現状の「中国脅威論」は過剰だが、仮にそうだとしても安倍政権の戦争法案は「中国への抑止力」に貢献できるものになっていない。

東シナ海のガス田といい、南シナ海南沙諸島領有権争いといい、過剰な「中国脅威論」が煽られているわけですが。

「中国脅威論」正しい=次世代・松沢幹事長

時事通信 7月30日(木)14時50分配信
 次世代の党の松沢成文幹事長は30日の記者会見で、安倍晋三首相が安全保障関連法案の理解を得るため、中国の「脅威」を持ち出していることに関し、「現代に侵略行為をしているのは中国だ。中国への抑止力を持つための安保法制にしなければならず、首相が中国の脅威を言うのは正しい」と、理解を示した。
 松沢氏は、中国の侵略行為として、南シナ海での岩礁埋め立てや沖縄県尖閣諸島周辺での領海侵入日中中間線付近でのガス田開発を挙げた。
 日本を元気にする会の松田公太代表も同日の記者会見で「外にある危機が明確だから、(中国の)名前を出してもいい。悪いことではない」と指摘した。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150730-00000092-jij-pol

閣外与党の次世代の党が「中国の侵略行為」として挙げている問題に安倍政権の戦争法案が対応できるか、と言うと出来ないんですよねぇ。

南シナ海での岩礁埋め立て」

南沙諸島にせよ、その他にせよ、国際法的に領有権が確定しているわけじゃありません。
フィリピンや台湾やベトナム、マレーシアが、実効支配し埋め立て・軍事基地化しているのと同様に、中国が埋め立て・軍事基地化しても武力紛争が伴わない限り、それ自体が「武力攻撃」にはなりません。
緊張を高める行為として歓迎出来ない行為ですが、安倍政権の戦争法案では「他国への武力攻撃」にあたらず「存立危機事態」にはなりえません。

ミスチーフ事件と同じ事件が起きたとしても、武力衝突にならない限り、領有権未確定の領域で領有権主張国が実効支配しても「他国への武力攻撃」と解釈することは出来ません。出来るとすれば、その領域の領有権がいずれの国にあるか日本が明確に支持した場合だけです。
つまり、南沙諸島はフィリピンの領土であり、日本はそれを支持すると公言する必要があるわけです*1。戦争法案上は、そこで初めて自衛隊武力行使目的で海外派兵できるわけですが、もう一つ条件があります。それは、日本政府が、南沙諸島はフィリピンの領土であり、“そこに領土問題は存在しない”という宣言をするという条件です。なぜ、これが必要かというと、日本国憲法第9条は「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を明示的に禁止しているからです。
“領土問題”という「国際紛争」を解決するために武力行使目的の海外派兵をすることが、憲法で明示的に禁止されている以上、戦争法案に沿って自衛隊を海外派兵するためには、“そこに領土問題は存在しない”と主張するしかありません。嘘つき安倍なら、そのくらい朝飯前でやるでしょうけど、少なくとも戦争法案だけでは対応できないと言えます。

沖縄県尖閣諸島周辺での領海侵入

“そこに領土問題は存在しない”という虚飾の事例。
その虚飾に目をつぶったとしても、この問題、仮に中国軍尖閣諸島に上陸したとしても、現行の法体系で対応できるもので戦争法案は必要ありませんね。

日中中間線付近でのガス田開発」

日本側が境界と主張する中間線の中国側で中国がガス田を開発してるだけで、そもそも何の問題もありませんが、気に入らないから先制攻撃を仕掛けたいということでしょうか。クウェートに侵攻したフセインイラクとどこが違うんでしょうかね。
戦争法案がどのようにこれに対抗する構造になっているのか、誰か説明してください。安倍政権が提出してる戦争法案は、イラククウェート侵攻を正当化するような内容なんですか?


どれを見ても「中国への抑止力を持つための安保法制」になってないんですよね。この法案支持している連中は、法案のどの内容がどのように日本に対する中国を抑止するのか、ちゃんと説明してほしいものです。
直接的に日本の抑止力が向上するような内容は、全く見当たらないんですけどねぇ。

*1:そうすることで初めて、武力衝突が伴わずとも、領土の占領という意味で「他国への武力攻撃」と見なしうる状況が成立します。