国際保健規則を踏まえずにWHOを非難してる記事にはろくなものがない

文春らしいひどい記事の件。
新型肺炎で「1000万人の犠牲」も覚悟か? WHOを恫喝した習近平の“非情な思惑”(2/4(火) 17:00配信 文春オンライン)

この中で文春はこんなことを言っている。

 WHOの緊急事態宣言は中国経済にとって一定の打撃にはなるが、各国政府や企業から資金や物資など支援が拡大する効果も期待できる。それでも中国が、WHOの緊急事態宣言を忌避した本当の理由は以下の通りだ。
 緊急事態が宣言されると、WHO加盟国は感染者が出た場合に24時間以内の通告を義務付けられ、空港や港での検疫強化や渡航制限といった水際対策の徹底を求められる。それは中国が一定程度、国連(WHO)ひいては米国のコントロール下に置かれることを意味する。また、感染者発生の情報を24時間以内に通告する義務を負えば、「内外に対する情報コントロール」というツールが失われる。このことは、共産党独裁政権にとっては痛手となる。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200204-00031532-bunshun-int&p=3

文春福山隆氏は、「緊急事態が宣言されると、WHO加盟国は感染者が出た場合に24時間以内の通告を義務付けられ」と書いていますが、まずこれがおかしい。

国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成するおそれのある事象を検知した際に24時間以内にWHOに通報せよというのは、国際保健規則第6条に規定されており*1、WHOが緊急事態宣言を出すかどうか無関係に、WHO加盟国に義務付けられています。
そして、中国は国際的な緊急事態宣言以前に既に日々確認された感染者数を報告しています。

また、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が宣言されたら、「空港や港での検疫強化や渡航制限といった水際対策の徹底を求められる」というのも文春福山隆氏のウソです。
例えば、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に際してWHOが行う暫定的勧告の規定が国際保健規則第15条にありますが、その第2項に「暫定的勧告には、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の発生した参加国又は他の参加国が疾病の国際的拡大を防止又は削減し国際交通に対する不要な阻害を回避するために人、手荷物、貨物、コンテナ、輸送機関、物品及び/又は郵送小包に関して実施する保健上の措置を含めることができる。」とあります。
「国際交通に対する不要な阻害を回避するために」とあるように、WHOは渡航制限のような国際交通の阻害に慎重です。
第16条の恒常的勧告でも「国際交通に対する不要な阻害を回避するため」という文言があります。

WHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態で重視しているのは、医療レベルの低い国への感染の拡大をいかに防止するかであって、先進国が我が身大事に国を閉ざすことを推奨などはしていません。
国際保健規則第13条第3項~第5項にこうあります。

3. WHOは、参加国からの要請がある場合には、必要に応じて現 地支援のために国際専門家チームを動員することを含め、技術的な指針並びに援助を提供し及び実施される管理上の措置の効果を アセスメント することを通じて、公衆衛生 リスク その他の事象に対する対策で協働するものとする。
4. WHOは、第十二条の規定に従い関係参加国と協議した上で国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が発生していると認定する場合には、本条第三項に規定する支援に加え、国際的な リスク の重大性及び管理上の措置の十分性についての アセスメント を含む追加的援助を当該参加国に提供することができる。かかる協働には、国内権限 当局が実地 アセスメント を行い且つ調整するのを支援するための国際援助の動員の申し出を含めることができる。また、参加国から要請があった場合には、 WHOは前記の申し出を裏付ける情報を提供するものとする。
5. 参加国は、 WHOから要請があった場合には、可能な範囲で、 WHOが調整する対策活動を支援することが望ましい。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

渡航制限を不必要に強化すると、こういった感染症に弱い国への支援活動自体が制限を受けてしまうため、WHOは渡航制限には慎重なのであって、これを中国の陰謀呼ばわりしている先進国の論者は、正直いって恥を知るべきだと思います。

WHOを非難している記事や論者で、国際保健規則をちゃんと参照しているものが全く見当たらないのはどういうわけなのかと心底呆れます。