改憲論者が見落としている落とし穴

自衛隊を合憲とみなす捻じ曲げ解釈は論外ですが、憲法にせよ法律にせよ、その条文の記載が一般的なイメージどおりの機能を有しているとは限りません。どんなに厳密公正に条文を作ったとしても、想定できなかった事態はありますし、判断の難しい状況も生じえます。そういった個々の事象に対して、行政府の判断や裁判所での判決が積み重ねられていって初めて憲法や法律として有効に機能するわけです。

プライバシーなどの新しい人権や社会権の範囲などは、多くの裁判や行政運営を通して合意が形成されてきています。「公共の福祉」についても、それはどこまで認められるべきなのかを争う裁判が数多く存在し、それら判例憲法条文の記載では示しきれない詳細な適用範囲を形成しているわけです。判決そのものも時代によって変遷し、基本的人権の範囲も広がってきたわけです。
つまり憲法は一個の条文だけで独立して機能するものではなく、関連する法律・政令・条例・各種判決さらには、末端行政の実務などの積み重ねによってその解釈や範囲が形作られているわけです。

憲法を変えるということはそれらの積み重ねを全てちゃらにすることになります。*1

例えば、自民党案にある「公共の福祉」に代わる「公益及び公の秩序」という文言ですが、「公益及び公の秩序」は個人の権利をどこまで制限できるのか、全くわかりません。「公共の福祉」に関するこれまでの判例の積み重ねが「公益及び公の秩序」にそのまま適用できるかと言えば、答えはNOでしょう。「公益及び公の秩序」とは何なのか、その解釈を一から作っていかなければなりません。

「公益及び公の秩序」を政府・地方自治体の利益とみなして、これまで以上に人権を抑圧しようとする首長が出てくるかもしれません*2。もちろん、ある程度は裁判所が歯止めをかけるでしょうが、それが既存の「公共の福祉」に対して積み重ねられた線を維持できる保証はどこにもありません。

改憲を議論する時は、条文の文言だけを吟味するのではなく、既存の文言の背景にある法令・判例の積み重ねを考慮する必要があるのですが、言葉遊びに終始している意見ばかりが目立っているように感じますね。

*1:追記:この部分に対し、憲法96条がどうの、とドヤ顔でコメントしてくるバカがいますが、改正手続をとった改憲でも同じことが言えることは変りません。その辺が理解できないほどのバカだから絡んできてるんでしょうけどね。次は削除しないであげるので、どうしても恥をかきたいのであればもう一度コメントしてみてください。tasponさん。

*2:少なくとも東京と大阪には既に存在していますね。

自民党右翼議員がアメリカへ物見遊山

歴史修正主義者の自民党竹本直一古屋圭司衆院議員と山谷えり子塚田一郎参院議員が、わざわざアメリカまで行って現地市長に従軍慰安婦否定論を叫んだものの軽くあしらわれたようです。

米国の慰安婦追悼碑、日本の政治家が撤去要求
中央日報日本語版 5月8日(火)8時57分配信
米国の主流社会に日本軍慰安婦の真実が知られ始め、日本政府と右翼政治家が露骨に妨害工作に乗り出している。
日本の自民党所属議員4人は6日(現地時間)、米ニュージャジー州パリセーズパーク市庁舎を訪問し、公立図書館前に建設された日本軍慰安婦追悼碑の撤去を要求した。
自民党竹本直一古屋圭司衆院議員と山谷えり子塚田一郎参院議員はパリセーズパーク市のジェームス・ロタンド市長、ジェイソン・キム副市長、イ・ジョンチョル市議長との非公開面談でこのように主張した。
自民党内の「日本人拉致問題委員会」に所属する日本の議員らは「慰安婦は日本政府や軍が運営したのではなく、民間が雇用した職業女性だった」とし「韓国で日本軍慰安婦問題を提起している市民団体は北朝鮮と関係がある」と強弁した。
特に、日本政府のホームページに慰安婦問題について謝罪した93年の河野洋平官房長官の談話が掲載されていると指摘すると、「それは過去の立場」として全面否定した。
これに対しロタンド市長が「追悼碑は市当局が徹底的な資料調査を通じて事実関係を確認した後、米国市民の税金で設置した。これを撤去したり修正したりする計画はない」と日本議員の要求を一蹴した。
市当局の断固たる立場に日本議員は急いで席を外した後、「まだ始まりにすぎない」として今後も追悼碑撤去に向けて働きかけていく意向を表した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120508-00000003-cnippou-kr

アメリカのニュージャージーまで行って何やってんだよ、と思いましたが調べたら、こういうことだったらしいです。

救う会全国協議会ニュース★☆(2012.05.07)訪米団を派遣
■ 北朝鮮情勢の新展開を踏まえて訪米団を派遣
家族会、救う会拉致議連は5月6日から1週間、訪米団を派遣する。
家族会から飯塚繁雄代表と増元照明事務局長、救う会から西岡力会長、島田洋一副会長が参加する。
拉致議連からは平沼赳夫会長(衆議院議員)、民主党の金子洋一事務局次長(参議院議員)、市村浩一郎衆議院議員)、自民党古屋圭司幹事長(衆議院議員)、山谷えりこ副会長(参議院議員)、塚田一郎参議院議員)、竹本直一衆議院議員)が参加する(部分参加も含む)。また、政府拉致問題対策本部から木村茂樹審議官らが同行する。
訪米団は米国政府、議会、専門からと面会する予定だ。訪米団が持参するメッセージの日本語原文を掲載する。訪米団はさきほど、ワシントンDCに到着した。

http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/2678935/

北朝鮮による拉致被害者支援のための訪米ですが、拉致問題共闘すべき韓国にケンカを売ってくるという税金の無駄遣いをしていたようですね。


そして本命の拉致問題については、アメリカ側から子供の連れ去り問題について苦言を呈され、日本側が逆切れするというほんとに何しに行ったんだかさっぱりわからない時間と金の浪費に終っています。

「子の連れ去りと同一視」=米高官発言に抗議―拉致家族会
時事通信 5月8日(火)10時17分配信

 【ワシントン時事】北朝鮮による拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表や超党派国会議員でつくる拉致議連平沼赳夫会長(たちあがれ日本代表)らは7日、ワシントン市内で記者会見し、国務省で同日面会したキャンベル次官補(東アジア・太平洋担当)が米国人の夫との結婚が破綻した日本人女性が子供を日本に連れ去ったケースと北朝鮮の拉致を同一視するかのような発言をしたため、「納得できない」と強く抗議したと明らかにした。
 家族会の増元照明事務局長によると、キャンベル氏は席上、「米国内で子の親権は大きな問題になっており、ルース駐日大使が拉致現場を視察した際には、『(連れ去り問題を解決しない日本に配慮する)大使を罷免しろ』という声が上がった」と説明。「拉致問題には今後も協力していくが、並行的に子の親権の問題を考えてほしい」と求めたという。
 増元氏は記者会見で、キャンベル氏に「子の親権は基本的に夫婦間の問題で、拉致は国家的な犯罪だ」と反論したと紹介。その上で、「このような姿勢では米国が拉致問題を軽視しているとしか思えない」と批判した。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120508-00000048-jij-int

外交的には「問題の構造は違うが、愛する子供や家族と引き離される悲しみはよくわかる。家族のためにお互い協力しよう」とでも言えば、満点の結果だったはずですが、オレはお前に協力しないが、お前はオレに協力しろ、という傲慢さ溢れるこの上なく痛い対応をしてきたわけですね。

アメリカ人から見れば、アメリカは日本人拉致問題の解決に協力しているのに、日本は拉致したアメリカ人を返さない恩を仇で返す民族だ、となりますね。アメリカのネトウヨ嫌日厨あたりはきっとネット上で大騒ぎしてるでしょうね。



参考:http://d.hatena.ne.jp/pr3/20120508/1336488921