他の国も売春婦を雇っていた?

従軍慰安婦問題について書いていると「他の国も売春婦を雇っていた!」とドヤ顔でコメントしてくる人がいます。
そして日本以外の慰安婦について書いたウヨサイトを提示してきて、「ネットde真実」を知った、的な態度を取るわけですが、吉見氏の「従軍慰安婦」には、「軍隊に慰安婦はつきものか -各国軍隊の場合」という題で、イギリス軍、アメリカ軍、ソ連軍、ドイツ軍の慰安所に書かれています。
その上で以下のように書いています(P204-205)。

 (略)
 以上の例からすると、アメリカ軍、イギリス軍に、ともに専用慰安所設置またはその試みがあったことがわかる。ほとんどがすぐに閉鎖されているが、それは本国の反発をおそれたためだった。社会運動・世論・議会など女性の人権を擁護する声がないかぎり、軍隊そのものが慰安所類似の施設を生み出していくという傾向がうかがわれる。この点では、日本が特殊だったということはできない。
 重要な問題は、女性の強制連行・強制使役、未成年者の使役などがあったかどうかであり、また問題が明らかになったとき、その閉鎖命令を出したかどうか、という点である。これらは今後の研究で明らかにされていくだろう。しかし、何より軍の中央が計画し、推進したという点で、イギリス軍やアメリカ軍と日本軍では、決定的に異なっていた。(略)

もちろん、敗戦直後の特殊慰安施設協会(RAA)についても吉見氏「従軍慰安婦」のなかに書かれていますし(P194-202)、千田夏光氏の「従軍慰安婦」(1973年)でもRAAには触れられています。他の国でも、軍隊が売春婦とかかわりが深いことは当然の事実として書かれており、その上で軍中央が計画推進したという点で日本とドイツの特殊性について指摘しているわけです。
これらの記述はまともな研究者はネトウヨのように都合のいい部分のつまみ食いなどしないという証左でもあります。

また、「ネットde真実」の人たちがいかに不勉強かを物語っていますし、同時に基本書である吉見氏の「従軍慰安婦」を読むように薦められても、頑として断り続ける否定派の頑迷さがいかに呆れたものかを改めて感じされてもくれます。


ちなみに従軍慰安婦問題を考えるとき、重要なのは、日本軍慰安婦制度の特殊性だけではなく、軍隊の活動というものが本質的に人権侵害を伴い、それが女性に対しては売春を強要するという形で作用するという点です。
吉見氏は「従軍慰安婦」の終章で次のように述べています。

 複合的人権侵害
 (略)
 まず第一に、軍隊が女性を継続的に拘束し、軍人がそうと意識しないで輪姦するという、女性に対する暴力の組織化であり、女性に対する重大な人権侵害であった。(略)
 第二に、人種差別・民族差別であった。例外があったとはいえ、日本人慰安婦はおおむね成年の売春婦にかぎられていたのに対し、他のアジア人の慰安婦(植民地・占領地の女性)の大多数は未成年者であるか、成年であっても売春婦ではなかった。この背景として、日本の男性社会にアジア人女性に対する性的蔑視意識が広くあったことを見逃すわけにはいかない。(略)
 第三に、経済的階層差別であった。慰安婦として徴集された女性たちの多くは、オランダ人女性を別にすれば、日本人、植民地の女性、占領地の女性を問わず、いずれも経済的に貧しく、学校教育を満足に受けていない女性たちであった。売春婦出身の日本人慰安婦も、家庭が経済的に困窮していたために、慰安婦となる以前に、未成年の時に親に売られ、あるいは親を救うために苦界に身を沈めていた。だまされて、あるいは強制的に慰安婦にされた植民地・占領地の女性たちの場合も、日本軍はその貧困につけこんで、「性的慰安」を強制したのである。
 第四に、国際法違反行為であり、戦争犯罪であった。朝鮮・台湾、そして中国・東南アジア・太平洋地域の女性の場合、未成年者を連行したり、債務奴隷状態にしたり、だましたり、強制的に連行したりした事例、および慰安所で強制的に使役した事例がいかに多かったかは、すでにみたとおりである。
 従軍慰安婦問題とは、以上のような複合的な人権侵害事件であった。そして、これが決して偶発的なものでなく、国家自身が推進した政策であったところに問題の深刻さがあった。