遺産相続の法的問題から見る尊厳死

尊厳死」というのも何だか定義が曖昧なような気がしますので、単純に賛否を表せないのですが、自分としてはもし法制化するならば、っていう案はあります。

患者の病気に回復の見込みがなく、延命治療が無ければ生存できず、かつ意思の疎通が不可能と医師が判断した時点から、一定期間経過後までその状況が継続した場合、裁判所は全ての法定相続人が延命治療の継続を望んでいないことを確認した上で、患者の延命治療を停止するよう医師に命じなければならない。なお、死亡日時は裁判所が治療停止を命じた日とする。

要するに、意思の疎通が出来ている間は単純に自殺の協力はしない、医学的判断・処置は医師が下すが生死にかかわる判断は裁判所が下す、記録上の死亡日時も裁判所が決定し患者や医師に決めさせない、という案です。全てに法定相続人が延命継続を希望しない条件については以下のような意図です。

遺産相続の関係から延命治療停止の有無を論じているのを見た覚えがないので、特に書いてみました。

法定相続人の反対がないことを裁判所が確認するべきとする意図

以下のモデルケースを考えます。

サザエさん
・マスオさん(サザエさんの夫)
・タラオくん(サザエさんとマスオさんの子)
・カツオくん(サザエさんの弟)

サザエさん名義の財産が1000万円あり、上記以外の存命の家族・親族はいないものとします。
サザエさんとタラオくんが交通事故に遭い、二人とも植物状態になり延命治療が行われているものとします。
サザエさんもタラオくんも、事故以前から延命治療はしないで欲しいとの意思を示していました。

ここでマスオさんとカツオくんの間でトラブルが発生します。
サザエさんとタラオくんのどちらの延命治療を先に停止するか、です。

死亡順序と相続割合

マスオさんは、タラオくんの方が子供だから少しでも長生きさせてあげたい、と主張しています。本心かもしれませんが、打算もあるかもしれません。
サザエさんの延命治療を先に停止すれば、サザエさんの財産はマスオさんとタラオくんに半分ずつ相続されます。その後、タラオくんの延命治療を停止すれば、タラオくんがサザエさんから相続した財産は全てマスオさんに相続されます。つまり、サザエさん→タラオくんの順で死亡すると、サザエさんの1000万円の財産を全てマスオさんが相続できることになります。

一方、カツオくんは、サザエさんが先に死んだらタラオくんが悲しむ、と主張しています。これも本心かもしれませんが、打算もありそうです。
タラオくんの延命治療を先に停止しても、タラオくんには財産がないので相続に関係ありません。しかし、その後サザエさんの延命治療を停止すると、その時点でサザエさんには子供がいないので、相続人は配偶者であるマスオさんと弟であるカツオくんの二人になります。この場合、マスオさんの相続できる財産は750万円、カツオくんの相続できる財産は250万円です。

財産目当ての延命停止をなくすには

マスオさんは1000万円全部を相続するために、サザエさんの延命治療を先に止める必要があります。マスオさんは配偶者ですが、延命治療停止に法定相続人全ての同意が必要になっていれば、マスオさんの一存では決められず、カツオくんの同意も必要になります。つまり利害の対立する法定相続人同士の同意という条件を課すことによって恣意的な延命停止が於きにくくなるはずという意図です。

尊厳死を認めない場合

基本的に意思の疎通が可能な状況で尊厳死を認めるべきとは思いません。「死ぬ権利」についても、国家が保証すべき権利とは思いません。「家族に負担をかけたくない」などという理由などは論外です。患者が「家族に負担をかけたくない」と望む場合、国家がやるべきことは家族への負担を軽減することであって、患者を殺すことじゃありません。
それを理解できない人は、「政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。」とか馬鹿げた発言をします。

麻生副総理「さっさと死ねるように」 高齢者高額医療で発言
2013.1.21 13:08 [家族・少子高齢化
 麻生太郎副総理兼財務相は21日開かれた政府の社会保障制度改革国民会議で、余命わずかな高齢者など終末期の高額医療費に関連し、「死にたいと思っても生きられる。政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」と持論を展開した。
 また、「月に一千数百万円かかるという現実を厚生労働省は一番よく知っている」とも述べ、財政負担が重い現実を指摘した。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130121/trd13012113100011-n1.htm