外交的修辞としての2015年日韓政府間合意と1972年日中共同声明

広辞苑の「日中共同声明」の項目に「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め」という記述があることが少し前に問題視されました。
読者の皆様へ――『広辞苑 第六版』「台湾」に関連する項目の記述について

日中共同声明(1972年)にはこう書かれています。

中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html

台湾が中華人民共和国の一部であることを日本政府は理解し尊重すると書かれています。これは日本政府が、台湾が中華人民共和国の一部であることを認めたのと同義でしょうか。
普通はそうではなく外交的修辞であることを踏まえて、「台湾が中華人民共和国の一部である」という中華人民共和国の“主張”を理解した、と解釈します。あくまでも、中国がそう主張しているという事実を理解したのであって、主張内容に同意したわけでも、承認したわけでもない、という解釈ですね。
もちろん、日中共同声明には、理解するだけではなく、尊重するとも書いてありますから、全体としては、“日本政府は中国政府の主張内容に同意したわけでも承認したわけでもないが、反対もしない”という感じになりますね。

さて。

2015年日韓政府間合意には、こうあります。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

韓国政府は、日本政府が少女像について懸念していることを認知し、適切に解決されるよう努力する、とあります。これは韓国政府が、少女像の撤去・移転に同意したのと同義でしょうか。日中共同声明の場合と同様に、これも外交的修辞ですから、「日本政府が少女像について懸念していること」を韓国政府は認知した、と解釈します。あくまでも日本政府が懸念しているという事実を知ったのであって、懸念に同意するわけでも問題だと認めたわけでもない、という解釈です。
そしてこの合意でも、認知するだけではなく、適切に解決されるよう努力するとありますから、全体としては、“韓国政府としては日本政府の懸念に同意するわけでも認めるわけでもないが、適切に解決されるよう努力してあげましょう”という感じになります。

そういうわけで「韓国政府は慰安婦像が問題と認識して解決するよう努力する」なんてことは書かれていませんよ、という話。

韓国政府が日本の自発的な謝罪を期待すると“追加措置要求だ”と発狂した安倍政権は、合意直後に少女像撤去を期待するという“追加措置”を要求していたりする。 - 誰かの妄想・はてな

本文中にちゃんと韓国政府は慰安婦像が問題と認識して解決するよう努力するって書かれてません?記事見る限り合意に基づいて動くよう催促してるようにしか見えないのですが…

2018/01/18 15:34
b.hatena.ne.jp


韓国政府として少女像を問題だと認識したのではなく“なんかよくわからんけど日本政府が懸念しているらしいことは認知した”という程度の外交的修辞になっているだけです。
「適切に解決されるよう努力する」の内容についても具体的にどうすればよいかという記載は何もありません。

努力する内容も「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて」決めることであって、日本政府の意向を聞くとも書かれていません。

適切な解決が、少女像の移転や撤去を意味するとは合意のどこにも書かれていません。
少女像の移転や撤去の要求は、勝手に日本政府が合意の範囲外で主張している「追加措置」の要求に過ぎません。

ここまでかみ砕いて説明しても理解できないなら、もう少し人生経験を積めばわかるようになるんじゃないかな、と言っておきます。