民主党政権と安倍政権で完全失業率の減少の質に差はない、というかむしろ安倍政権下ではアベノミクスと関係なく下駄履かされてたりする

前記事で、完全失業率の悪化は麻生政権時に生じ民主党政権期はほぼ一貫して失業率は低下していることを指摘しました。
実際、グラフ見れば一発でわかる話です。
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しかしそれに対して、こういう安倍擁護ブコメがつきました。

民主党政権の時代は、景気の悪化で就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由。素人談義に価値はない。 https://synodos.jp/economy/15846
benitomoro33のコメント2017/10/13 15:06

http://b.hatena.ne.jp/entry/346173028/comment/benitomoro33

↓のコメにもあるのだけど就業者数の推移をはっておくよ(https://goo.gl/S1Eyqw)。リーマンショックがまさにショックだったのは判ると思うけどその後の民主党政権時代には改善せず悪化した。安倍政権になってからと好対比。
the_sun_also_risesのコメント2017/10/13 16:32

http://b.hatena.ne.jp/entry/scopedog.hatenablog.com/entry/2017/10/13/080100

要するに民主党政権下での完全失業率の減少と安倍政権下での完全失業率の減少では、同じ減少幅でも質が違うという主張です。
彼らが根拠に挙げているのが、就業者数(と非労働力人口)です。
完全失業率は、労働力人口に占める完全失業者の割合で、労働力人口は就業者と完全失業者を足したものです。15歳以上人口から労働力人口を除いたものが非労働力人口になります。
つまり計算式上、非労働力人口だった人が就業者になった場合も完全失業者が就業を諦めて非労働力人口になった場合も完全失業率は低下するということになります。

安倍信者の主張は、民主党政権下での完全失業率の減少は後者であり、安倍政権下での完全失業率の減少は前者であるというもので、そのために就業者数の推移を示しているわけですね。

(引用元:世界経済のネタ帳)
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http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=LE&c1=JP&s=&e=

これを見ると確かに安倍政権下で就業者数が増えています。
ただこれは本来、15歳以上人口の推移を踏まえないと意味がありません。

で、それを考慮して、15歳以上人口に対する就業者数の割合を年齢階級別に見るとこうなります(就業者数は原数値を使用)。
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ほぼ全ての年齢階級において民主党政権期から一貫して就業者の割合が緩やかに増えていることがわかりますね。例外が55~64歳の年齢階級で、これは2013年から上昇傾向が強くなっています(理由は後述)。

もうひとつ、15歳以上人口に対する非労働力人口の割合を年齢階級別に見てみましょう(非労働力人口は原数値を使用)。
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これも同じく、55~64歳の年齢階級を除けば、民主党政権期から一貫して緩やかに減少していることが見てとれます。
つまり、15歳以上人口に対する就業者数や非労働力人口の割合は、55~64歳の年齢階級を除けば民主党政権期から安倍政権まで一貫して増加あるいは減少傾向をとっているわけです。

したがって、55~64歳の年齢階級以外では、就業者数や非労働力人口の観点で完全失業率の低下について民主党政権期と安倍政権期に質的な差は見受けられません。

55~64歳の年齢階級で就業者数が安倍政権になって増えた理由は、年金支給開始年齢の引き上げが2013年から開始されたから

55~64歳の年齢階級で2013年から15歳以上人口に対する就業者数や非労働力人口の割合の推移傾向が変わっていることについては、アベノミクスの影響というよりは、平成12年改正による年金支給開始年齢引き上げ(2013年度から12年かけて引き上げ実施)の影響と考えるべきだと思います。年金支給開始年齢が60歳から徐々に上がっていく以上、55~64歳の年齢階級で非労働力人口の割合が減り、就業者数の割合が増えるのは当たり前の話ですし*1

結果としては、15歳以上人口に対する就業者数や非労働力人口の割合の推移において、民主党政権期と安倍政権期に質的な差があるとは言いがたく、完全失業率の減少傾向についても当然、そこに差があるとは言えないという結論になります。

むしろ逆に2013年4月から年金支給年齢が60歳から61歳に引き伸ばされ以降3年ごとに1年ずつ引き伸ばされているため、就業者数は増加し非労働力人口が減少する効果がアベノミクスとは全く関係なく発生しています。この効果は、年金支給開始年齢の引き上げという2000年に決まった政策で定年後の再雇用も企業に義務付けているため、完全失業率を減少させる効果を持ちます。言ってみれば、アベノミクスはこの年金支給開始年齢の引き上げ政策に、完全失業率減少という点で下駄を履かされているに等しいわけです。
民主党政権はそのような下駄の無い状況で完全失業率を減少させ、安倍政権は年金支給開始年齢の引き上げという下駄を履いた状態で、さらにアベノミクスを行って民主党政権時代と同程度の完全失業率減少しか達成できていないわけですね。

「2015年の日本経済と経済政策を振り返る」(片岡剛士 / 計量経済学)記事に関する件

benitomoro33氏がドヤ顔で出してきた内容です。
片岡氏はこのように書いています。

民主党政権の時期の方が長いため、1カ月あたりでみた完全失業率の改善度合いは安倍政権の方が大きいが、完全失業率の改善ペースそのものには大差はない。
しかし、第二次安倍政権と民主党政権における完全失業率の改善要因はまったく異なる。図表4は完全失業率の差の要因分解を行い、第二次安倍政権と民主党政権とを比較したものだが、民主党政権時における完全失業率の改善(-1.1%pt)は、就業者数減少(+0.74%pt)、非労働力人口の増加(-1.62%)、15歳以上人口の減少(-0.22%pt)により生じたものである。いうなれば景気の悪化が進むことで就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由である。
一方で2012年12月以降の完全失業率の改善は、景気の改善が進むことで職を求める人々が新たに労働市場に参入することで非労働力人口が減り、就業者数が増えたことで生じているということだ。

https://synodos.jp/economy/15846

第二次安倍政権が始まった2013年から年金支給開始年齢が引き上げされ始め、おそらくはその結果として就業者数が増え非労働力人口が減ったわけで、これはアベノミクスとはほぼ無関係です。実際、2013年以降の就業者数割合の増加は55~64歳の年齢階級で顕著です。片岡氏はそこを見落としています。55~64歳の年齢階級を除外するなど、何らかの調整をしてから要因分析を行わないとその結果にはあまり意味がありません。

また、そもそも片岡氏の「景気の悪化が進むことで就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由」という解釈もおかしく、15歳以上人口に対する就業者数の割合で見れば2012年までも緩やかな増加傾向にあり、「景気の悪化が進むことで就業者数が減り」と言う部分が成立しません。
15歳以上人口に対する非労働力人口の割合も同じ、2012年までも特に増加したという傾向は見られません。
すなわち、「景気の悪化が進むことで」という前提に誤りがあると言う他ありません。

さらに「景気の悪化が進むことで就業者数が減り」や「景気の改善が進むことで職を求める人々が新たに労働市場に参入する」という推論も当然視していいか疑問です。景気と就業者数にどのような相関があり、因果をどのように示しているのか。少なくとも上で引用した就業者数の推移が景気に連動しているようには全く見えません。バブル崩壊後も就業者数は増えていますし、ITバブルの時期に就業者数が減ってもいます。
個人レベルで考えれば、景気が悪くなれば専業主婦が働きに出る動機になりますし、年金で暮らせない状態の高齢者も働かざるを得ません。
したがって就業者数や非労働力人口の推移だけで景気を判断することは出来ず、「民主党政権時における完全失業率の改善...は、...景気の悪化が進むことで就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由」だとか「2012年12月以降の完全失業率の改善は、景気の改善が進むことで職を求める人々が新たに労働市場に参入することで非労働力人口が減り、就業者数が増えたことで生じている」という片岡氏の判断は、少なくとも記事に示したデータからは言うことができず、言いすぎの感が強いと言わざるを得ません。

改めてブコメを見てみる

民主党政権の時代は、景気の悪化で就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由。素人談義に価値はない。 https://synodos.jp/economy/15846
benitomoro33のコメント2017/10/13 15:06

http://b.hatena.ne.jp/entry/346173028/comment/benitomoro33

民主政権下で就業者数の減少は15歳以上人口を年齢階級別に考慮すれば減少とは言えませんし、そもそも景気の悪化と就業者数は別に相関するものでもありません。非労働力人口も15歳以上人口を年齢階級別に考慮すれば民主党政権下で特に増えたわけでもありません。

↓のコメにもあるのだけど就業者数の推移をはっておくよ(https://goo.gl/S1Eyqw)。リーマンショックがまさにショックだったのは判ると思うけどその後の民主党政権時代には改善せず悪化した。安倍政権になってからと好対比。
the_sun_also_risesのコメント2017/10/13 16:32

http://b.hatena.ne.jp/entry/scopedog.hatenablog.com/entry/2017/10/13/080100

安倍政権で就業者数が増えたのは、年金支給開始年齢の引き上げが2013年から開始されたからです。年齢階級別の人口比を考慮すれば、民主党政権時代から就業者数は増加傾向にあり、非労働人口は減少傾向にあり、安倍政権になってからそれが大きく変わってわけでもありません。
民主党政権時代には改善せず悪化した。安倍政権になってからと好対比」等という感想は、年齢階級別の人口比と年金支給開始年齢の引き上げの効果を踏まえず、表面的な増減だけを見ているからに過ぎません。