東日本大震災での激甚災害指定は何故早かったか

基本的には、誰がどう見ても自治体の対処能力を超えた大災害で被害額の積算を待たねば判断できないような事態ではなかったからですね。瓦礫処理から道路復旧、仮設住宅、支援物資確保と輸送などの対応で自治体が各自の予算と相談しながらやっていては広域的に対応できませんので早く激甚災害に指定したのは当然です。

菅政権は震災発生の翌日2011年3月12日に激甚災害指定の閣議決定を行い、13日には政令として公布したわけですが、安倍擁護ネトウヨはこれに対してデマをばら撒いています。
その中に「デュー・プロセス(適正手続)を無視した」というものがあります。

ちょwwwデュー・プロセスを無視したことを称賛するサヨクwwwww民主主義ってなんだ!wwwwwwwwwwww
mori-yoshiroのコメント
2016/04/25 02:27

http://b.hatena.ne.jp/entry/285894945/comment/mori-yoshiro

mori-yoshiro氏のコメントは言うまでもなくデマです。菅政権による激甚災害指定は激甚災害法第2条に基づくものです。

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

(昭和三十七年九月六日法律第百五十号)
第二条  国民経済に著しい影響を及ぼし、かつ、当該災害による地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成を行なうことが特に必要と認められる災害が発生した場合には、当該災害を激甚災害として政令で指定するものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37HO150.html

2011年3月12日の時点で東日本大震災が「国民経済に著しい影響を及ぼ」すことは明白でしたし、「当該災害による地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成を行なうことが特に必要」なのも誰の目に明らかでした。これを激甚災害と指定することを「デュー・プロセスを無視」とか評価する人の頭がおかしいとしか言いようがありませんね。

東日本大震災対応と他の災害対応の違い

東日本大震災当日の閣議です。

平成23年3月11日(金)持ち回り閣議案件
一般案件
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震緊急災害対策本部の設置について
内閣府本府)
平成23年(2011年)福島第一原子力発電所事故に係る原子力災害対策本部の設置について
(同上)

http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2011/kakugi-2011031102.html

この緊急災害対策本部の設置ですが、災害対策基本法に基づく緊急災害対策本部の設置は東日本大震災以外にはありません*1参照)。他は全て、熊本地震も含めて緊急災害対策本部ではなく非常災害対策本部が設置されています。

災害対策基本法

(昭和三十六年十一月十五日法律第二百二十三号)
(非常災害対策本部の設置)
第二十四条  非常災害が発生した場合において、当該災害の規模その他の状況により当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、内閣府設置法第四十条第二項 の規定にかかわらず、臨時に内閣府に非常災害対策本部を設置することができる。
2  内閣総理大臣は、非常災害対策本部を置いたときは当該本部の名称、所管区域並びに設置の場所及び期間を、当該本部を廃止したときはその旨を、直ちに、告示しなければならない。

(緊急災害対策本部の設置)
第二十八条の二  著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、内閣府設置法第四十条第二項 の規定にかかわらず、閣議にかけて、臨時に内閣府に緊急災害対策本部を設置することができる。
2  第二十四条第二項の規定は、緊急災害対策本部について準用する。
3  第一項の規定により緊急災害対策本部が設置された場合において、当該災害に係る非常災害対策本部が既に設置されているときは、当該非常災害対策本部は廃止されるものとし、緊急災害対策本部が当該非常災害対策本部の所掌事務を承継するものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO223.html

緊急災害対策本部の設置は、「著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合」で「閣議にかけて」という条件が必要になりますが、その分強力な体制を作ることが出来ます。

組織
    緊急災害対策本部 非常災害対策本部
本部長 総理大臣 国務大臣
副本部長 国務大臣 内閣官房若しくは指定行政機関の職員又は指定地方行政機関の長若しくはその職員のうちから、内閣総理大臣が任命する者
本部員 すべての国務大臣内閣危機管理監副大臣又は国務大臣以外の指定行政機関の長のうちから内閣総理大臣が任命する者。 内閣官房若しくは指定行政機関の職員又は指定地方行政機関の長若しくはその職員のうちから、内閣総理大臣が任命する者
その他職員 内閣官房若しくは指定行政機関の職員又は指定地方行政機関の長若しくはその職員のうちから、内閣総理大臣が任命する者 内閣官房若しくは指定行政機関の職員又は指定地方行政機関の長若しくはその職員のうちから、内閣総理大臣が任命する者

緊急災害対策本部は、内閣の大臣全てが総力をあげて対応するもので政府がそのまま災害対策本部にシフトするような体制です。これに対して非常災害対策本部は国務大臣熊本地震では河野防災担当大臣が本部長)に知事・首長と官僚をつけて対応させるもので緊急災害対策本部よりはランクが落ちます。

緊急災害対策本部の設置条件「著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合」

東日本大震災の発生当日に、菅政権は「著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合」とみなし、災害対策基本法に基づく緊急災害対策本部を設置したわけです。

災害対策基本法

激甚災害の応急措置及び災害復旧に関する経費の負担区分等)
第九十七条  政府は、著しく激甚である災害(以下「激甚災害」という。)が発生したときは、別に法律で定めるところにより、応急措置及び災害復旧が迅速かつ適切に行なわれるよう措置するとともに、激甚災害を受けた地方公共団体等の経費の負担の適正を図るため、又は被災者の災害復興の意欲を振作するため、必要な施策を講ずるものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO223.html

そして災害対策基本法97条に基づき、激甚災害法を適用しました。

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

第一条  この法律は、災害対策基本法 (昭和三十六年法律第二百二十三号)に規定する著しく激甚である災害が発生した場合における国の地方公共団体に対する特別の財政援助又は被災者に対する特別の助成措置について規定するものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37HO150.html

つまり、緊急災害対策本部が設置されたということは、激甚災害が発生したということと同じであり、激甚災害が発生したのなら激甚災害法に基づく指定を行わなければならないわけです。緊急災害対策本部を設置しているのに、激甚災害の指定に2週間も3週間もかかるのは逆におかしいんですよね。
緊急災害対策本部設置というのが、激甚災害指定が他の災害に比べて格段に早かった理由と言えます。

激甚災害指定基準

もちろん、東日本大震災は誰がどう見ても激甚災害でしょうけど、一応激甚災害法適用には指定基準があります。
例えば、こんな感じです。

1 法第二章(公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助)の措置を適用すべき激甚災害は、次のいずれかに該当する災害とする。
A 当該災害に係る公共施設災害復旧事業等(法第三条第一項第一号及び第三号から第十四号までに掲げる事業をいう。以下同じ。 )の事業費の査定見込額が全国の都道府県及び市町村の当該年度の標準税収入の総額のおおむね〇・五%を超える災害
B (略)

http://www.bousai.go.jp/shiryou//houritsu/004.html

2011年3月11日の時点で津波に飲み込まれる被災地の様子はテレビを通じても把握されていたわけですが、素人目で見ても復旧にかかる事業費が「全国の都道府県及び市町村の当該年度の標準税収入の総額のおおむね〇・五%を超える災害」というのを疑う人はいないと思います*2。これを被災した自治体から政府に具体的な被害額が上がってくるまで激甚災害適用を止めてたら、それこそ大問題だと思いますけどね。

非常災害対策本部の場合

これに対して、非常災害対策本部が設置された場合は、災害対策基本法97条の要件を自動的には満たさないため、激甚災害指定基準を満たすことで激甚災害法第2条を適用させて激甚災害に指定する必要があります。

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

(昭和三十七年九月六日法律第百五十号)
第二条  国民経済に著しい影響を及ぼし、かつ、当該災害による地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成を行なうことが特に必要と認められる災害が発生した場合には、当該災害を激甚災害として政令で指定するものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37HO150.html

被害額が激甚災害指定基準に照らして微妙な場合は判断に時間がかかるのも理解できますので、2〜3週間程度かかるというのは妥当なところだと思います。

もし問題があるとすれば、そもそも非常災害対策本部ではなく緊急災害対策本部を設置するべきではなかったか、という視点で考えるべきでしょう。

*1:阪神大震災時に設置された緊急災害対策本部は災害対策基本法に拠らない。

*2:都道府県と市町村の収入総額を30兆円程度として、この0.5%が1500億円ですから、「標準税収入の総額」の0.5%も概ねその規模と思われます。公共施設災害復旧事業にかかる事業費がそれを上回ることは津波の映像だけでも明らかでしょう。