「補償」と「賠償」の違いが理解できない渡邊康弘FNNソウル支局長

FNNソウル支局長の渡邊康弘氏がこんな記事を書いています。
韓国政府の「解説書」入手!やっぱりおかしい大法院判決(2/4(月) 12:03配信FNN PRIME)

記事中で渡邊氏は、1965年日韓請求権協定に「「徴用工への賠償」が含まれていると明記」した韓国政府が解説していると主張しています。

請求権協定に「徴用工への賠償」が含まれていると明記

(略)
「被徴用韓国人の未収金」(解説76ページ)
「被徴用者の被害に対する補償」(解説76ページ)
被害に対する補償は、どう考えても「賠償金」を意味している。
そしてこの「8項目の対日請求要綱」が最終的にどうなったのかも、解説書には明記してあった。
「8項目を包含する形で完全かつ最終的に解決することにした」(解説82ページ)
つまり、最終的に請求権協定の中には「被徴用者の被害に対する補償」つまり「賠償金」が含まれたのだ。その結果について、解説書にはこう記されている。
「被徴用者の未収金と補償金、恩給等に関する請求、韓国人の対日本政府と日本国民に対する各種請求等はすべて完全かつ最終的に消滅する事になる。」 (解説84ページ)
元徴用工による賠償金の請求権は、完全かつ最終的に消滅したと、韓国政府は自国民に対して明確に解説しているのだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190204-00010003-fnnprimev-int

「被徴用者の被害に対する補償」が韓国語原文でどう書いてあるのかはわかりませんが、渡邊氏はこれを「被害に対する補償は、どう考えても「賠償金」を意味している」と主張しています。

ですが、少なくとも日本語でいう「補償」と「賠償」の定義を踏まえれば、渡邊氏の上記主張は明確に間違っています。
法律相談サイトを見てみましょう。

. 契約用語

Q. 契約書に出てくる「賠償」と「補償」はどのように違うのですか

【 回答 】 「賠償」とは、契約の当事者が債務を履行しない場合に、その相手方に対し、不履行によって生じた損害を金銭で支払うことをいいます。
また、「補償」も、損失の補填をすることを言います。
両者は混同されていますが、両者の違いは、「補償」が適法な行為によって生じた損害について損害を填補するものであるのに対し「賠償」は違法な行為によって生じた損害を填補するものである点です。つまり原因となる行為に違法性があるか否かということです。
ですから、たとえば不法行為債務不履行等による損害は「賠償」であり、適法な道路工事に伴う土地の収用への代償等は損失「補償」とされ、適法な司法手続きを経て無罪となった刑事被告人への損害の補填は、刑事「補償」の問題となるのです。

http://www.muryo-soudan.jp/advice6/index1240.aspx

上記では「「補償」が適法な行為によって生じた損害について損害を填補するものであるのに対し「賠償」は違法な行為によって生じた損害を填補するもの」と書かれています。
つまり渡邊氏が発見したという解説書にある「被徴用者の被害に対する補償」という記載をそのまま解釈すれば、ここでいう「補償」とは「適法な行為によって生じた損害について損害を填補するもの」のみを指し、「違法な行為によって生じた損害」については何ら言及されていないとしか解釈できません。

したがって渡邊氏の言う「被害に対する補償は、どう考えても「賠償金」を意味している」というのは間違いです。

ちなみに渡邊氏は「実は、去年10月に新日鉄住金に賠償を命じた韓国最高裁の判決は、この「解説」について触れている。」と解説書が自身による新発見でないことを認めています。
問題は裁判所がわざわざ「解説書」に言及していることの意味を理解できていない点です。

裁判所も完全無欠な正義ではないことは別に日韓問わず当然のことですが、それでも論理的整合性を維持しようとはします。どうしても困りそうな場合は、論点をずらしたりして証拠として採用しない、あるいは無視するなどの手段もとりますが、注目される裁判ではそういったことはしにくくなります。当該「解説書」は裁判中に原告側から出された可能性が高いと思いますが、判決文でそれに言及しているということは、意識してそれが判決の論理構成と矛盾しないような解釈を検討していると見るべきでしょう。
裁判所を過信する必要もありませんが、実態以上に間抜けな存在だと見下してかかるのも間違っています。

本件で言えば、損害賠償請求権は日韓請求権協定の対象でないというロジックを大法院判決は採用していますから、「解説書」に書かれている「被徴用者の被害に対する補償」が「賠償」では無い以上、「被徴用者の被害に対する補償」が含まれるという記載が大法院判決を覆しうる銀の弾丸になどなりはしないのが明白です。

イ このような法理に従って、前記の事実関係および採用された証拠により認められる下記の事情を総合すると、原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に含まれるとはいえない。その理由は次のとおりである。
(1) まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。
(略)
(2) 前記の請求権協定の締結経過とその前後の事情、特に下記のような事情によれば、請求権協定は日本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための協定ではなく、基本的にサンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的な債権・債務関係を政治的合意によって解決するためのものであったと考えられる。(略)
(3) 請求権協定第1条により日本政府が大韓民国政府に支払った経済協力資金が第2条による権利問題の解決と法的な対価関係があると言えるか否かも明らかではない。
(4) 請求権協定の交渉過程で日本政府は植民支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を根本的に否認し、このため韓日両国の政府は日帝韓半島支配の性格に関して合意に至ることができなかった。このような状況で強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれたとは認めがたい。
請求権協定の一方の当事者である日本政府が不法行為の存在およびそれに対する賠償責任の存在を否認する状況で、被害者側である大韓民国政府が自ら強制動員慰謝料請求権までも含む内容で請求権協定を締結したとは考えられないからである。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

まるでネットで真実を見つけた中学生みたいな対応を恥じる程度の羞恥心は渡邊氏には持っていてほしいものです。




韓国政府の「解説書」入手!やっぱりおかしい大法院判決

2/4(月) 12:03配信 FNN PRIME

古書店に眠っていた日韓請求権協定の「解説書」

ソウル市内の古書店で、1冊の本を発見した。「大韓民国と日本国間の条約および協定解説」。日韓基本条約や日韓請求権協定が結ばれた1965年に韓国政府が発行した解説書だ。黄ばんだ表紙が、54年という長い年月を感じさせる。
いわゆる徴用工をめぐる韓国最高裁の判決が日韓関係の根幹を揺るがしているが、争点となっている日韓請求権協定について、韓国政府がどう解釈し国民に説明していたのかが、この本を紐解くことで明らかになった。

請求権協定に「徴用工への賠償」が含まれていると明記

この解説書には、そもそも請求権協定とはどういうものなのかが、その交渉経過とともに記されていた。漢字とハングルが混ざった文を訳してみる。
「第2次世界大戦が終了し、韓国が日本から独立して両国が分離したことによって、両国民の他方国内の財産と両国および両国民間の色々な未解決請求権をどのように処理するのかの問題が自然に発生することになった」(解説73ページ)
「財産請求権問題は最初、請求の法的根拠と請求を立証する事実的な証拠を詰めていく方式で討議されたが、両側の見解が折衝の余地を与えないほど顕著な対立を見せたので、やむをえず各種の請求権を細分して一つ一つ別途検討しないで一つにまとめて包括的に解決することを模索することになった」(解説74ページ)
請求権協定をまとめる交渉の過程では、当初一つ一つの事例を積み上げる方式で議論がなされたが難航し、結果的に全部まとめた「包括的な解決」にしたと解説している。その「包括的な解決」に何が含まれているのかが重要だ。韓国政府は「8項目の対日請求要綱」を日本側に提示し、その中身をすべて包括するよう求めた。その8項目の中から、徴用工に関する部分を抜粋する。
「被徴用韓国人の未収金」(解説76ページ)
「被徴用者の被害に対する補償」(解説76ページ)
被害に対する補償は、どう考えても「賠償金」を意味している。
そしてこの「8項目の対日請求要綱」が最終的にどうなったのかも、解説書には明記してあった。
「8項目を包含する形で完全かつ最終的に解決することにした」(解説82ページ)
つまり、最終的に請求権協定の中には「被徴用者の被害に対する補償」つまり「賠償金」が含まれたのだ。その結果について、解説書にはこう記されている。
「被徴用者の未収金と補償金、恩給等に関する請求、韓国人の対日本政府と日本国民に対する各種請求等はすべて完全かつ最終的に消滅する事になる。」 (解説84ページ)
元徴用工による賠償金の請求権は、完全かつ最終的に消滅したと、韓国政府は自国民に対して明確に解説しているのだ。

解決済みとの「解説」を否定する韓国最高裁の超理論

実は、去年10月に新日鉄住金に賠償を命じた韓国最高裁の判決は、この「解説」について触れている。
「これ(解説)によれば、当時大韓民国の立場が個人請求権までも消滅するということだったと見られる余地もないことではない。 しかし上のように、当時の日本の立場が ‘外交的保護権限定放棄’であることが明白だった状況で大韓民国の内心の意思が上のようだったとして、請求権協定で個人請求権まで放棄されることに対する意思の合致があったと見ることはできない。さらに以後、大韓民国で請求権資金法など補償立法を通じて強制動員被害者に対して成り立った補償内訳が実際の被害に対比して極めて微小だった点に照らしてみても、大韓民国の意思が請求権協定を通じて個人請求権までも完全に放棄させるということだったと断定するのも難しい」(2018年10月30日韓国最高裁判決)
外交的保護権とは、自国民が相手国から被害を受けた際に、自国民に代わって国が相手国に賠償を請求する権利の事。判決は、韓国政府は、元徴用工が賠償を受ける権利も放棄していたかもしれないが、日本は外交的保護権だけを放棄したのは明白だから、両国の意思は一致していない、つまり元徴用工の賠償請求権は日韓請求権協定では解決していないと判断した。しかも韓国政府が行った補償があまりに少額だったので、韓国政府が、元徴用工が賠償を受ける権利を放棄していたとは断定できない、としている。
誰が「解説」を読んでも、元徴用工の賠償請求権は消滅したとしか読めないと思ったが、韓国最高裁は違ったようだ。普通の感覚ならば、韓国側が「元徴用工の賠償請求権問題は終了」と判断しているのが明確であるため、判決が断定している「日本は外交保護権だけを放棄した」という前提の方が間違っていると思うのではないか。また、韓国政府による不十分な補償も理由として挙げているのは、ほとんどブラックジョークに近い。
去年10月30日の判決から、3か月以上が過ぎたが、その間日本企業の敗訴が続いている。新日鉄住金の資産が差し押さえられた事から、日本政府は請求権協定に基づく協議を要請したが、韓国政府は応じるかどうかも明らかにしていない。事態は悪化するばかりだ。
【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190204-00010003-fnnprimev-int