第193回通常国会での内閣提出法案の衆議院での審議状況に関する雑感

第193回通常国会(安倍政権:2017/1/20〜2017/6/18)で内閣から提出された法案は66本、うち3本が閉会中審査になったものの残り63件は全て成立しています*1
法案成立率は実に95%です。一般的に議員立法の法案成立率は50%にも満たないのに対し、内閣提出法案の成立率は50%を切ることはまずなく80〜90%となることが多いのですが*2、それでも95%は高い方だと言えます。
言うまでも無く議席数が多ければ多いほど閣法の成立率は高くなる傾向にあります。最終的な本会議での議決のみならず、委員会審議などでも有利な役職を抑えることが出来るからです。しかしながら、基本的には議席数が多いから何でもできるわけでもありません。全て多数決で決めてよいのなら、圧倒的な多数派が提出する法案は審議する必要がないということになるからです。
それは提出された法案に問題が無いかチェックしたり、場合によって修正したりという審議が行われなくなることを意味し、多数派党による独裁となってしまいます。多数派党の提出する法案は常に正しく、審議の必要がない、なんてことは議会制民主主義にあっては前提とされません。
民主的な選挙によって選出された議員は“選ばれた優れた人”という意味で“選良”とも呼ばれますが、そのような選良が数に頼って独善的に法案を成立させたりしないという性善説に基づく制度に、現在はなっています。
性善説に基づく制度であるが故に、有権者が無関心に放っておいたらトンでもないことになるわけです。

さすがに全ての内閣提出法案について審議せずに多数決だけで決めてしまえば、マスコミが批判的に報じ、多くの有権者も批判的に捉えるでしょう。今のところは。

その場合、“選良”を偽装している独裁者は何を考えるかというと、形式的に審議をしている振りをします。すなわち、形式的に審議時間をかけ、与党寄りの野党を抱き込み、与党だけの賛成ではないことを偽装するわけです。そういう手法に騙されないためにも、審議で何が議論されているのかを知り、質疑に対する政府側答弁が適切かを自ら判断する必要があります。

ここで重要なのは、野党による質疑の質よりも政府側による答弁の質の方をより厳しくチェックすべきだということです。

理由としては、政府側には野党の意図するところを真摯に理解し誠実に答える義務があるという点、情報量という点において政府側がはるかに有利である点、行政・国民生活に直結する法案の成否を政府側が握っているという点、成立後の法の執行を政府側が行うという点、などが挙げられるでしょう。
にもかかわらず野党批判にばかり勤しんでいる論者は一体何なんでしょうねぇ。


それはさておき。
今国会・第193回通常国会における内閣提出法案の成立率は95%(63/66)、これをどう捉えるべきでしょうか。

政府側が真摯に法案について説明し野党の質疑に誠実に答え時に修正に応じた結果でしょうか。それとも、政府側が議席数に任せて形式的な審議のみで採決強行した結果でしょうか。
それを判断するために、成立63本の法案について会派別の賛否状況を確認してみます。

会派 賛成数 欠席数 反対数
自由民主党無所属の会 63(100%) 0 0
民進党・無所属クラブ 50(79.4%) 1(1.6%) 12(19.0%)
公明党 63(100%) 0 0
日本維新の会 61(96.8%) 0 2(3.2%)
自由党 35(55.6%) 7(11.1%) 21(33.3%)
社会民主党・市民連合 35(55.6%) 6(9.5%) 22(34.9%)
日本共産党 21(33.3%) 0 42(66.7%)

第193回国会 議案の一覧 閣法の一覧から集計。

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