映画「カイロ宣言」を観てもいないのに歴史の捏造とか批判するのはどうかと思う。

何が問題で何が問題でないかをちゃんと吟味するべきだと思う」や「「野火」と「カイロ宣言」をつなぐちょっとした話」でも書きましたが、映画「カイロ宣言」は別に毛沢東がカイロ会談に出席する映画じゃありません。
現時点では既に映画は公開されているはずですし、あらすじも紹介されています。

开罗宣言的剧情简介 · · · · · ·

  重庆大轰炸。
  延安派曾希圣赴重庆,将重要资料交给蒋介石(马晓伟 饰),军技室破译密码专家石剑峰(胡军 饰)凭着中共的资料,破译了日军的情报,救了宋子文一命。
  石剑峰破译了:“日军可能是对美国要有行动。”上报何应钦(何政军 饰)。蒋介石将这份情报转送给美国,罗斯福选择相信美国人自己的情报。
  石剑峰破获的日军将进攻中途岛的情报。蒋介石把情报转送美国。罗斯福接见宋子文,“为了感谢中国人民对美国的帮助,我要送你份礼物。”一版由罗斯福亲自设计的纪念中国抗战五周年的邮票。
  冈村宁次派大岛一郎杀掉石剑峰。
  蒋介石拿到了山本五十六的行程电报。电报最终送到罗斯福手中,送山本五十六结束了人生最后的行程。
  大岛一郎来到重庆,见到妹妹江户英子(韩雪 饰),并把一枚藏有毒药的戒指交给妹妹。
  1943年11月18日,中国代表团乘专机赴开罗。会议期间,蒋介石夫妇与丘吉尔会晤的话不投机,与罗斯福会晤的相谈甚欢。起草宣言的会议上,王宠惠与英、美高官的据理必争。最终诞生了对中国、对世界具有重要意义的《开罗宣言》。
  罗斯福辞世,重庆降半旗致哀。
  1945年7月26日,美、英、中三国首脑及外长共同签署发表《波茨坦公告》,敦促日本无条件投降。
  杜鲁门认为日本是断然拒绝投降。第一颗原子弹在广岛爆炸,第二颗在长崎爆炸。毛泽东发表《对日寇的最后一战》声明。
  裕仁天皇发表投降诏书。
  江户英子把毒戒扣下,而石剑峰早就知悉一切,真相大白,江户英子泪流满面。
  1945年9月9日上午9时﹐何应钦在南京陆军总部大礼堂主持受降典礼﹐冈村宁次在日本投降书上签字。

http://movie.douban.com/subject/25945367/

映画の舞台となっている時代背景は重慶爆撃から日本敗戦までで、当然、毛沢東スターリンも活躍していた時代ですから、映画に出てきても何の不思議もありません。
元々、映画「カイロ宣言」に関し「毛沢東がカイロ会談に出席したという内容か」と言った揶揄が出てきたのは、映画ポスターに毛沢東(唐国強)が大きく写っていたため、中国語圏ネットで揶揄するネタにされたわけです。
中国語圏ではこの揶揄はネット内に留まらず、台湾の馬英九氏にまでコメントが求められるなど、かなり広がり、英語圏でも報じられています。ネット発のこういうネタがリアルにも出てくるというのは、それなりに見かける話ですが、これは結構広がったほうでしょう。

実際は・・・

実は映画「カイロ宣言」のポスターは何種類も作られていて、映画のメインのポスターと主要登場人物ごとのポスターがあり、毛沢東が写っているポスターのその一つにすぎません。映画のタイトルは「カイロ宣言」ですが、舞台背景は重慶爆撃から日本敗戦までで、映画中の主要人物として毛沢東がいても別に不思議でもなく、毛沢東が写っているポスターが、何種類かの主要登場人物のポスターの一つとして含まれていておかしくはありません。
そういう説明は、8月21日には映画関係者から為されています。

 主演胡军则对这一争议显得有些气愤:“海报要分主海报和人物海报,凭一张人物海报就说我们篡改历史,很无趣,也很无聊。”胡军说,只要大家看完这部电影,就会明白该片完全不会误导年轻观众:“我非常地荣幸与自豪参演了这部电影,我们一直都在尊重历史、表现历史,希望大家走进电影院认认真真地去看。”同时,刘嘉玲也呼吁观众用宏观的视野去回顾那段历史;韩雪则表示,希望影片在恢弘的历史之余,能够打动观众们的情感。

http://www.1905.com/news/20150821/924365.shtml#p1

もちろん、日本語圏では、映画「カイロ宣言」が捏造映画であるかのようには報じられましたが、その訂正は見た範囲では見当たりませんでした。中国を侮辱する格好のネタですから、わざわざ訂正して、本国内の反中右翼・ネトウヨ・安倍に睨まれても、日本企業としては損するだけですからね。
映画「カイロ宣言」のポスターをもって「中国こそ歴史修正主義」とはやし立ててる連中も見かけましたが、そういう連中はソースを確認するようなこともしませんし、映画を観てみたりもしません。

ところで中国語圏や英語圏では、8月20日くらいにはほぼ終わったネタになっているようです。元々ネチズンによる揶揄目的の曲解が起源ですから、何種類もあるポスターのうちの一つであることや映画の内容が明らかになれば消滅する短命のネタに過ぎません。
しかしながら、日本語圏では産経新聞が9月になっても嬉々として取り上げ嘲笑しています*1。まあ、産経新聞だからというのもありますが、そもそも日本語圏では映画関係者による説明や映画の内容の紹介がほぼ皆無のまま、中国侮辱のネタという認識だけが残るという状況だからでもあります。

ちなみに産経新聞の「歴史戦(笑)」の記事では、映画「カイロ宣言」について「カイロ会談に出席していない毛沢東が、さも「主役」のように登場し」と嘲笑するだけで、実際に映画でどう描かれているかについては一言も触れていません。記事は9月5日付ですから、既に公開されているはずですが、小川真由美、川越一、河崎真澄、坂本一之、田北真樹子、名村隆寛、藤本欣也、矢板明夫の7人もの記者の一人も映画「カイロ宣言」を観なかったのか、観ても理解できなかったのか、都合が悪い内容だったから言及しなかったのか、産経記者ならどれもありえるので困ります。

まあ、こういう印象操作の記事だけを垂れ流し、続報での訂正も補足も一切“意図的に”行なわないのは、産経というか日本の多くのメディアで見られる現象ですけどね。

ところで、これに関連して坂東太郎氏が残念な記事を書いていました。まあ、9月2日付の記事なので、映画「カイロ宣言」を観てはないとは思いますが(それでも8月21日には映画関係者による説明・反論がされていますから、注目して調べていればわかるはずですが)。

歴史の“ねつ造”? 映画「カイロ宣言

 この日にあわせて公開される記念映画が「カイロ宣言」。人民解放軍系の制作会社によって作られました。その宣伝用ポスターに「歴史のねつ造ではないか」と批判が起きています。
 カイロ宣言とは1943年にアメリカ大統領ルーズヴェルト、イギリス首相チャーチル蒋介石終戦後の中国領のあり方などを取り決めた会談で、米英首脳が直後のテヘラン会談でソ連スターリンとも共有し、宣言として発表されたものです。1895年の日清戦争の結果として日本が得た台湾と澎湖諸島、さらに満州などを中国に返還するという内容で、ポツダム宣言にも「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルヘク」とあり、これを日本が受諾して終戦となった重要な声明です。
 ポスターのうち、とりわけ注目されたのが米英中ソの首脳を演じた役者の写真で中国首脳が毛沢東であるかのように紹介された点でした。
 映画そのものの内容は分かりません。確かにカイロ会談に毛沢東が国の代表として送られていたら抗日の主役は共産党という中国だけにしか通用しない物語の信用性は高まります。しかし事実として毛沢東はカイロには出向いておらず、蒋介石でした。
 先に述べたように毛沢東蒋介石中心に戦ったゆえに対日勝利の祝祭を行っていません。宿敵であったがためです。それが没後39年目に後輩によってすり替えられるとは。「あいつとだけは一緒にするな。何を考えているんだ」と怒っているのは案外、泉下の毛沢東その人ではないでしょうか。

http://blogos.com/article/131552/

観てもいない映画に対し「没後39年目に後輩によってすり替えられる」などと「毛沢東がカイロ会談に出席したという内容」という前提での記述は軽率に過ぎますね。

中国語圏ネット発の揶揄ではあるけども

日本語圏の者がろくに調べもせずに「毛沢東がカイロ会談に出席したという内容」と決め付けて中国を揶揄して恥じないという傾向は、中国に対しては薄弱な根拠で侮辱して構わない、どうせ間違ったとしても追及されない安全牌という基本的な認識が日本国内で蔓延していることを示唆していると言えるでしょうね。

調べるという最低限のことをしない、ネット社会の怠惰な性向の表れとも言えるかも知れませんが、この場合は中国に対する偏った先入観に囚われている、と言った方がいいでしょう。
そういった先入観は、差別の基礎になるんですけどね。