米上院による「中国非難決議」に歓喜する日本メディア

こういう報道です。

「日本の施政権害する一方的行動に反対する」 米上院が中国非難決議採択 本会議でも可決へ
2013.6.26 10:27 [米国]
 【ワシントン=佐々木類】米上院外交委員会は25日、中国の東シナ海南シナ海での威嚇行為を非難する決議案を全会一致で採択した。本会議でも可決される見通し。
 決議案は、尖閣諸島沖縄県石垣市)の周辺海域での中国の挑発行為に関し、「米政府は日本の施政権を害そうとする、いかなる一方的な行動にも反対し、そうした行動に米国の立場は影響されないと断言する」と表明。同時に、すべての当事国に対し事態を悪化させる行動を自制するよう求め、平和的な解決を促した。
 共同提案者のメネンデス委員長(民主)は採択後に声明を出し、「争いはここ数カ月間で憂慮すべきレベルに達した。国際法に基づき対応しなければならない」と強調した。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130626/amr13062610270003-n1.htm

米上院委 尖閣で中国側に自制促す決議
6月26日 17時5分

 アメリカ議会上院の外交委員会は、沖縄県尖閣諸島を含む東シナ海で、中国の海洋監視船が日本の領海に侵入するなど緊張を高めていると非難し、中国側に自制を促す決議案を可決しました。
 この決議案は、アメリカ議会上院の外交委員会に所属する議員3人が提出したもので、沖縄県尖閣諸島を含む東シナ海南シナ海で、中国が監視船などの活動を活発化させているとして非難しています。
 そして、決議案は「中国の海洋監視船が尖閣諸島周辺の日本の領海に侵入したり、中国海軍の艦船が海上自衛隊の艦船に射撃管制用のレーダーを照射したりしたことが地域の緊張を高めている」として、中国側に自制を促しています。
 そのうえで、「アメリカは、尖閣諸島で日本の施政権を損なういかなる一方的な行為にも反対する」として、平和的な解決を求めています。
 アメリカ議会上院の外交委員会は、25日、この決議案を可決し、今後、上院本会議でも可決される見通しです。
 決議案が可決されたことについて、外交委員会のメネンデス委員長は「ここ数か月、中国との対立は危険なレベルに達している。武力を使って現状を変えようとする試みは受け入れられない」としています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130626/k10015603421000.html

まあ、安倍氏らから執拗に圧力をかけられた後遺症かもしれませんが、「中国側に自制を促す決議案」と表現するなどNHKの方が産経よりも腰の引けた報道になっています。産経は少なくとも「すべての当事国に対し事態を悪化させる行動を自制するよう求め」と中国以外の当事国にも自制が求められたことに言及しています。


さて、この米上院決議は、第113議会 上院決議167号を指し、原文はこちらです。
タイトルは「Reaffirming the strong support of the United States for the peaceful resolution of territorial, sovereignty, and jurisdictional disputes in the Asia-Pacific maritime domains.」であって、アメリカが領土問題の平和解決を支援することを再確認する内容で、別に尖閣に限った内容ではなく東シナ海南シナ海などインド洋・太平洋間の航路全域に関する決議です。

尖閣諸島に関する記述は以下の通りです。

Whereas, although the United States does not take a position on the ultimate sovereignty of the Senkaku Islands, the United States Government acknowledges that they are under the administration of Japan and opposes any unilateral actions that would seek to undermine such administration, affirms that the unilateral actions of a third party will not affect the United States acknowledgment of the administration of Japan over the Senkaku Islands, remains committed under the Treaty of Mutual Cooperation and Security to respond to any armed attack in the territories under the administration of Japan, and has urged all parties to take steps to prevent incidents and manage disagreements through peaceful means;

http://www.govtrack.us/congress/bills/113/sres167/text

これまで同様、尖閣の主権については、アメリカは特定の立場を取らないと宣言しつつ、実効支配する日本の施政権下にあることを認め、その施政権を害するあらゆる一方的な行動に対し反対するとの立場です。これまでも国務省が明らかにしてきた態度から特に外れていません。一方的な行動により施政権に対するアメリカの認識は変わらないこと、日本の施政権下にある領域に対するあらゆる武力攻撃は日米安保条約の対象であり続けることも、従来の主張と大きく変わりません。そして、全ての当事者が紛争を防止し、意見の不一致を平和的手段で対応することを求めるといういつも通りの内容です。
もちろん、従来同様の主張でも決議することに意味はありますので、日本政府のロビー活動の成果としては上々でしょう。

まさかと思いますが、日本政府がロビー活動に資金も何も投じてもいないのに、アメリカ上院が善意でこのような決議をするなんて思っている人はいませんよね?

米上院が求める具体的な要求は以下の通りです。

(1) condemns the use of coercion, threats, or force by naval, maritime security, or fishing vessels and military or civilian aircraft in the South China Sea and the East China Sea to assert disputed maritime or territorial claims or alter the status quo;

http://www.govtrack.us/congress/bills/113/sres167/text

海軍、警備隊、あるいは漁船、軍用機あるいは民間機を用いた強制、威圧、武力の使用を非難するという内容ですから、名指ししていないものの中国を指して非難しているとみてよいでしょう。この辺が産経の喜びポイントですが、これ自体、中国や韓国のロビー活動がありもしない問題をでっち上げる能力などないことを示していますので、慰安婦問題で日本を非難する決議などについても真摯に耳を傾ければいいのですけどね。ま、無理でしょうが。

この内容自体は、武力行使や武力による威嚇で事態を変更させることに反対するという至極真っ当な内容に過ぎません。

(2) strongly urges that all parties to maritime and territorial disputes in the region exercise self-restraint in the conduct of activities that would undermine stability or complicate or escalate disputes, including refraining from inhabiting presently uninhabited islands, reefs, shoals, and other features and handle their differences in a constructive manner;

http://www.govtrack.us/congress/bills/113/sres167/text

続けて要求されているのがこれです。産経が「すべての当事国に対し事態を悪化させる行動を自制するよう求め」と書いた部分です。「自制 self-restraint」には「無人島への常駐を指し控えることinhabiting presently uninhabited islands」が含まれていますが、これは尖閣に公務員を常駐させようという日本側の案に自制を求めているともいえる部分です。

人の振り見て我が振り直せという諺がありますが、日本のメディアの辞書からは削除されたのかも知れませんね。