離婚後共同親権に関する言説についてリベラルとして思うこと

離婚後共同親権賛成派*1のなかには極右に親和性の高い人がいるのは承知しています。
離婚後共同親権賛成派のなかには酷い発言している人がいるのも承知しています。
離婚後共同親権反対派には左派に親和性の高い人がいるのも承知しています。

そして

離婚後共同親権反対派のなかにも酷い発言している人がいるのも承知しています。

離婚後共同親権賛成派に対して“子どもを連れ去られて当然のDV夫”だとレッテルを貼って侮辱しているツイートなんてごまんとあります。
DV被害者本人がそういうツイートをするのなら、まだ理解できますし、共感できるところもあります。
しかし、当事者本人ではない弁護士や学者らが、そういう侮辱に加担していることに対しては全く理解できません。

離婚後共同親権賛成派の発言内容が攻撃的だと批判する人もいます。
しかし、性暴力被害者の訴えに対して“攻撃的だから共感されない”だと批判することを、トーン・ポリシングだと批判してきたのではありませんか?

離婚後共同親権賛成派であっても当事者でない者が攻撃的な発言をするのには、私も賛同できません。
しかし、子どもと不当に引き離された当事者本人が攻撃的な発言をしたとしても、私には性暴力被害者本人の訴えと同様、それを攻撃的だと批判する気にはなれません。

それはトーン・ポリシングだと考えるからです。

離婚後共同親権賛成派には当事者以外もいますが当事者も少なくありません(当たり前ですが)。

妻に子どもを連れ去られ子どもと会えなくなった(あるいは著しく制限された)夫もいますが、夫に子どもを奪われ子どもと会えなくなった(あるいは著しく制限された)妻もいます。
実際に深刻なDVを妻に加えた結果として妻子が夫から避難したケースもあるでしょうが、DVも虐待もないのにある日突然妻子が失踪したケースもあります。あるいは妻から深刻なDVを受けて追い出された夫もいます。
同様に、夫から深刻なDVを受けて追い出され子どもを会えなくなった妻もいますし、深刻なDVを夫に加える妻から父子が避難したケースもあるでしょう。その他にも様々な形態があり多様です。

決して、深刻なDVを妻に加えた結果として妻子が夫から避難したケースばかりではありません。
例えば、夫から深刻なDVを受けて追い出され子どもを会えなくなった妻などは、DVの被害者であり、子どもと引き離された別居親でもあります。こうした別居親女性は、誰がどう見ても被害者なはずですが、千田有紀氏はその存在を無視し、EoH-GS氏は「どうでもいい」*2と言い放っています。

強調しておきたいのは、離婚後共同親権賛成派のなかにはDV加害者もおそらく存在する一方で、DV被害者も存在するということです。

離婚後共同親権反対派による“子どもと引き離された当事者は当人にDVなどの問題があるから”という主旨の発言も多く見かけますが、そういった発言が上記のようなDV被害者の別居親にどれほどの苦痛を与えるのか、リベラルな人たちに是非考えてもらいたいです。

配偶者からDV被害を受け、子どもと引き離されるという苦痛を受けた挙句に、DV問題に取り組んでいる人たちからDV加害者呼ばわりされ侮辱されるんですよ。

慰安婦等の戦時性暴力被害者に対して“金目当ての自発的売春婦”呼ばわりすることが二次加害だとわかる人たちなら、上記も深刻な二次加害だとわかるはずです。

それとも、離婚後共同親権賛成派のなかにはDV加害者もいるのだから、DV被害者の別居親も離婚後共同親権に賛成する以上、その責任をとってDV加害者呼ばわりされても受け入れろということでしょうか?
それは既にリベラルの考え方ではないと思いますよ。


私自身は南京事件を否定したり慰安婦問題を否認したりする歴史修正主義者らに対しては容赦する必要は無いと思っています。それは歴史修正主義者たちは南京事件慰安婦問題によって何ら被害を受けることがなく、被害者足り得ないからです*3

しかし、この問題の当事者は違います。DV被害者の別居親のような被害者が確かに存在するのであって主張内容に反論するにしても、被害者の名誉を損なうような反論をすべきではありません。
離婚後共同親権に反対であっても、賛成派のなかにDV被害者もいることを踏まえた上で、被害者の尊厳を損なうことない丁寧な反論をすべきです。

それでも離婚後共同親権賛成派の発言に怒りを覚えることもあるかもしれません。

しかし、別居親の自助支援団体はせいぜい10年前に出来た程度であり、それまで彼等は沈黙を強いられてきました。アメリカが共同親権を導入してから40年経ちますが、日本は圧倒的に立ち遅れています。
私は「クレイマークレイマー」の映画は知っていても共同親権に関わる問題は10年前のハーグ条約締結是非関連の話題が出るまで知りませんでした。私の耳は別居親の声を拾っていなかったのです。
別居親の団体ができてからの10年、私たちは彼等の声をちゃんと聞こうとしたでしょうか?
それをろくに聞きもしなかった私たちに、彼等の発言を挑発的だ攻撃的だといって非難する資格はあるのでしょうか?

繰り返しますが、それこそトーン・ポリシングではありませんか?

この問題は複雑で多様であり、被害者は同居親女性だけではなく、別居親女性や別居親男性、同居親男性であることもあるのです(もちろん子どもが被害者であることも)。

どうか、全ての被害者に対して尊厳をもって接してほしいと思います。

それが出来てこそのリベラルでしょう。



*1:ここでいう離婚後共同親権賛成派には、共同親権に限らず共同養育や面会交流の充実など別居親と子の関係を維持・発展させる制度の構築を求める人たちを含みます。また、離婚後共同親権反対派はそれに反対する人たちを指します。以下同じ。

*2:http://scopedog.hatenablog.com/entry/20161031/1478019853

*3:“日本人としての名誉が傷つけられた”という主張もありますが、お門違いである上に被害というもバカバカしい取るに足らないものです。歴史問題に関連してヘイトクライムを受けたのであっても、ヘイトクライムとして告発すべきであって歴史修正主義を是認する理由にはなりません。