こういう検証は韓国政府公表資料に対してだけではなく日本政府公表資料に対してもやるべきなんだけどね。

以下の時事通信記事の件。
韓国公表のレーダー画面、徹底分析=P3Cデータ確認も・機影写真は証拠ならず-防衛省(2019年01月25日00時27分)

内容はともかく「徹底分析」すること自体は悪くありません。問題なのは、なぜか韓国側の公表資料に対してなされる検証と同レベルの検証が日本側の公表資料に対してはなされないという点です。日本において。

では、各論点について。

「三次元対空レーダーの画面」

 ◇3次元対空レーダーの画面
 韓国側が公表した2枚のレーダー画像は、韓国駆逐艦が装備する米レイセオン社製の3次元の対空(Air Search)レーダーの画面とみられる。自衛隊の説明によると、レーダー画像の記録日時は1月23日午後2時3分。秒の表記がないため2枚の順序は不明だ。画面上部にある「TBM Posn」は探知するターゲットの方位・距離、位置を表示する略称。その下に緯度と経度が表示されている。

 ◇探知モードは航空機
 2枚のうち1枚はTBM Posn「143 0.30」とあり、これは韓国駆逐艦から南東方向に0.3カイリ(約550メートル)の距離に航空機が位置したことを意味する。ちなみに方位は0度が北、180度が南となる。画面下にはレーダーの航空機探知モード「AIR」の表示とともに、「Ht 200 ft(高度200フィート=約60メートル)」とある。表示を総合すると、1月23日午後2時3分に、P3Cとみられる航空機が韓国艦から南東約550メートルの距離にあり、高度約60メートルで飛行したという意味だ。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019012500037&g=soc

レーダー画面そのものを改竄しているといった低レベルの主張はさすがにしていません。
日本の極右政治家やネトウヨ嫌韓バカ連中のなかには、「Ht 200 ft」の「200」と「ft」の間の空白に本当は「0」がもう一つあったのに韓国側が消した、と主張しているバカもいますが。
韓国側ではメディアの取材に対して、「3300 ft」でも同様の空白があることを示すレーダー画面の参考画像を韓国軍が提示しており、これでこの件はほぼ決着とみていいでしょう*1
ただ、今度は、「200 ft」と「3300 ft」を挙げて、1の位も10の位も「0」で揃いすぎている、という主張して韓国側の捏造や改竄を匂わす論者も現れています*2
言うまでもないんですけど、1ftといったら約30cmですし、10ftでも約3mに過ぎません。航空機の高度を示すのに、30cm単位や3m単位の精度が必要かという初歩的な理解に欠けていないと出てこない主張です*3
ちなみに、航空管制官が使用するレーダー画面で表示される高度は100ft単位で「256」と表示されていたら25600ftのことを意味します*4。こういうと今度は“P3Cの高度は20000ftだった”とか主張するバカも表れそうですが・・・*5

なお、レーダー上の高度表示が100ft単位だったとしても「Ht 200 ft」は少なくとも高度100~300ft(30~90m)の範囲内であったことを示す表示ですので、日本側が主張する高度150mを維持したという主張とは整合しません。

レーダー問題で日本側は「情報交換」でしか開示に応じなかったが、低空飛行問題で韓国側は既に情報を開示している

 ◇自衛隊制服組トップは「高度150メートル」
 自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長は24日の記者会見で、1月23日のP3Cの飛行について、「高度は150メートル以上で、距離は1000メートル以上離れていた」と説明しており、今後、韓国側がこのレーダーの記録を根拠にデータの提示を求めてくる可能性もある。
 しかし、レーダー照射問題で韓国側は情報交換を拒んだ経緯があり、照射問題すら決着が付いていない。岩屋毅防衛相は24日、記者団に「未来志向の関係を構築していく」としており、防衛省側がどこまで韓国側の主張に逐一反論するかは不明だ。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019012500037&g=soc

もちろん、日本側があくまで“自分たちは高度150m以上距離1000m以上離れて飛行した”と主張するならそれでもいいんですが、既に韓国側は日本機が低空で接近した証拠を公開しているわけですから、これに反論するならば日本側も証拠をもってするべきでしょうね。
時事通信は「レーダー照射問題で韓国側は情報交換を拒んだ経緯があり」などと言っていますが、レーダー問題では日本側は確実にSTIR-180を照射されたと主張できる証拠を最後まで提示していません。自らの主張を証明する証拠を提示しないまま「情報交換」を求めた事例と今回の状況を同一視するのはおかしいですね。

写真単体で否定しても意味がない

 ◇写真、「脅威とは到底思えず」
 このほか韓国側が公表した艦上から撮影したとみられる写真には海面が写っていないため、P3Cの機体の全長(約35メートル)から高度を推定することはできない。しかも韓国艦に向かって飛行しておらず、同省幹部は「この写真が脅威の証拠と主張すること自体、到底理解できない」と話した。

 ◇赤外線写真に疑問点も
 赤外線で撮影したとみられる白黒写真も公表され、P3Cとみられる機影が写っているが、撮影日時があるだけだ。韓国側はレーダーが航空機を探知した日時と、P3Cが飛行した日時が同一であることを証明するためとみられる。海自幹部は「赤外線画像には武器の選択に必要な自艦から探知目標までの距離・高度のデータが右下に表示されるはずだ。日時だけの表示は不自然」と指摘した。(時事通信社編集委員 時事総研 不動尚史)。(2019/01/25-00:27)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019012500037&g=soc

P3Cが写っている写真には確かに海面が写っていないため、写真から高度を推定することはできませんが、同時に公開された他の画像とあわせれば、公開情報としてはまず十分な証拠能力を持つと言えるでしょう。

2019年1月23日14時01分の赤外線画像1枚(14:01:43)

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赤外線画像(14:01:43)

2019年1月23日14時03分の赤外線画像1枚(14:03:22) レーダー画面画像2枚(2-1、3-1)

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赤外線画像(14:03:22)
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レーダー画面画像(2-1)
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レーダー画面画像(3-1)

時刻不明の写真1枚(2)

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時刻不明の写真

14時3分時点の赤外線画像とレーダー画面がほぼ同じ時点の資料ですが、多少のずれがあります。
赤外線画像(14:03:22)は、ハンギョレ記事によれば「方位140度距離540メートル(0.3マイル)」となっています。
レーダー画面画像(2-1)は、14時03分(秒不明)で方位185度 距離0.70海里(約1300m) 航空機高度200フィート(約60m) 航空機位置31 59.9N 123 42.6E、レーダー画面画像(3-1)は、14時03分(秒不明)で方位143度 距離0.30海里(約560m) 航空機高度200フィート(約60m) 航空機位置32 00.3N 123 42.9E となっています*6
レーダー画面上での航空機の位置は(2-1)と(3-1)で約900m離れています。2018年12月20日の事案の際、P-1が三峰号と広開土大王の近くを通過した際の速度が概算で時速360kmくらいだったようですので*7、レーダー画面画像(2-1)と(3-1)の時間差は10秒程度と思われます。
時系列的には、
 レーダー画面画像(2-1)→赤外線画像(14:03:22)→レーダー画面画像(3-1)
または
 レーダー画面画像(2-1)→レーダー画面画像(3-1) →赤外線画像(14:03:22)
となりそうです*8。ただし、いずれも14時03分。
日本のP-3Cは、大祚栄艦のほぼ真南(方位185度)から接近し、大祚栄艦の南東側(方位143度)を通過したという感じですね。

さて、これらの画像から何がわかるかというと、まずレーダー画面画像から、14時03分に接近してきた航空機の高度(200ft)と大祚栄艦からの距離(0.7~0.3海里)の情報がわかります。そして赤外線画像(14:03:22)は、同時刻に接近していた航空機の形状を示し、時刻不明の写真と照らし合わせると、その航空機がP-3Cであることがわかります。

つまり、高度と距離の根拠としてレーダー画面画像があり、日本海自のP-3Cであったことの根拠として赤外線画像と写真があるということです。

「艦上から撮影したとみられる写真には海面が写っていない」ため、写真から高度を推定することはできませんが、写真と関連づけられるレーダー情報が高度を示しているわけで、写真単体ではなく、写真とレーダー画面と赤外線画像を総体として判定すれば、海自のP-3C大祚栄艦からの距離0.3海里高度200ftで飛行したことがわかるわけです。

その意味では時事通信記事の「同省幹部は「この写真が脅威の証拠と主張すること自体、到底理解できない」と話した」という部分は的外れで「韓国側はレーダーが航空機を探知した日時と、P3Cが飛行した日時が同一であることを証明するためとみられる」と素直に理解すべきでしょう。
「海自幹部は「赤外線画像には武器の選択に必要な自艦から探知目標までの距離・高度のデータが右下に表示されるはずだ。日時だけの表示は不自然」と指摘した」というのも意味のない指摘で、そんなのはシステムによるでしょう。そもそも韓国側は武器使用を意図していないでしょうから「武器の選択に必要な」データが示されていないこと自体に特に不自然さは無いと思いますがね。

日本側は当該機が2019年1月23日14時03分にどの座標を飛行していたかを公表すれば反論できる

これはもっとも簡単な反論方法で機密情報でもないでしょう。当該時刻に当該海域にいなかったのであれば確実に反論できますので、日本側がそれをしていないということは、日本のP-3Cが2019年1月23日14時03分に当該海域(北緯32度00分、東経123度43分附近)にいたのは間違いないでしょう。
時計のずれやGPSの精度にもよるでしょうが、赤外線画像(14:03:22)と同一時刻14時03分22秒時点のP-3Cの正確な位置を日本側が公表すれば距離的な部分については簡単に決着がつきます。
同時刻(14時03分)の大祚栄艦の位置は(31 59.9N 123 42.6E)から方位5度方向に0.7海里、あるいは(32 00.3N 123 42.9E)から方位323度方向に0.3海里と判明しているわけですから(艦艇の場合は秒単位で位置が大きく異なることはないので分単位でわかっていれば十分でしょう)。

高度情報についても、日本側が具体的な飛行高度を公表すればよいのですけどね。韓国側が公表している200ftは多分100ft単位の荒い高度で、最大で101~299ftの幅があるでしょうから、写真に海が写っていないという理由だけでは韓国側の主張を否定できませんから。
仮に高度300ft(約90m)だったとしても、日本側の150m以上だという主張が否定されてしまうわけですが、その場合、写真に海が写ってなくても何の不思議もないんじゃないですかね。



韓国公表のレーダー画面、徹底分析=P3Cデータ確認も・機影写真は証拠ならず-防衛省

2019年01月25日00時27分
 海上自衛隊のP3C哨戒機が「低空・威嚇飛行」を行ったとする韓国軍の主張。証拠として24日に公開された対空レーダーの画面とみられる画像には、韓国駆逐艦とP3C距離約550メートル、高度約60メートルと表示されていた。日本側が説明してきた高度より低いため、防衛省は公表されたレーダー画像を徹底分析するとともに、当時現場海域で警戒監視していたP3Cが保有するデータを確認、検証する方針だ。
 一方、P3Cとされる写真には水平線が写っておらず、自衛隊幹部は「高度を推定できず、証拠価値はない」と指摘した。

 ◇3次元対空レーダーの画面
 韓国側が公表した2枚のレーダー画像は、韓国駆逐艦が装備する米レイセオン社製の3次元の対空(Air Search)レーダーの画面とみられる。自衛隊の説明によると、レーダー画像の記録日時は1月23日午後2時3分。秒の表記がないため2枚の順序は不明だ。画面上部にある「TBM Posn」は探知するターゲットの方位・距離、位置を表示する略称。その下に緯度と経度が表示されている。

 ◇探知モードは航空機
 2枚のうち1枚はTBM Posn「143 0.30」とあり、これは韓国駆逐艦から南東方向に0.3カイリ(約550メートル)の距離に航空機が位置したことを意味する。ちなみに方位は0度が北、180度が南となる。画面下にはレーダーの航空機探知モード「AIR」の表示とともに、「Ht 200 ft(高度200フィート=約60メートル)」とある。表示を総合すると、1月23日午後2時3分に、P3Cとみられる航空機が韓国艦から南東約550メートルの距離にあり、高度約60メートルで飛行したという意味だ。

 ◇自衛隊制服組トップは「高度150メートル」
 自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長は24日の記者会見で、1月23日のP3Cの飛行について、「高度は150メートル以上で、距離は1000メートル以上離れていた」と説明しており、今後、韓国側がこのレーダーの記録を根拠にデータの提示を求めてくる可能性もある。
 しかし、レーダー照射問題で韓国側は情報交換を拒んだ経緯があり、照射問題すら決着が付いていない。岩屋毅防衛相は24日、記者団に「未来志向の関係を構築していく」としており、防衛省側がどこまで韓国側の主張に逐一反論するかは不明だ。

 ◇写真、「脅威とは到底思えず」
 このほか韓国側が公表した艦上から撮影したとみられる写真には海面が写っていないため、P3Cの機体の全長(約35メートル)から高度を推定することはできない。しかも韓国艦に向かって飛行しておらず、同省幹部は「この写真が脅威の証拠と主張すること自体、到底理解できない」と話した。

 ◇赤外線写真に疑問点も
 赤外線で撮影したとみられる白黒写真も公表され、P3Cとみられる機影が写っているが、撮影日時があるだけだ。韓国側はレーダーが航空機を探知した日時と、P3Cが飛行した日時が同一であることを証明するためとみられる。海自幹部は「赤外線画像には武器の選択に必要な自艦から探知目標までの距離・高度のデータが右下に表示されるはずだ。日時だけの表示は不自然」と指摘した。(時事通信社編集委員 時事総研 不動尚史)。(2019/01/25-00:27)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019012500037&g=soc

*1:http://news.hankyung.com/article/201901288519Yhttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190128-00000041-cnippou-kr

*2:https://pelicanmemo.hatenablog.com/entry/2019/01/28/201500

*3:それこそ射撃目的であれば必要でしょうけど、捜索目的なら30m単位の精度で十分でしょう。

*4:参照:http://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr14_000012.html

*5:その場合は高度6000メートルのP3Cをどう撮影すれば、あんな風に撮れるのかという話で終了ですけどね。

*6:座標については、https://twitter.com/barbette_81mm/status/1088428127175360519 での画像を参照した。

*7:2隻の距離が約2km程度でP-1が通過するのに要したのが約20秒だったことから分速6㎞、時速360㎞と概算した。

*8:ハンギョレ記事記載の方位が正確なら、多分後者