日本メディアが偏向して伝える韓国歴史教科書問題

日本メディアが排外主義を煽ってでも売り上げを優先する末期症状に陥っていることは何度か指摘しました。メディアだけが加害者ではなく、排外主義を煽ろうと目論んだ右翼勢力はもちろん、辛い現実を突きつけられるより心地よい幻想に浸ることを選んだ多くの一般視聴者も加害責任の一端を担っています。まあ、それも何度か言及しました。どうせ伝わらないでしょうが。
隣国の重箱の隅をつついて嘲笑っている連中の国がいかに道化じみた異常者であるか、嘲笑に夢中で自覚も出来ないのでしょうしね。

さて。

韓国大統領の朴槿恵氏の父親は周知の通り、軍事政権時代の大統領だった朴正煕です。朴正煕は戦時中、満州国軍に所属しており植民地支配下において日本側に擦り寄り利益を得た、すなわち「親日派」的な見方をされることがあります。実際、朝鮮が植民地だった時代に総督府に擦り寄り、権力や富を増やした者の多くが戦後の大韓民国において社会の支配者層に納まることになりました。軍事政権時代、特に開発独裁を進めた朴正煕政権時代、政治権力と経済界が癒着し汚職が蔓延したわけです。韓国が米兵向け売春を事実上保護したのも、ベトナム戦争に前のめりに参戦していったのもこの軍事独裁政権時代で、日本自民党政権*1との国交回復したのもこの時期です。

1980年代に民主化されるまで韓国の一般民衆は軍事政権に押さえつけられてきました。この韓国にとって悪しき記憶である植民地時代と軍事政権時代の批判が出てくるのは民主化後になります。
民主化とともに発言する力を強めた韓国のリベラル勢力は当然、植民地時代の日本の圧制を非難し、従軍慰安婦問題で日本軍に性暴力を追及すると共に、植民地時代に不当に富と権力を得て独立後の韓国に君臨した「親日派」軍事政権による民衆弾圧やベトナム戦争での残虐行為、主に外国人向けとなった管理売春を批判してきました。それらは国定から検定に代わった教科書にも載るようになりました。

しかし、このような教科書を気に入らなく思うのが朴槿恵政権です。自らの父・朴正煕を、過酷な植民地時代には日本に擦り寄り、独立後は軍事政権として民衆を弾圧した人物として書かれた教科書が気にいるはずもなく、圧力をかけて歴史修正主義で書かれた教科書を検定で通したわけです。かつて、日本で歴史修正主義扶桑社教科書が検定で通されたのと同じですが、韓国での歴史修正主義教科書は、植民地支配時に日本に協力したのは圧力のため止むを得なかったとみなし、軍事政権時代の弾圧の記載は軽視する、というものです。日本の歴史修正主義教科書が、戦争は止むを得なかったとみなし、日本軍による残虐行為を軽視するのに対応します。

韓国教科書問題での朴槿恵政権の圧力は、リベラル・反歴史修正主義の立場から当然に非難されるべきもので、安倍政権による教育右傾化に対すると同じく日韓リベラル勢力が協力して対峙すべきものです。

ところが日本のメディアはこういった韓国教科書問題を正しくは伝えません。日本のメディアが韓国教科書問題を日本に伝えるのは、問題をわざわざ二つに分けて日本国民の印象操作を行うかのようにやります。

韓国教科書問題の争点である「植民地時代の日本の圧制」と「軍事政権時代の弾圧・ベトナム参戦」を別々にとりあげるわけです。

例えば読売新聞吉田敏行記者が「韓国で「親日」教科書採択に抗議運動…撤回次々」*2という記事で伝えたのは、「植民地時代の日本の圧制」という争点の一方のみ。
植民地支配時に日本に協力したのは圧力のため止むを得なかったとみなし、独立後まで続く不当利益人脈に対する批判をかわそうとする朴槿恵政権による歴史修正主義教科書を、「「親日」教科書」とのみ説明し、それに対して抗議運動が起き撤回が相次いでいる、という記事です。吉田記事は、日本に好意的な記載の教科書が、抗議のため撤回されている、という印象を与えるもので、実態を歪めています。もちろん、吉田記事には韓国歴史修正主義教科書が軍事政権時代の弾圧を矮小化しているなどとは一切書かれておらず、なぜ抗議運動が起きているのか、を誤解させるように誘導しています。

一方、NEWSポストセブンでは「韓国が教科書に載せないベトナム戦争時の虐殺と売春ビジネス」*3と題して、今度は「軍事政権時代の弾圧・ベトナム参戦」だけを取り上げ、韓国歴史修正主義教科書は問題だとはやしたてます。ポスト記事の目的は、日本軍従軍慰安婦問題を矮小化・正当化するために韓国だってやっている、と指摘するだけです。

読売吉田記事が朴政権の推す韓国歴史修正主義教科書の側につき韓国リベラル勢力を誹謗するのに対し、ポスト記事は韓国リベラル勢力の側につき朴政権の韓国歴史修正主義を誹謗しているように見えますが、別に読売やポストがそういう立場をとっているのではありません。
日本のメディアはただ単に、「植民地時代の日本の圧制」を正当化するためなら、朴政権の韓国歴史修正主義の側に立ち、韓国の「軍事政権時代の弾圧・ベトナム参戦」をなじる為なら韓国リベラル勢力の側に立つという理念も何もない、ただ隣国を侮辱し、自国の負の歴史を隠そうとするだけの、およそ言論人とは程遠い節操のない恥知らずになっているだけです。

日本はここまで落ちぶれました。
日本にジャーナリズムなど最早存在しないと言ってもいいかもしれませんね。