潘基文国連事務総長発言の件

政治的に特定方向に偏向した捏造・改竄・誤誘導が典型的症状である産経症は既に読売やNHKに感染・発病し、毎日・朝日にも疑わしい症状が現れています。
感染源は産経新聞ですが、パンデミックを引き起こした媒介者は安倍政権です。

さて、2013年8月26日の国連事務総長の記者会見内容が話題になっています。もっともキャンキャン騒いでいる人のほとんどは実際の記者会見内容を読んでもいないでしょうから、まず該当部分を国連のサイトから引用しておきます*1。なお、日本語訳はscopedogによります。

Off-the-Cuff
Secretary-General's remarks to the press
Seoul, Republic of Korea, 26 August 2013
(略)

Q: As the Secretary-General is very well aware in the Northeastern area, regarding the territorial issues there is heightened tension going on right now. What do you think is most urgently needed? Regarding the context of the current conflict, could we hear your views?

(問): 事務総長もご存知の通り、北東アジアでは現在領土問題に関する緊張が高まりつつあります。これに対して喫緊の課題は何だと考えますか?現在の対立と言う点について、事務総長の見解をお聞かせください。

SG: Regarding Northeast Asia, the three countries – China, Japan and the Republic of Korea –are important not only within Asia, in terms of their influence, economies and political stature in the international community, they are all very important respectively. The three Northeast Asian countries, in terms of economic advancement, science and technological innovation and development, you could say that they are at the centre of these advancements. All three of them are very important countries. In terms of how the countries view history and then other political reasons, and also war factors, there is mutual tension that is persisting. As Secretary-General of the UN, I find it to be regrettable,all of these challenges. I think it is up to the political leaders to be very frank with one another, so that based on a very accurate view of history, they can address this issue from a forward-looking perspective. Bilateral or multilateral forums can be available. History, of course, is very important in each of the countries. But I think the Northeast Asian leaders should look toward the future and look at not only the development of their respective countries, but development of the broader Asian area and broader global economy. What they can do for co-existence and better advancement of the global community is to have this broader kind of view, and the decisiveness of the political leaders is called for. Having the right view of history is key; only then you will be able to earn trust and respect from other countries. As Secretary-General of the UN, regarding issues between two different countries is a bilateral issue. I do not think it is desirable for me to be involved directly. As Secretary-General of the UN, I have always emphasized what I have just said to the global leaders.

(事務総長):北東アジアの3カ国、中国、日本および大韓民国は、影響力、経済力、政治力という意味でアジア内のみでなく国際社会においても重要な存在で、3国全て重要な存在です。北東アジア三国は、経済発展、科学技術の革新・開発という意味においても、発展の中心にあると言えるでしょう。北東アジア三国はすべて非常に重要な国々なのです。その国々が歴史や他の政治的課題、そして戦争の原因をどのように見るか、そこに生じる緊張に相互に固執しています。国連事務総長として、私はこれらの抗議の全てに対して遺憾であると考えます。私は、互いに率直に話し合うことがこれらの政治指導者たちの責任であると考えます。そして、それが正確な歴史観に基づいてなされるなら、この問題は前向きの観点で扱うことができると考えます。二国間あるいは多国間のフォーラムが役に立つでしょう。もちろん、歴史は、それぞれの国にとってとても重要な問題です。しかし私は、北東アジアの指導者たちは未来を見るべきであり、自国の成長だけでなく、アジア全体、世界全体の経済成長を見据えるべきであると考えます。国際社会の共存とよりよい発展のために彼らができることは、このように広い視野を持つことであり、政治指導者の潔さが要求されているのです。正しい歴史観を持つことは必須です。それを持つことによってのみ、他の国々からの信頼および尊敬を得ることができます。国連事務総長として、二国間問題はあくまで二国間問題であり、私が直接かかわることは望ましいこととは思いません。国連事務総長として、私が今語った内容は、全ての政治指導者たちに向けてのものであることを強調しておきます。

Q: In connection to the previous question, the Japanese Government is making a move towards revising its constitution, to which Northeastern countries are expressing concerns.

(問): 先の質問に続けますが、日本政府は憲法改正に向けて動いており、北東アジア各国はそれに懸念を表明していますが。

SG: As I have just elaborated moments ago, it is about what kind of view and perspective you should have on history to make sure that we will be able to direct perspective and also maintain friendliness between the neighbours. Regarding this, I believe that the Japanese leaders should have great reflection, insight and vision to look forward.

(事務総長):今も詳しく言いましたが、どのような歴史観や展望を持つべきかというと、私たちが未来を展望でき隣国との友好関係を維持できるようなものであるべきと考えます。これについて、日本の政治指導者らは深い内省と洞察、そして前向きのビジョンを持つべきだと考えます。

http://www.un.org/sg/offthecuff/index.asp?nid=2944

前段部分では“ In terms of how the countries view history and then other political reasons, and also war factors, there is mutual tension that is persisting. As Secretary-General of the UN, I find it to be regrettable,all of these challenges. I think it is up to the political leaders to be very frank with one another, so that based on a very accurate view of history, they can address this issue from a forward-looking perspective.”と語るなど、取りようによっては中国、韓国に対する批判とも言える発言もありますが、全体としては、“based on a very accurate view of history”しつつ、“address this issue from a forward-looking perspective”という一般的な意見を言っているに過ぎません。
この前段部分が日本に対する非難と解釈するためには、日本の政治指導者の歴史認識が正しくないと自覚しているという前提が必要です。
まあ、実際に安倍政権の歴史認識は正しくないとは思いますが、安倍政権自身や産経新聞、読売新聞などは安倍政権の歴史認識こそ正しいと主張している立場でしょうから、この指摘で激怒するのは論理的ではありません。

後段部分では、記者から日本での改憲の動きに対して各国が懸念していることに対する意見を問われての回答ですから、当然に日本が名指しされるわけですが、その中で“the Japanese leaders should have great reflection, insight and vision to look forward”と述べたに過ぎません。
この一文にしても日本に対する非難というには当りません。そもそも、日本政府は過去の侵略戦争と植民地支配に対して以下のような歴史認識を公式に示しています。

1.我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。我が国はこの歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ、第二次世界大戦後一貫して、経済大国になっても軍事大国にはならず、いかなる問題も平和的に解決するとの立場を堅持しています。
2.このように、我が国は、先の大戦に係る過去を直視し、深い反省にたって、とりわけ中国や韓国をはじめとするアジア諸国との未来志向の協力関係を構築していく考えです。我が国は、今後とも世界の平和と繁栄に貢献していく考えです。
(参考1)2005年8月15日の内閣総理大臣談話(小泉内閣)(抜粋)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/qa/01.html

「痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ」は“have great reflection, insight”でしょうし、「中国や韓国をはじめとするアジア諸国との未来志向の協力関係を構築していく考え」は“vision to look forward”にあたるでしょう。
何のことはない、潘事務総長は、日本が公式に宣言している日本の取るべき態度をそのまま実行すればよいと言っているだけです。
これに切れている日本政府の方こそ、大丈夫か?と言いたくなるほどの情緒不安定だと言えるでしょう。

「日本だけのことでない」=歴史認識国連総長が釈明
時事通信 8月29日(木)1時30分配信

 外務省によると、国連潘基文事務総長は28日、オランダのハーグで開かれた会合で松山政司外務副大臣と立ち話をし、「正しい歴史認識が必要だ」などとした自身の記者会見での発言について、「中立的なもので、日本のみについて指摘したものではない」と釈明した。松山氏が発言の真意を確かめたのに対して答えたという。
 潘氏は「日中韓3カ国の指導者は過去に起きたことをしっかり理解し、それを克服していくべきだとの趣旨だ」と強調。会見で「日本の政治指導者」と名指ししたことに関しても、「日本の憲法改正について問われたためだ」と説明した。
 その上で「歴史認識に関する安倍政権の立場や、平和国家としての日本政府の努力はよく承知している」と表明。「日本で発言の趣旨が誤解され報道されていることは残念だ」と語った。
 潘氏は26日にソウルで行った会見で、日本と中韓両国との摩擦について「(北東アジアの)指導者の正しい歴史認識が必要だ」などと発言。これに対し、菅義偉官房長官は「わが国の立場を認識した上で(発言が)行われているのか非常に疑問」と不快感を示し、発言の真意を確認したいと語っていた。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130829-00000005-jij-pol

こちらに関しては、立ち話で公式の発言録が無さそうですが、潘事務総長の理解としてはおそらくこの通りでしょう。「深い反省にたって」「アジア諸国との未来志向の協力関係を構築していく考え」を表明している日本政府に対して、それを後押しする発言をしたにも関わらず、日本政府が切れたわけですから、潘事務総長はおそらく困惑したことでしょうね。なので「日本で発言の趣旨が誤解され報道されていることは残念だ」と語ったのでしょう。
「平和国家としての日本政府の努力はよく承知している」とも指摘していますが、26日の発言自体がそれに沿った内容でしかありません。「歴史認識に関する安倍政権の立場」については取りようによっては皮肉にも聞こえます。何せ、安倍政権は、歴史の事実を謙虚に受け止めることを拒絶し、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを否定し、軍事大国を目指し、いかなる問題も平和的に解決するとの立場を放棄しようしている好戦的な極右政権ですから。とは言え、公式には安倍政権は河野談話村山談話*2を踏襲しているわけですから、徹底的に公式見解だけで判断すれば、皮肉でも何でもなく、安倍政権も歴代政権同様に「深い反省にたって、とりわけ中国や韓国をはじめとするアジア諸国との未来志向の協力関係を構築していく考え」であることを「よく承知している」という解釈になるでしょうね。

2013年8月26日の記者会見での発言と8月28日の松本副大臣による糾弾に対する返答で、特に変わったところは見受けられません。

ちなみに、松本副大臣がオランダで潘事務総長を詰問した同じ8月28日、潘事務総長は記者会見*3で以下のように答えています。

Off-the-Cuff
Secretary-General's remarks at joint press encounter with H.E. Mr. Frans Timmermans, Minister for Foreign Affairs of the Kingdom of the Netherlands
New York, 28 August 2013

Q: [Question on the Secretary-General’s recent remarks in Seoul about the situation in Northeast Asia]

SG: I regret that there were misunderstandings on the part of the Japanese side – either the Government or even the media. What I said in Seoul about the relationship among the three countries in Northeast Asia, what I said was that unfortunately, because of [the] past historical legacy, and also some political differences, there are some political tensions, all these should be resolved through dialogue, by the strong political will of the leaders. I hope there should be no misunderstanding. As Secretary-General, I hope that all of these tensions, particularly overcoming the historical legacy, will be very important for the future-oriented development of a harmonious relationship among the three countries. Those three countries in Northeast Asia is the centre and they provide good sources of economic development and also innovation, so it is important that those three countries’ leaders, particularly, they should fully cooperate. But overcoming this historical legacy will require very determined political leadership. Thank you.

(事務総長):私は日本の政府どころかメディアの一部にまで誤解があったことを残念に思います。北東アジア三国の関係についてソウルで私が言ったのは、不幸にも、歴史の負の遺産やそれぞれの政治的な相違によって、政治的な緊張が生じていること、そしてそれは全て政治指導者たちの強い意志により、対話を通じて解決されるべきであること、です。これらについて誤解されないことを望みます。
事務総長として、私は、これらの緊張関係の全て、特に克服されるべき歴史上の負の遺産について、三国が連携して未来志向で発展していくことが極めて重要であると考えます。
それら北東アジア三国は経済発展や革新の中心であって源泉です。なればこそ、これら三国の政治指導者らこそが全面的に協力し合うことが重要なのです。もちろん、歴史上の負の遺産を克服するためには、断固とした政治的指導力を発揮しなければならないことは言うまでもないでしょう。

http://www.un.org/sg/offthecuff/index.asp?nid=2955

まあ、これは日本のメディアの低能さをバカにしている発言と言えるかも知れませんねぇ。実際、残念な報道が多かったですし、普段「マスゴミ」呼ばわりしているくせに発言原文を確認もせずに吹き上がった嫌韓バカは、そのバカっぷりを余すところ無くさらけ出していましたしね。

まとめ

現在までの流れをまとめてみます。

2013.8.26 潘事務総長「正しく歴史に向き合って未来志向でやってかなきゃダメだよね。」
2013.8.27 菅官房長官「俺のことかぁ!」
2013.8.27 J-CAST「潘国連総長「ルール違反」の日本批判!」*4
2013.8.28 読売新聞「資質問われる偏向「介入」発言!」*5
2013.8.28 産経新聞「度が過ぎる韓国びいき!」*6
2013.8.28 潘事務総長「いや、日本だけに言ってないよ。文脈から明らかなのに何で誤解するかな。」

潘事務総長は“the part of the Japanese side”と言ってますけど、日本のマスコミはほぼ軒並み冷静さを欠いていたように思えます。

8月26日の記者会見やり取りは簡略化すれば、
潘事務総長「正しく歴史に向き合って未来志向でやってかなきゃダメだよね。」
記者「日本での改憲の動きに周辺国が懸念を示しているけど。」
潘事務総長「日本も正しく歴史に向き合って未来志向でやっていってほしいよね。」
という流れに過ぎません。
正しく歴史に向き合って未来志向でやっていくというのは2005年の小泉談話から外れた内容でもなく、日本側が文句を言うような発言ではありません。にもかかわらず、そういった視点からの日本の報道は見かけませんでしたし、読売に至っては「国際機関に籍を置くなら、潘氏は、韓国の常識は世界の非常識であると韓国に伝えるべきだ。」などと露骨なレイシズムを社説(2013/8/28)に載せています。

正しく歴史に向き合って未来志向でやってほしいという要望に腹を立てるのは、自身に正しく歴史に向き合っていないという後ろめたさがあるからでしょうが、本来なら小泉談話で公式に表明した正しく歴史に向き合えていない日本政府をメディアは批判すべきなのですが、安倍政権の圧力を恐れ、右傾化した世論を恐れるメディアは節を曲げ、政権に阿り排外主義に加担し始めたと言えます。

日本のメディアはまだ死んでいませんが、既に不治の病に侵され衰弱しつつあります。
これは、それをよく知らしめる事件でした。



最後に一言。

喚く前にソースにあたれ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20130828/p1#c で紹介したサイトです。

*2:コメント欄指摘に基づき修正

*3:サイトではNew Yorkと書かれていますが、オランダ、オーストリアへの出張期間なので誤記か?

*4:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130827-00000005-jct-soci

*5:http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130827-OYT1T01453.htm

*6:http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/korea/679900/