北朝鮮情報の読解

北朝鮮情報がどのように扱われているかと言う点についてです。

平壌労働党幹部を集団銃殺か 金正恩氏の指導に違反

アジアプレス・ネットワーク 10月20日(月)20時21分配信
◇10月初旬に12人 体制保守化で日朝交渉にマイナスも
10月初旬、北朝鮮労働党の幹部が二回にわたり集団で銃殺刑に処される事件があった模様だ。アジアプレスの北朝鮮内部の協力者が中旬に電話で伝えてきた。
(石丸次郎)
取材協力者が伝えてきたところによると、一度目の処刑があったのは6日で、労働党の中央党の課長 3人と部下7人の、合わせて10人が、姜健(カンゴン)士官学校の訓練場で銃殺されたという。この際、中央党、人民保安省(警察)、国家安全保衛部(秘密警察)の幹部が集められていたという。
「処刑の理由とされたのは、金正恩と党の指示・方針を貫徹する事業をおろそかにした、ということだ。さらに秘密の私組織を作ったことが罪状に挙げられているようだ」
取材協力者はこのように伝えた。処刑情報は地方の保衛部の高級幹部からもたらされたという。
また11日にも、同じ場所で党幹部2人が銃殺された模様だ。罪状は、昨年12月に反党反革命分派分子として粛清された張成沢(チャン・ソンテク)氏と結託していたことがわかったためという。処刑されたひとりは中央党の課長で、もうひとりは黄海南道の中心都市・海州(ヘジュ)市の労働党トップの責任書記だったという情報があるという。やはり党や保安機関、司法機関の幹部が集められた前で処刑が執行されたという。各組織の幹部たちに対する「見せしめ」であった可能性が高い。「銃殺には機関銃が使われたらしい」と、この取材協力者は付け加えた。
昨年末の張成沢氏粛清の後、累のあった多くの幹部や関連部署の人員が処刑されたり、追放されたりという連座粛清が今年春頃まで続いていたが、その後は粛清に関連した消息は聞こえてこなかった。北朝鮮の権力中枢で新たな大規模粛清の動きが始まった可能性がある。
北朝鮮では、金正恩氏の絶対独裁システム作りが昨年から本格化、「党の唯一領導体系確立の十大原則」という北朝鮮の最高規範が、金正恩氏に合わせて39年ぶりに改訂された。全社会に金正恩氏の指導に忠誠を尽くすことが無条件に求められており、このたびの党幹部集団銃殺の情報が正しいなら、「言うことを聞かない者は容赦しない」という恐怖統治が党中枢で実行されているものと言える。
とすると、金正恩氏の権威を傷つけないこと、指示を忠実に執行することが最優先される。拉致問題を巡る日朝協議においても、原則的、保守的で融通性のない姿勢に立ち返るかもしれない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141020-00010001-asiap-kr

わかりにくいですが処刑情報の流れは、保衛部高級幹部から北朝鮮内部の取材協力者を経てアジアプレスへ電話されたというものです。大元の保衛部高級幹部にしても実際に処刑にたちあったのかどうかすら不明で、2回目の処刑については誰が処刑されたのかすら不明確です。何重もの伝聞を経ており、裏付けのある情報とは言えません。情報の信頼性としてはかなり低く、否定する根拠もありませんが、無条件で信用するようなものでもないでしょうね。
もちろん、さすがに記事を書いた石丸氏もその辺は踏まえているのか、「処刑が執行されたという」とか「可能性がある」とか「このたびの党幹部集団銃殺の情報が正しいなら」など断定的な表現を避けています。

ところが安倍政権のプロパガンダ機関である産経新聞を通すと、この不確定で曖昧な情報がロンダリングされます。

正恩氏、続く粛清…潜伏中に幹部12人処刑 再調査滞る恐れ

産経新聞 10月21日(火)7時55分配信
 北朝鮮で今月に入って、朝鮮労働党の中央幹部や地方トップら少なくとも12人が処刑されたことが20日、分かった。金正恩キム・ジョンウン)第1書記の動静が40日ぶりに報じられる直前の時期と重なり、潜伏中、粛清による権力固めを画策していた可能性がある。幹部への盗聴監視や日本を敵視する思想教育も強めており、外交方針の硬化で拉致被害者らの再調査がいっそう滞る恐れもある。
 北朝鮮内部に独自の取材協力者を持つアジアプレスによると、6日、平壌郊外の姜健(カンゴン)総合軍官学校の射撃場で、秘密警察の国家安全保衛部が中央党の課長級3人ら幹部10人を銃殺した。11日にも南部の黄海南道(ファンヘナムド海州(ヘジュ)市トップの党責任書記ら2人が処刑されたという。
 「金第1書記の指示を貫徹せず、私的組織を作ろうとした」ことや、金第1書記の叔父で昨年12月に処刑された張成沢チャン・ソンテク)氏の「一派とのつながりが判明した」ことが罪状とされた。別の消息筋によると、最近、ドイツ製盗聴器を大量導入し、広範囲の党幹部に対する監視が強化された。
 金第1書記は14日につえをついた姿が報じられるまで40日間、動静が不明だった。2012年6月にも23日間、動静が途絶えたが、翌月に軍総参謀長だった李英浩(リ・ヨンホ)氏の更迭を断行。金日成(イルソン)主席や金正日(ジョンイル)総書記も潜伏をへて大規模な粛清を行ってきた経緯がある。金第1書記も今回の潜伏期間中、足を治療する一方で粛清に向けた準備を進めていた可能性があり、今後、幹部らの処罰を拡大させるとの見方がある。
 各地で上級職を集め、金第1書記が示したとする「日本は100年の宿敵、中国は千年の宿敵だ」との言葉の徹底を命じるなど、思想教育を強化していたことも分かった。
 張派に代表される親中派への警告を指す中国敵視だけでなく、日本敵視も示されたのは、日本人調査を主導し利権にありつこうとする保衛部などへの牽制(けんせい)が狙いとみられる。
 アジアプレスの石丸次郎氏は「外交面でも指導者の権威を傷付けかねない提案ができる空気にはなく、日本人調査の停滞にも影響している」とみている。(桜井紀雄)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141021-00000082-san-kr

のっけから「北朝鮮で今月に入って、朝鮮労働党の中央幹部や地方トップら少なくとも12人が処刑されたことが20日、分かった」と産経新聞として裏づけも取っていないくせに、アジアプレスの不確定情報を確定した事実であるかのように断定しています。
そもそも国家元首の動静が不明だった時期を「潜伏中」と表現するなど、侮辱行為もはなはだしいわけですが*1、ひどいのは「2人が処刑されたという」と不確定調で報じているのは一箇所のみでほとんどが断定調で書かれている点です。
「各地で上級職を集め、金第1書記が示したとする「日本は100年の宿敵、中国は千年の宿敵だ」との言葉の徹底を命じるなど、思想教育を強化していたことも分かった。」の部分は上記で引用したアジアプレスにはない記載ですが、情報源について産経記事には載っていません。どんな裏づけをとったのかさっぱりです。
「アジアプレスの石丸次郎氏は「外交面でも指導者の権威を傷付けかねない提案ができる空気にはなく、日本人調査の停滞にも影響している」とみている」とも書かれていますが、上記のアジアプレス記事では、

北朝鮮では、金正恩氏の絶対独裁システム作りが昨年から本格化、「党の唯一領導体系確立の十大原則」という北朝鮮の最高規範が、金正恩氏に合わせて39年ぶりに改訂された。全社会に金正恩氏の指導に忠誠を尽くすことが無条件に求められており、このたびの党幹部集団銃殺の情報が正しいなら、「言うことを聞かない者は容赦しない」という恐怖統治が党中枢で実行されているものと言える。
とすると、金正恩氏の権威を傷つけないこと、指示を忠実に執行することが最優先される。拉致問題を巡る日朝協議においても、原則的、保守的で融通性のない姿勢に立ち返るかもしれない。

と条件付や不確定とわかる表現で書かれている内容が、「外交面でも指導者の権威を傷付けかねない提案ができる空気にはなく、日本人調査の停滞にも影響している」とまるで断言しているかのような表現に改ざんされています。まあ、石丸氏も同意している改ざんかも知れませんが。

気に入らない相手を侮辱し中傷するためなら、改ざんや捏造も辞さないというのが産経新聞の社是のようですから仕方のないことかも知れませんが。

ちなみに産経の社是については、安倍首相が朝日新聞に裏づけを取らずに社是だと言い放ったのと同様に、私も別に産経新聞に確認したわけではありません。

*1:皇太子妃が公務に出なかった時期を外国メディアが「潜伏」と表現したらどう感じるか、というくらいの想像力はほしいところですが、今の日本社会には無理でしょうねぇ。