化学兵器としての白燐弾

復習的に。

2 「毒性化学物質」とは、生命活動に対する化学作用により、人又は動物に対し、死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る化学物質(原料及び製法のいかんを問わず、また、施設内、弾薬内その他のいかなる場所において生産されるかを問わない。)をいう。

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/mt/19930113.T1J.html
  • 2.以下の目的で使用する場合は、白燐弾は条約上の化学兵器とみなされません。

9 「この条約によって禁止されていない目的」とは、次のものをいう。
(a) 工業、農業、研究、医療又は製薬の目的その他の平和的目的
(b) 防護目的、すなわち、毒性化学物質及び化学兵器に対する防護に直接関係する目的
(c) 化学兵器の使用に関連せず、かつ、化学物質の毒性を戦争の方法として利用するものでない軍事的目的
(d) 国内の暴動の鎮圧を含む法の執行のための目的

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/mt/19930113.T1J.html

白燐弾を煙幕目的で使用した場合、この9(c)の規定から、化学兵器とは見なせません。

  • 3.逆に白燐の毒性を戦争の方法として利用した場合、白燐弾化学兵器となります。

1 「化学兵器」とは、次の物を合わせたもの又は次の物を個別にいう。
(a) 毒性化学物質及びその前駆物質。ただし、この条約によって禁止されていない目的のためのものであり、かつ、種類及び量が当該目的に適合する場合を除く。

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/mt/19930113.T1J.html

まとめ

化学兵器禁止条約の視点から見た場合、白燐弾が煙幕目的で設計したかどうかに関係なく、どのような目的で使用したかによって、化学兵器かどうかが決まります。
例えば、M825白燐発煙弾は発煙目的で設計したものですが、それは化学兵器禁止条約上は関係ありません。

そして、M825白燐発煙弾を目の前において、これは化学兵器かどうかを問うても意味がありません。なぜならどのような目的で使用するかによって化学兵器かどうかが決まるからです。
M825白燐発煙弾を対人被害が生じないように純粋に煙幕として使用した場合は、化学兵器ではありませんが、同じM825白燐発煙弾を白燐飛沫が人体に降りかかるように使用した場合は、化学兵器となります。


しかし、これは殺人事件において殺意を立証するのに似た立証困難性があります。M825白燐発煙弾を使用した軍組織が、その使用目的を告白しない限り、どのような意図で使用したかを部外者が証明することはほぼ不可能だからです。現実に白燐が人体に降り注ぎ被害を出したとしても、「手違い」「事故」と軍組織に主張されれば、それを虚偽と証明することもまた困難です。
殺人事件の場合は、取り調べる側が情報収集・状況などの面で圧倒的に有利な立場で容疑者に殺意の有無を問う事が出来るのに対し、白燐弾の使用目的を糾弾する場合は、取り調べられる軍組織の方が、糾弾する人権団体より遥かに有利な立場にあります。
こういった非対称性を理解できれば、軍組織による白燐弾使用目的の公式見解を鵜呑みにできないことは容易に理解できるはずです。

が、理解できない、というより理解したくない人はいるのでしょうね。



関連:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20090119/1232387507