“面会交流なし6割、養育費不払い8割”という話

千田氏の記事に対する突っ込みを続けます。

現在面会交流を行っていない親子は、6割だという。しかし養育費を支払っていない親は8割である。原則的に、面会交流の権利は、養育費の支払いとリンクしてない。つまりお金は払わないのに、子どもに会うというのは、違法でも何でもない。確かに裕福ではない親の面会交流権が侵害されてしまうから仕方ないのだが、子どもはこれにも微妙な感情を示す。「正直にいって、会わなくてもよかったから、きちんとお金を払って欲しかったです」。お金で愛情は買えないが、子供の成長のために必要なお金を払うというのは、立派な愛情表現である。それなのになぜ、この法案に養育費の規定がないのだろうか。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161020-00063454/

この“面会交流なし6割、養育費不払い8割”という話のソースはWinkがWEBサイト「母子家庭共和国」上で2007年7月〜8月に行った「離婚家庭の子どもの気持ちアンケート」だと思われます(『Q&A 親の離婚と子どもの気持ち よりよい家族関係を築くためのヒント』(NPO法人Wink)に言及していますので)。
このアンケートのサンプル数は40例で、うち面会交流ありは16例(40%)、なしは24例(60%)です。
養育費については、あり9例(23%)、滞り2例(5%)、なし25例(63%)、知らない4例(10%)です。
どうも千田氏は、養育費「なし」、「滞り」、「知らない」を全て「なし」とみなして31例(78%)が不払いだと主張しているようです。しかし、「滞り」はともかく「知らない」(アンケート対象が子ども自身のため「知らない」という選択肢がある)を「なし」とみなすのは不誠実でしょう。養育費を受け取っていながら、子どもには「もらっていない」と説明する同居親だっていますからね。そこで「知らない」を除いた数を分母とすると、養育費「あり」(9例)の割合は25%、「滞り」(2例)を含めると31%になります。これを「養育費を支払っていない親は8割である」と表現するのは違和感があります。

ちなみにWinkのアンケートの良いところは面会と養育費の関連性もわかるように集計されている点です。

養育費 面会交流あり なし
あり 5 4
滞り 2 1
なし 8 16
知らない 1 3

上記から養育費「知らない」を除いて、養育費「なし」と「滞り」をまとめます。

養育費 面会交流あり なし
あり 5(33%) 4(19%)
なし・滞り 10(67%) 17(81%)
合計 15(100%) 21(100%)

このカイ2乗検定のp値は0.33程度で5%有意ではありませんが、傾向としては面会交流ありの方が養育費ありの比率が高くなっています。

なお、「滞り」を「あり」にまとめると、以下のようになります(p値は0.13)。

養育費 面会交流あり なし
あり・滞り 7(47%) 5(24%)
なし 8(53%) 16(76%)
合計 15(100%) 21(100%)

この程度のサンプル数でも、面会交流の有無と養育費支払の有無には相関が示唆されているといえるでしょうね。
念のため、5%有意でないことは相関がないことを意味しません。有意水準を5%とするなら、それに見合ったサンプル数を集める必要性があります。
いずれにせよ、養育費不払いは7割はあるじゃないか、とも思えますが...

上記は、離婚家庭の子供に対するアンケート

実は、Winkは同じ時期に、離婚経験のある母親に対してもアンケートを行っています。上記の離婚母子家庭で育った子供に対するアンケートは有効回答40件だったのに対し、離婚経験のある母親に対するアンケートの有効回答数は328件です。

こちらでは、養育費や面会交流について以下のような結果になっています。

養育費 面会交流あり(定期的) あり(不定期) なし(検討したい) なし(検討の予定なし) 合計
受け取っている 32 46 17 58 153(47%)
全額ではないが受け取っている 3 7 2 15 27(8%)
受け取っていない 5 21 10 112 148(45%)
合計 40 74 29 185 328(100%)

面会交流・養育費を「あり」「なし」に分けるとこうなります(p値<0.01)。

養育費 面会交流あり なし 合計
あり  88(77%) 92(43%) 180(55%)
なし  26(23%) 122(57%) 148(45%)
合計  114(100%) 214(100%) 328(100%)

母親に対するアンケートで見ると、面会交流なし65%、養育費不払い45%という結果になるわけで、子どもに対するアンケートとは傾向が変わってしまいます。
アンケートという性質上バイアスがかかっているのは当然ですが、それ以外の要因として、子どもは養育費をもらっているかどうかを知らされていない可能性を考慮すべきでしょう。
子どもに対するアンケートと母親に対するアンケートで共通する傾向は、養育費の有無と面会交流の有無の間には正の相関がみられるという点です。
お金が「立派な愛情表現」だというのなら、面会交流だって「立派な愛情表現」なんですよね。