前の記事に、noharraさんから批判的なTBを頂きました。
2012-05-20 - 弯曲していく日常
批判ではありますが、首肯させられるところも多く有難い内容です。
非対称的抑圧関係に置かれたウイグル人が何らの「独立」を指向するのは当然であり、それに「排外主義的な傾向」を見出すのは、現在の秩序至上主義に陥っている。
http://d.hatena.ne.jp/noharra/20120520#p1
この指摘に関しては私自身、新疆の問題がいかに解決されるべきか判断しかねているところもあり、必ずしも「現在の秩序至上主義」のつもりはありませんがそのように思わせる記述だったかもしれません。
ただ指摘しておきたいのは、新疆の民族対立ではウイグル人だけではなく漢人にも犠牲者が出ている点です。いずれの犠牲者も統治者である中共政府の民族政策の拙さに原因があるのは確かでしょう。
ウイグル人が圧制の犠牲者であることは確かですが、新疆開発のためや経済的な利益を求めて流入した、あるいは経済的な事情からそうせざるを得なかった漢人だって政策の犠牲者と言えます。いずれも現状に強い不満を持っており、それが民族対立を悪化させているように思えます。ウイグル人から見れば、流入した漢人は中共政府の手先に見えるでしょうが*1、漢人から見ればウイグル人にも利益をもたらす(はずの)経済発展の妨害をしているとも解釈されるでしょう。もちろん、そういった意識が少数民族に対する差別意識と区別しがたいものであることは確かですが。
ウイグル人が独立を指向することには理解できますが、新疆が東トルキスタンとして独立した場合、新疆内の漢人をどうするのか。そういったことは懸念せざるを得ません。もし、新生東トルキスタンが漢人も含めた多民族国家として成立するのなら、私個人としては歓迎です*2。
しかし、世界ウイグル会議のHPの記載からは、そういった多民族融和的な理念が読み取れませんでした。
一方で、もし中共政府が民族対立を平和的に解決できるなら、新疆が独立する必要はないでしょう。ここ20年ほどの中共の民族政策は、現状を見る限り失敗だったと言わざるを得ません。今後、うまく解決できる見込みもほとんどないとは思います*3。
もう一点、中共政府が政策目標としてウイグル人に対する抑圧やジェノサイドを掲げているわけではなく、中共政府としては各民族が融和した上で多民族国家を形成することが理想的な形態のはずだという点。問題はその目的に適した民族政策ができていないことですが、これもまた単純な回答があるわけでもありません。
新疆が中国にとどまるにしても東トルキスタンとして独立するにしても、多民族国家となることは避けられない以上、民族対立をどのように解消するべきかという視点が重要であって、「独立」が唯一解とは限らないことには留意すべきでしょう。
では、どうすべきかというとやはり難しい問題と言わざるを得ません。人権保護がなされるよう時間をかけて訴えていくことが正攻法でしょうが、その時間の間にも犠牲者は出るわけですし、かといって性急な行動を取れば、より多くの犠牲者を出すでしょう。
ウイグル人(たち)が抑圧されているという関係が存在する場合は、ウイグル人(たち)が抑圧に甘んじる以外に、漢民族との対立を避ける道はない。「ウイグル人が漢民族を迫害する懸念」にだけ注目するのは、シオニストと同じような現状に対する歪んだ物の見方である。
http://d.hatena.ne.jp/noharra/20120520#p1
「ウイグル人が漢民族を迫害する懸念」にだけ注目しているつもりはありませんが、「この土地で違法居住している749万人の漢人移民」という表現にはやはり問題があると思いますよ。中共政府の民族政策に対する批判であれば、このような表現は必要ないはずです。
また、漢人に犠牲者が出ている事件もありますが、中共政府が優遇しているから漢人に犠牲者が出ても仕方がないとは言えないでしょう。いずれも中共政府の民族政策失敗の犠牲者です。
現状を改善することは必要ですが、漢人に対する憎悪を助長することは現状改善に資さないと私は考えます。