任禁止の規定は無く、無制限に首相を続けることが可能です。
韓国大統領の残り任期が少なくなるとレームダック化する大きな要因とされるのが、この再選禁止規定です。
外交
冒頭ポストセブン記事では「条約締結権も米国では上院の助言と同意で行なわれ、大統領には権限がない」のに、韓国大統領には条約締結権があると書かれています。
確かに韓国憲法73条は大統領に条約締結権を認めていますが、同時に60条で、相互援助や安全保障に関する条約、重要な国際組織に関する条約、友好通商航海条約、主権の制約に関する条約、講和条約、国家や国民に重大な財政的負担を負わせる条約又は立法事項に関する条約の締結・批准の同意権を国会に与えています。
日本国憲法が条約締結権を内閣に与え、承認権を国会に与えているのと大きな違いがあるとも思えません。
韓国大統領は宣戦布告や派兵の権限も有していますが、これもやはり憲法60条で国会に同意権を与えています。
憲法改正発議
日本国憲法が改正の発議を国会にのみ与えているのに対し、韓国憲法では国会と大統領に発議権を与えています(128条)。この辺は韓国大統領の権限の方が強いともいえるかも知れませんね。ただし、大統領任期延長などの憲法改正については発議当時の大統領に対して効力を有さないとも定められていて(128条2)、大統領が自分の任期を伸ばすための憲法改正は出来ないことになっています。
その辺は、自民党総裁の再選規定とは全く違いますね。
まとめ
もちろん大統領特有の権限などもあり全体として比較すればまた違うとは思います。
そもそも大統領制と議院内閣制の違いもあり、一概に比較しにくいところもあります。
それでもまあ、自分の国の制度とはどういう風に異なっているのかを並べてみることで、多少は見え方も変わるかも知れないと思い、書いておきます。
*1:この解釈については法的には異論ありますが、実際に行使されていますので、ここでは権限があるとしておきます。