日本に“ミアシャイマー”はいない

陸上幕僚長の冨澤暉氏がこんなことを言っていました。

自衛隊は強いのか弱いのか、の疑問にお答えしよう

毎年平均して25人の死者を出す過酷な訓練は何のためか

 さて、そうしたことをようやくご理解いただいた方でも「我が国防衛のためならそれは仕方ないが、外地に出かけてまで、危険なことをする必要はないだろう」とさらに言われるかもしれない。
 実は、これまでに日本に蔓延っていた「一国平和主義」とは、まさにこの考え方であり、極めて利己的なものである。
 私どもは「世界の平和」があってはじめて「日本の平和」があることを認識し、「日本の平和」のためにもまず、「世界の平和」に貢献することを目指すべきではないだろうか。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43815?page=4

世界平和のために自衛隊を海外に派兵すべし、という何というか、極めて「理想主義」的な発想ですよね。不思議だと思うのが、普段から「国益ガー」とのたまう「現実主義者」はどこに行ったのかな、とか。これまで通り、軍事力以外での国際貢献ではなぜ駄目なのか、とか。
それと、日本がどうしても軍事力での国際貢献をしたいのなら、国連中心主義の枠組みだって考えられるわけですが*1国連の承認なしの有志連合での参戦しか視野に入っていない安倍政権のやり方に疑問を全く抱かないのも不思議ですね。まあ、理由は何となくわかりますが。

それはさておき、「「世界の平和」に貢献する」ために自衛隊を海外派兵させろ、という主張には馬鹿馬鹿しさしか感じません。
それはこういうエピソードを思い出すからです。

ではどういう状況ならアメリカは戦争に行くべきなのか?ミアシャイマーはこう言い放った。「たった一つの状況です。それはアメリカの国益がかかっているときです。」「だってアメリカ人を死に行かせるんですよ?当然でしょ?戦略的に重要だからこそ、命を賭ける価値があるんですよ。」
まさに国益主義者のリアリストならではの、スッキリした答えである。フォックスニュースの女性記者が「反戦なのだから、当然のごとく国連重視なんだろう」ということで質問したのだが、ミアシャイマーはそれをアッサリはねのけた。すべては「国益にかなうかどうか」であり、「今回のイラク侵攻は国益にならない、だから反対だ」ということなのだ。とてもわかりやすい。

http://www.realist.jp/rebellion10.html

もちろん、「「世界の平和」があってはじめて」アメリカの国益が守られる、などという青臭い主張が出る幕はありません。

現在、安倍政権が提出した日本人を死にに行かせるための法案を審議しているわけですが、「現実主義」的な保守がもし存在するのなら、「命を賭ける価値がある」戦略的な重要性をはっきりと説明し、これこそ国益だと主張するべきでしょう。

自らが信じてもいない「「世界の平和」に貢献することを目指すべき」とかいうスローガンを掲げる前にね。

*1:国連決議で武力行使が認められた場合にのみ参加。