池上彰氏が「他社を引き合いに出すのは潔くありません」と韜晦して目をそらした読売新聞による「挺身隊」と「慰安婦」の混同記事

以下は1987年8月14日付けの読売新聞記事です。(wamが企画した「徹底検証! 読売『慰安婦』報道」を参照しています。)

1987年8月14日
従軍慰安婦とは、旧日本軍が日中戦争と太平洋戦争下の戦場に設置した「陸軍娯楽所」で働いた女性のこと。昭和13年から終戦の日までに、従事した女性は20万人とも30万人とも言われている。「お国のためだ」と何をするかもわからないままにだまされ、半ば強制的に動員されたおとめらも多かった。特に昭和17年以降「女子挺身隊」の名のもとに、日韓併合で無理やり日本人扱いをされていた朝鮮半島の娘たちが、多数強制的に徴発されて戦場に送り込まれた。彼女たちは、砲弾の飛び交う戦場の仮設小屋やざんごうの中で、一日に何十人もの将兵に体をまかせた。その存在は、世界の戦史上、極めて異例とされながら、その制度と実態が明らかにされることはなかった。

http://wam-peace.org/sp/yomiuri/p01.html

見てのとおり「昭和17年以降「女子挺身隊」の名のもとに、日韓併合で無理やり日本人扱いをされていた朝鮮半島の娘たちが、多数強制的に徴発されて戦場に送り込まれた」と、現在では組織上、女子挺身隊は慰安婦とは別個のものとされ、一般的には「挺身隊」と「慰安婦」は異なるとされる*1ものの、当時はそういった知見が蓄積されておらず、混同されたわけです。
もちろん1987年だけのことではありません。
当時朝日新聞記者だった植村氏が「挺身隊」と「慰安婦」を混同した記事が掲載されたのは1991年8月11日ですが、その2週間後の1991年8月26日の読売新聞でも以下のように「挺身隊」と「慰安婦」を混同した記事が掲載されました。

読売新聞は、91年8月26日朝刊の記事「『従軍慰安婦』に光を 日韓両国で運動活発に 資料集作成やシンポも」の中で、「太平洋戦争中、朝鮮人女性が『女子挺身隊』の名でかり出され、従軍慰安婦として前線に送られた。その数は二十万人ともいわれているが、実態は明らかではない」と記載している。

http://www.asahi.com/articles/ASG7L7GGWG7LUTIL05Y.html

ついでに言えば、毎日新聞もこの3ヵ月後に「挺身隊」と「慰安婦」を混同した記事を掲載しています。

毎日新聞も、元慰安婦の金学順さんを取り上げた91年12月13日朝刊「ひと」欄の記事の中で、「十四歳以上の女性が挺身隊などの名で朝鮮半島から連行され、従軍慰安婦に。その数は二十万人ともいい、終戦後、戦場に置き去りにされた」と報じた。

http://www.asahi.com/articles/ASG7L7GGWG7LUTIL05Y.html

植村記事から半年後になっても、読売は「挺身隊」と「慰安婦」を混同し続けています。

また、92年1月16日朝刊に掲載された宮沢喜一首相の訪韓を伝える記事でも、「戦時中、『挺身隊』の名目で強制連行された朝鮮人従軍慰安婦は十万とも二十万人ともいわれる」と記述するなど、混同がみられた。

http://www.asahi.com/articles/ASG7L7GGWG7LUTIL05Y.html

読売も毎日も「挺身隊」と「慰安婦」を混同していた1991年当時に、朝日で「挺身隊」と「慰安婦」を混同した記事を書いた植村氏だけが、「捏造記者」と侮辱され、家族までもが脅迫行為に曝されています。
1991年当時に社会全体が「挺身隊」と「慰安婦」を混同していたことを示すために、朝日以外の報道を紹介した2014年8月の朝日検証記事に対して、池上氏は「他社を引き合いに出すのは潔くありません」((池上彰の新聞ななめ読み)慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは(2014年9月4日))と言って、1991年当時の社会の認識を無視し、捏造ではないことを示すための反論を黙らせたわけです。

「挺身隊」と「慰安婦」の混同は1991年当時の社会認識を考慮すれば捏造などになりえず、植村氏は無実の罪で不当な社会的制裁を受けていると言えます。その無実であると訴えるための主張を池上氏はろくに調べることもせずに「潔くない」と端から犯罪者扱いで斬って捨てたわけです。こういうのこそ言論弾圧、少なくともその加担行為ですよ。

池上彰氏は、日本政府の半公式的な見解や、歴史学における有力説はもちろん、朝日検証もきちんと押さえていない。おそらく二次情報に依存し、それも産経新聞や読売新聞あたりの虚報を信じてしまっている。

http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20150112/1421074104

という指摘もありますが、2014年8月時点で「挺身隊」と「慰安婦」の混同を朝日の罪だと決め付けて反論を真面目に取り上げようともせず、2015年1月になった今も、朝日の責任だと主張しています。

 ただ一つ言えるのは、「慰安婦」という言葉自体がひとり歩きしたという影響はあるわけでしょ。「女子挺身隊」が「慰安婦」とイコールの、あの間違いの方が大きいと思います。女子挺身隊を慰安婦と混同した部分に関しては、たとえば韓国では「慰安婦20万人説」っていう話まで出てきちゃうわけです。この責任はありますよね。

http://ironna.jp/article/828

しかし、これまで何度も同時期の他紙も同様に混同して報道していたと指摘されているにもかかわらず、朝日報道だけが韓国に影響したと主張するのか、池上氏は根拠を明らかにしていません。2014年9月のコラムで「挺身隊と慰安婦の混同は他紙もしていた」という指摘を潔くないと無視した以上、今さら「挺身隊と慰安婦の混同は他紙もしていた」と認められないのかも知れません。
だとすれば非常に潔くない態度ですけどね。

*1:ただし、女衒が「挺身隊」だと騙した事例が否定されるわけではなく、あくまで制度としての女子挺身隊は、強制売春を目的とした組織ではないという意味。