根拠を示すことなく著作を捏造扱いしておいて「公開討論を」などという言い分は認める必要がない

と、橋下氏やその支持者にあらかじめ指摘しておきます。

橋下氏慰安婦発言:中央大教授が公開質問状 大阪市に提出
毎日新聞 2013年06月04日 20時13分
 旧日本軍の従軍慰安婦を巡る橋下徹大阪市長日本維新の会共同代表)の発言で名誉を傷つけられたとして、吉見義明・中央大教授が4日、発言の撤回と謝罪を求め、橋下氏への公開質問状を市に提出した。十分な回答がない場合は、提訴も検討するという。
 橋下氏は昨年8月、従軍慰安婦に関する記者団との質疑で、吉見教授の発言として「『強制連行の事実までは認められない』と発言があった」と言及。吉見教授は同年10月に文書で抗議したが、橋下氏から謝罪や撤回がなく、改めて質問状を提出した。
 質問状では「私は一貫して、慰安所で強制があったと主張し、違法性を指摘してきた」として「私の研究の根幹を否定し、社会的評価を著しく損なった」と批判。1カ月以内の回答を求めている。
 また、橋下氏が先月27日、日本外国特派員協会で記者会見した際、同席した桜内文城衆院議員(維新)が吉見教授の著作を「捏造(ねつぞう)」と発言したことへの見解も求めた。
 吉見教授は記者会見で「慰安所で強制があったことが一番問題で、橋下氏はそれをきちんと認識していない」と批判した。【茶谷亮】

http://mainichi.jp/select/news/20130605k0000m010066000c.html

侮辱・名誉毀損にあたる行為をやっておいて、抗議されたら「公開討論を」などと言うのは大衆迎合主義の真骨頂とも言えますが、こんなのに応じる必要はありません。
侮辱・名誉毀損は刑事犯罪にあたりますので、言うならば他人の物を盗んで「返せ」と抗議されたら、話し合おうとか言うようなものです。
そもそも質問状が書かれている以上、橋下氏がやるべきなのはただ質問に回答することであって討論じゃありません。反論があるなら文書で返せばいいだけです。もし「公開討論」などと言い出したら、得意のレトリックとネット応援団を利用して、討論に勝ったかのような印象操作に利用するつもりでしょうね。

文書でのまともな回答がない場合は、提訴すべきと思います*1。法廷ではレトリックもネット応援団もまず役に立ちません。ちなみに映画やゲームでは法廷のやり取りで話術が重要になってますが、実際には文書のやり取りの方が主です。名誉毀損に関して言えば、記者会見という公衆の面前で著作を捏造扱いされたことが明白*2ですから、橋下氏の発言が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認め」られない限り名誉毀損が成立するでしょう*3
橋下氏側は、吉見教授の名誉を毀損する行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと」主張しなければなりませんが、まあ、まともに考えて裁判所がそれを認める可能性はほぼ皆無と言えるでしょうね。
懸念すべきは裁判が橋下発言の公共性・公益性の有無にのみ焦点を当て、事実性に関して踏み込まない場合です*4。その場合、裁判では勝ったとしても、捏造だとデマを広げられた結果低下した社会的評価、特に慰安婦問題に関するデマの蔓延に対してはあまり役に立たない判決となります。その辺は何らかの準備が必要かもしれません。

*1:もし提訴するのなら、scopedogは吉見氏を支援します。東中野氏のようなデタラメとは違う全うな学術研究が、政治家の人気取りのために貶められるような状況は看過できません。

*2:直接的には桜内議員ですが党代表の橋下氏の代弁であることは明白で、同席した橋下氏も訂正していないため、責任は免れないでしょうね。

*3:http://www.i-foe.org/civil_suit/comment_suit_03.html

*4:つまり、吉見教授の著作が捏造であるという主張がデタラメであることに裁判所が言及しない場合があり得ます。刑法上、存命の人物に対する名誉毀損は事実の有無に関係がありませんので、公共性・公益性だけが焦点になる可能性があります。