核兵器先制不使用を宣言している唯一の核保有国

中国軍縮局長「日本に核兵器を決して使わない」
ジュネーブ=石黒穣】中国外務省の●森・軍縮局長は19日、ジュネーブで「日本に対して核兵器を決して使わない」と述べた。(●は、「庁」の丁の部分が龍)
 核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会を前にした米露など他の核兵器国代表との共同記者会見で、「中国は核軍備の透明性をどう確保していくのか」との質問に対し、同局長は「中国は非核兵器国への核兵器不使用を明確にしている。これこそが最高水準の透明性だ」とした上で、日本に言及した。
(2013年4月20日20時25分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130420-OYT1T00851.htm

核軍備の透明性に対する中国代表の回答は回答として的外れだとは思いますが、米露などがどう答えたのかにもよるのでこの記事だけでどうとも言えません。それよりも読売がこの記者会見から記事にする際に「中国軍縮局長「日本に核兵器を決して使わない」」とタイトルをつけたところに、日本のメディアがどこに興味を持っているのかが現れています。

しかし、中国が日本に対して核兵器を使わない、というのは中国が核兵器先制不使用を明言している唯一の核保有国であることを考えれば、何等新しい話ではありません。
核兵器先制不使用である以上、論理的に核兵器保有国に対して核兵器を使用しないということになります。

中国が「日本に核兵器を決して使わない」と言うのは、核兵器先制不使用宣言国である以上、理の当然であってことさら邪推を要する話ではありません。

とは言っても、とかく“中国だから信用しない”という党派性に満ちた偏りに囚われている論者にとっては、邪推のネタにしかならないようですね。
以前、同様の記事その補足*1を書きましたが、この時も同様の自称リアリストが湧いていました。
反中傾向の強い自称リアリストは口をそろえて「宣言なんて信用できない」とか他の核保有国が核兵器不使用宣言していないことを棚にあげてわめきますが、反論するならもう少し核戦略というものを踏まえてからにして欲しいものです。

もちろん、中国が核兵器先制不使用宣言をしているのはそれなり現実的な利益があるからこそですが、先制使用の意図をかくす為とか通常兵器だけで日本に占領できる自信がある、そんな幼稚な理由ではありません。


核兵器先制不使用に関して

 また、核の先制不使用は非核兵器国に対する核攻撃を否定することになることから、NPT体制の基盤を強化することにつながる。NPT上の5核兵器国が合意して核の先制不使用体制を構築すれば、その副次的効果として、非核兵器国は、原則的にNPT上の5核兵器国からの核威嚇や核攻撃を恐れる必要がなくなるとともに、NPT体制の最も大きな懸案事項である核兵器国と非核兵器国の間の政治・安全保障上の不平等性も緩和され、NPT体制の安定性や信頼性が格段に向上することになる。このように、核の先制不使用を制度化できれば、核軍縮、あるいはNPT体制の安定性や信頼性を高めることに役立つと考えられる。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20101001026.pdf

例えば、仮にアメリカが核兵器先制不使用を宣言すれば、北朝鮮は核放棄することでアメリカから核攻撃を受けるリスクが無くなり、核放棄を促す外交的圧力となるわけです。
まあ、宣言政策と運用政策の区別がつかない人には判らないかもしれませんが。

*1:当時、インドが核兵器不使用宣言国と書きましたが、生物化学兵器使用に対して核報復がありうる政策であることから、厳密には核兵器不使用国とは言えません。