北海道新聞がいいコラムを出していました

この件。
共同親権 子どもの利益最優先で(11/27 05:00)

まあ、離婚後共同親権反対派からは非難轟々のようですが、「一方で、共同親権の導入については慎重な意見も根強い。 特に、背景にドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待が潜む場合、被害者の安全を脅かし、再出発を妨げる恐れがある。」と反対派の主張についても触れており、バランスを意識したコラムと言えます。

 日本は先進国で唯一、単独親権制をとる。法改正を求める国連子どもの権利委員会の勧告もあり、積極的な対応が求められる。
 多くの課題をどう整理し、子の最善の利益の実現につなげていくか、丁寧な議論を進めるべきだ。
 親権は、未成年の子を養育するための権利と義務を指す。
 日本では裁判所を介さない協議離婚が9割を占める。面会交流や養育費の分担の取り決めが不十分な上、不履行も少なくない。
 訴訟はそうした不満の反映と言えるが、夫婦関係の破綻が親子の別れとなる現状は、子どもにとって理不尽だろう。
 他方、共同親権制は欧米などで主流だ。子どもの権利条約を踏まえ、離婚後の父母との関わりは「子の権利」との認識が広がる。
 一方の親によって国外に連れ去られた子の返還を定めるハーグ条約には日本も加盟しており、適正な対応が要求されている。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/368665

この辺は最低限の知識ですが、2019年2月の国連子どもの権利委員会による法改正を求める勧告について、勧告当時はほとんど報じられませんでしたから*1、それに言及しているだけでも進展です(最近ようやく国連勧告に触れた報道が増え始めましたが)。

「日本の単独親権制は、家父長制の名残」

コラムの最後の一文。

 日本の単独親権制は、家父長制の名残でもある。2011年の民法改正で、離婚の際は「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記された。その精神に立ち返り、議論を深めたい。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/368665

まさしく離婚後単独親権制度というのは家父長制の名残です。共同親権にある婚姻中には覆い隠されて見えなくされていますが、離婚すると顕在化する“家父長制”に他なりません。
家父長制というのは「家父長権をもつ男子が家族員を統制・支配する家族形態である」*2と定義されますが、厳密に言うと(家父長権を得る順序が男尊女卑であったものの)女性であっても家父長権を有することはできました。家父長は家族を支配し他の干渉を排除する実質的な権限を有したわけですが、離婚後単独親権制度も同様に、親権者(同居親)が子どもを支配し非親権者(別居親)の干渉を排除する実質的な権限を有しています。

戦後の新民法下で家父長制は廃止されたものの、子どもをイエのものとし家父長の支配に従わせる制度は懲戒権などの形で残り、離婚した場合は単独親権者の支配に服する形となったわけです。1970年代頃までは離婚後の単独親権者の多くは父親で、家“父”長制が存続していたわけです。
1970年代以降、離婚後親権者は母親が多くなっていきますが、制度としては変わっておらず、今も尚、子どもは単独親権者の支配に服する形になっています。

離婚後共同親権反対派のなかには非親権者(別居親)に重要事項決定権を与えることに反対という意見もありますが、これこそ離婚後単独親権者という“家父長”の権利を守れという主張そのものです。
子どもにとっては等しく親であるにも関わらず、実質的には親権(同居)の有無によって非親権者(別居親)は子どもに関わることを排除されるわけですね。


この北海道新聞のコラムに対して猪野亨弁護士がこんな反論をしています。

「日本の単独親権制は家父長制の名残」はその発想の方が古すぎ。現状は決して男親支配ではなく、むしろ母子を守る楯です。

https://twitter.com/inotoru/status/1200843267501248513

これは認識がずれているにもほどがあります。「現状は決して男親支配ではなく」とか全く関係なく、男親だろうが女親だろうが、一方の親が他方の親の干渉を排除して家族を支配する形態そのものが家父長制であって、リベラリズムの視点から忌避されるべきものです。
猪野弁護士の発言からは「男親支配」は許されないが女親支配なら許される、という思考が見て取れ、とても同意できるものではありません。

また「むしろ母子を守る楯」と言う認識は、相変わらずDVを受けて追い出され子どもと引き離された母親の存在を無視していてこれも問題です。