国連拷問禁止委員会(CAT)が韓国に出した勧告の慰安婦関連部分

CATの正式名称はCommittee against Tortureですが国連で採択した人権条約に基づく条約機関であることから、国連拷問禁止委員会とここでは呼称します*1

従軍慰安婦に関する部分は多くはなく、委員会の懸念部分と勧告部分に2つに分けて記載されています。

懸念部分

47. The Committee is concerned:
(a) While welcoming the Agreement reached at the Republic of Korea-Japan Foreign Ministers’ Meeting on December 28, 2015, and taking note that there are still 38 surviving victims of sexual slavery during World War II, that the Agreement does not fully comply with the scope and content of its general comment No. 3 (2012) on the implementation of article 14 of the Convention, and fails to provide redress and reparation, including compensation and the means for as full rehabilitation as possible as well as the right to truth and assurances of non-repetition;
(略)

2015年12月28日の日韓政府間合意を歓迎するものの、未だ第二次大戦中に性奴隷被害を受けた生存者が38人いること、合意は2012年のCATによるGeneral Comment No. 3の範囲・内容を完全には遵守していないこと、そして救済と賠償に失敗していることに委員会は留意する。
General Comment No. 3 of the Committee against Torture(Implementation of article 14 by States parties)(pdf)
といった内容です。
一言で言えば、日韓合意を歓迎するが不十分、ということです。

勧告部分

48. The State party should:
(略)
(d) Revise the Agreement of 28 December 2015 between the Republic of Korea and Japan in order to ensure that the surviving victims of sexual slavery during World War II are provided with redress, including the right to compensation and rehabilitation and the right to truth, reparation and assurances of non-repetitions, in keeping with article 14 of the Convention; (略)

生存している被害者を救済するために合意を見直すべき(Revise)と勧告していますね。

勧告を受けたのは韓国政府

今回は韓国が拷問等禁止条約の遵守状況について監視報告を受ける順番でしたので勧告の対象は言うまでもなく韓国政府です(今回、同様に勧告を受けたのは、アフガニスタン、アルゼンチン、バーレーンレバノンパキスタンです。)。
ですから今回の勧告に関して、日本政府や日本メディアが「法的な拘束力はない」とか「今回の報告書に強制力はない」とか言うのはナンセンスです。日本は強制されなければ人道的な対応ひとつ取れないような国かも知れませんが、他の国にそのような態度を押し付けるのはどうかと思いますしね。
今回の勧告を受け入れるか否かは、韓国政府が主体的に判断できますし、文政権のみならず他の大統領候補者にとっても勧告内容は、日韓合意の再交渉を呼びかける上での有力な根拠になりますので、韓国政府が人権条約機関からの勧告を“尊重”するという選択肢はかなり現実的です。

もちろん、人権条約機関の勧告を尊重して再交渉を呼びかける韓国政府に対して、日本政府が人権条約機関の勧告には法的な拘束力がないと拒絶しても構わないわけですが、日本国民の一人としては、自国政府にそこまで人権を軽視してほしくないんですよね。

韓国政府と日本政府だけが当事者ではない

こんなことを言ってる人もいまして。

児玉克哉 2017/5/13 8:35
一般社団法人社会貢献推進国際機構・理事長
国連に関連した委員会が当事者の「合意」に口を挟むのは異例だ。
(略)

https://news.yahoo.co.jp/profile/author/kodamakatsuya/comments/posts/14946321036654.0e72.21922/

慰安婦問題について最も外してはならない当事者は元慰安婦ら本人です。日韓両政府だけが当事者ではありません。被害者の救済につながらないような内容を、いくら被害者以外の政府間で合意しても人権条約機関として放置するわけにはいかないのは当たり前の話です。

どこまで対応するべきか

これについても国連拷問禁止委員会はちゃんと示しています。「the Agreement does not fully comply with the scope and content of its general comment No. 3 (2012) on the implementation of article 14 of the Convention」とあるのがそれで、

ここでいう「general comment No. 3 (2012)」というのが以下です。
General Comment No. 3 of the Committee against Torture(Implementation of article 14 by States parties)(pdf)

この中で国連拷問禁止委員会は「救済(Redress)」について詳しく説明しています。

2. The Committee considers that the term “redress” in article 14 encompasses the concepts of “effective remedy” and “reparation”. The comprehensive reparative concept therefore entails restitution, compensation, rehabilitation, satisfaction and guarantees of non-repetition and refers to the full scope of measures required to redress violations under the Convention.

http://www2.ohchr.org/english/bodies/cat/docs/GC/CAT-C-GC-3_en.pdf

ここでかなり広い範囲であることを示しており、その後でさらに詳細に述べているわけですが、一見して日韓政府間合意の内容では元慰安婦らの「救済(Redress)」に不十分であることがわかります。
少なくとも、日本政府が金は払ったとふんぞり返りながら「慰安婦は性奴隷ではない」と世界中で放言して回るような態度は、「救済(Redress)」からかけ離れてるといわざるを得ません。

今もって日本社会の大多数は慰安婦問題を国家対国家の問題としてのみ捉え、被害を受けた個々の慰安婦に対しては向き合おうとしませんので、これを理解することはできないでしょうけどね。

国連の委員会 慰安婦問題の日韓合意評価も懸念

5月13日 9時32分
韓国の人権状況を審査していた国連の委員会は、慰安婦問題をめぐる日韓両政府の合意を評価しながらも、補償や被害の回復が十分ではない懸念があるとして、韓国政府に対し国際条約にのっとった改善を合意に反映させるべきだと勧告しました。
国連の拷問禁止委員会は10人の専門家でつくる委員会で、日本など150か国以上が締結している拷問禁止条約に基づいて、条約の締結国の人権状況を定期的に審査し、法的拘束力はないものの、締結国の政府に勧告などを行っています。
委員会は12日までに、韓国に対して実施した審査の結果を公表し、慰安婦問題をめぐる日韓両政府の合意についても言及しました。
この中で、委員会は日韓の合意について「歓迎する」と評価しながらも、被害者への補償や可能なかぎりの被害の回復、再発防止の確約が十分ではない懸念があるとしています。
このため韓国政府に対し、被害者には公正で適切な補償を求める権利があると定めた条約にのっとった改善を、日韓の合意に反映させるべきだと勧告しています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170513/k10010980111000.html

慰安婦巡る日韓合意、見直し勧告…国連委員会

2017年05月13日 13時25分
 【ジュネーブ=笹沢教一】国連の拷問禁止委員会は12日、2015年12月の慰安婦問題を巡る日韓合意について、「補償や名誉回復、再発防止が十分でない」として合意の見直しを勧告する報告書を発表した。
 報告書は慰安婦について「第2次世界大戦中の性奴隷制度の犠牲者」と位置づけたうえで、国連拷問等禁止条約に基づく「被害者に対する可能な限り完全な名誉回復や補償、再発防止」が不十分だと指摘し見直しを求めた。
 韓国では、文在寅ムンジェイン政権の発足とともに合意見直しを求める世論が強まっている。今回の報告書に強制力はないが、勧告の履行状況が今後、委員会の審査対象になるため、韓国が日韓合意の見直しを求める口実とする可能性がある。
 国連には人権問題を扱う機関が多数設置され、多くは慰安婦問題を巡り日本に厳しい立場を取っている。16年3月には女子差別撤廃委員会が「被害者中心の立場に立ったものでない」と日韓合意に批判的な勧告を日本に行っている。
 慰安婦問題は、国連人権委員会国連人権理事会の前身)のラディカ・クマラスワミ特別報告者による「クマラスワミ報告」(1996年)や、同委員会の小委員会に提出された「マクドガル報告」(98年)が取り上げ、日本政府の主張とは異なり、「戦時の性奴隷制度」と位置づけている。
     ◇
 日本政府は国連の拷問禁止委員会の今回の報告書が韓国政府を対象としていることから、韓国側の対応を注視する方針だ。外務省幹部は「日韓合意を順守すべきだというのが日本の立場だ。韓国にも同じ対応をとってほしい」と語った。
2017年05月13日 13時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

http://www.yomiuri.co.jp/world/20170513-OYT1T50052.html

国連慰安婦合意改正勧告」に菅官房長官「法的拘束力ない」一蹴

中央日報日本語版 5/15(月) 15:17配信
菅義偉官房長官が15日、国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会の韓日慰安婦合意改正勧告に対し「法的な拘束力はない」と述べた。
官房長官はこの日の定例記者会見で「日韓合意は当時の(潘基文国連総長も含め国連で高い評価をいただいている。今度のことは韓国への言及だ」と述べた。続いて「(委員会の勧告は)日本政府に対する法的な拘束力は全くない」と述べ、事実上履行する意思がないことを明らかにした。
国連拷問禁止委員会は12日に出した報告書で、韓日政府の2015年12月の慰安婦合意内容を改正することを勧告した。委員会は「被害者に対する補償と名誉回復、真実究明と再発防止約束などに関して合意が十分でない」とし、慰安婦被害者に対する補償と名誉回復が実現するよう両国間の従来の合意が修正されるべきだと促した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170515-00000028-cnippou-kr

2017.5.13 01:12更新

【「慰安婦」日韓合意】国連委員会が「慰安婦」日韓合意見直しを勧告 「補償や名誉回復は十分でない」 報告書で両政府に

 【ロンドン=岡部伸】国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会は12日、慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意について、被害者への補償などが不十分として、合意の見直しを勧告する報告書を発表した。在ジュネーブ日本政府代表部も確認した。
 勧告に法的拘束力はないが、韓国メディアは、事実上の合意再交渉を求めたと報じており、日韓合意の「再交渉」を公約に掲げる韓国の文在寅大統領が勧告を基に日本政府に再交渉を要求する可能性がある。
 報告書は韓国に対する審査を記したもので、同合意について「元慰安婦は現在も生存者がおり、被害者への補償や名誉回復、再発防止策が十分とはいえない」と指摘。日韓両国政府に対して、「被害者の補償と名誉回復が行われるように尽力すべきだ」と強調した。
 韓国の聯合ニュース国連勤務経験のある専門家の話として、同委員会が「『人権原理主義者』と称してもかまわないほど、世界的に最もリベラルな機構」と評されていると紹介。「勧告に強制力がない点を考慮しても、一定の信頼性と権威を持っている」とする分析を伝えた。
 同委員会は拷問等禁止条約の批准国家が履行義務を果たしているかを監視するため1987年に国連に設置された。日本は1999年に条約を批准した。国連では昨年3月にも、女子差別撤廃委員会が「日韓合意によって問題が解決したとみることはできない」と勧告している。
 合意は、日韓両国が2015年12月28日、旧日本軍による慰安婦問題に関し「最終的かつ不可逆的な解決」を確認し、日本が軍の関与と政府責任を認め、元慰安婦を支援する韓国の財団に10億円を拠出した。
 安倍晋三首相は11日の文氏と電話会談した際に合意履行を求めたが、文氏は「国民の大多数が情緒的に受け入れられないのが現実だ」とした。

http://www.sankei.com/world/news/170513/wor1705130007-n1.html

*1:各国の人権問題を取り扱うという性質上、高い独立性が担保されていますが、それは国連と無関係であることを意味しません。