さすがに南京事件の存在すら否定するアパホテルの主張は新潮ですら擁護できないらしく論点をすり替える側面援護を始めた件。

新潮が「アパホテル炎上問題 「南京大虐殺」否定は「妄想」なのか? 中国が30万人にこだわる理由」という記事を出しています。

中身はやっぱりお決まりの否定論ですが。

“原爆死者よりも多い数字にするために30万人にした”説

 広島・長崎への原爆投下に対する日本人の非難を封じるための対抗措置とは、日本のメディアに日本軍が戦争中に行った残虐行為について報じさせることだったことはいうまでもない。残虐行為の内容は、原爆投下による広島・長崎の惨劇に見合うものでなければならず、犠牲者数も広島・長崎のそれに見合うものでなければならなかった。あとになればなるほど「南京事件」の被害者の数は膨れ上がっていくが、その理由の一つはここにあった。

被害者は「ヒロシマナガサキ」よりも多くすべし

 つまり「南京事件」は歴史的事実としてよりも、日本人に罪悪感を植え付けるためのプロパガンダとして使われたのだ。
 中国が30万人(それより多い40万人でも50万人でもよさそうなのに)という数値にこだわるのは、広島・長崎の原爆の死者は合計で約20数万人なので、それより多い数値でなければならないということだろう。それによって、中国こそが最大の戦争被害国であって、原爆の被害はあっても、日本は加害国だということをはっきりさせたいのだ。
 その証拠に、中国人と韓国人は、広島・長崎の犠牲者の慰霊セレモニーや被爆者による世界平和のアピールに異常なまでのアレルギー反応を示す。日本が唯一の原爆被害国だということを強調して国際的に同情を集め、戦争加害国なのに戦争被害国であるかのように世界に平和をアピールするのは許せないということだ。
 中国にとって、30万人かそれ以下なのかということは、どちらの国が戦争被害国として世界からより同情をかちとるかという点で重要なのだ。

http://www.dailyshincho.jp/article/2017/01231750/?all=1

要するに“中国は原爆死者数よりも南京事件犠牲者数を多くするために30万人だと主張した”、“南京事件犠牲者数はあとになればなるほど膨れ上がった”というのが、新潮や有馬哲夫氏の主張です。

ですが、これは事実ではありません。
そもそも中国側の主張する南京事件犠牲者数は、日本敗戦直後の1945年に43万人だと示され、南京軍事法廷で34万人以上、東京裁判で20万人以上とされて以降、特に変わっていません。

年代 ソース 犠牲者数表記
1945年 改造日報 43万人
1947年 南京軍事法廷判決 30万人以上
1948年 東京裁判判決 20万人以上
1976年 蒋介石秘録 30万〜40万人
1985年 南京大虐殺記念館 30万人
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140619/1403194180

また有馬氏は「広島・長崎の原爆の死者は合計で約20数万人」だと言っていますが、そもそも1945年11月時点での広島県警察部や長崎市の調査では、広島原爆の死者数は78150人、長崎原爆の死者数は23753人で「約20数万人」ではありませんでした*1
この時既に、南京事件の犠牲者数は43万人だという訴えがありましたから、有馬氏の「中国が30万人(それより多い40万人でも50万人でもよさそうなのに)という数値にこだわるのは、広島・長崎の原爆の死者は合計で約20数万人なので、それより多い数値でなければならないということだろう。」という主張は、当時の原爆・南京事件双方の犠牲者数推定の状況に無知なことからくる空想にすぎません。

「あるのは、日本軍による100人単位(累計で数千人単位)での国民党便衣兵の処刑があったようだという伝聞情報」という嘘

歴史資料は30万人説を裏付けられるか

 にもかかわらず、実際には、30万人という数値を裏付ける客観的資料は存在しない。よく引用され、中国がユネスコに世界記憶遺産登録を申請して認められた「南京大虐殺文書」にも指定されている南京安全区にいた欧米人の日記や記録でも、少人数の虐殺や暴行については目撃証言があるが、数百とか数千とかの単位のことになると伝聞ばかりになっている。
 あるのは、日本軍による100人単位(累計で数千人単位)での国民党便衣兵の処刑があったようだという伝聞情報と、ほぼ毎日のように行われる安全区にいた少人数の中国人に対する暴行(とくに女性に対する性的暴行)の目撃情報だ。

http://www.dailyshincho.jp/article/2017/01231750/?all=1

埋葬記録や生存者の証言なども歴史資料ですから、その意味では南京軍事法廷の証拠がそのまま30万人という数値を裏付けてるとも言えるんですけどね*2
問題なのは「あるのは、日本軍による100人単位(累計で数千人単位)での国民党便衣兵の処刑があったようだという伝聞情報」という記載です。

日本軍の公式記録に3000人規模の捕虜虐殺が記録されていることを有馬氏や新潮は知らないか、知ってて隠蔽してるかどちらかですね。

具体的には、「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C11111198100、支那事変 戦闘詳報綴 昭和13年(防衛省防衛研究所)」の資料に、第16師団歩兵第33連隊が1937年12月10日〜14日までの間に、3000人余りの捕虜を捕えたという記録があり、その備考欄で「俘虜ハ処断ス」と書かれ、その後の「敵ノ遺棄死体」の統計表の12月13日分に5500人の死体数が記録され、さらにその備考欄に「十二月十三日分ハ処決セシ敗残兵ヲ含ム」と書かれています。
南京攻略直後の掃蕩における日本軍による中国軍捕虜虐殺の記録いくつか
要するに、第16師団歩兵第33連隊が3000人の捕虜を捕え、その捕虜を虐殺したという日本軍公式記録です。
ここまで明確に書かれているにもかかわらず、「数百とか数千とかの単位のことになると伝聞ばかり」と書くのは悪質な歴史改竄行為としか言えません。

新潮も有馬哲夫氏も、アパと大して変わりませんね。

*1:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20160722/1469205244

*2:歴史研究において資料を丸呑みしたりしないので、史料批判するわけですが