海外での後方支援任務は必要なリソースがハンパなかったりする

竹熊さんがこんなことを言ってまして。

竹熊健太郎《一直線》 ‎@kentaro666
今回、棄権した若者の皆さんは、自衛隊に徴兵されて、日本を守るのではなく、アフガンかシリアで後方支援の任務について死線をさまよえば、少しはおわかりになるのではないかな。無関心のツケがどのように回ってくるのか。
2016年7月11日 04:51

https://twitter.com/kentaro666/status/752228890437824512

個人的には「棄権した若者」の多くはそういう目にあっても諦めて受け入れちゃうんじゃないか、と思っているので賛同できないんですが、ブクマで「徴兵」ワードにひっかかって揶揄する連中が例のごとくいたので少し指摘しておきたく。

2014年度の陸自自衛官候補生採用者数は約6000人です。

(2014年度)

区分       応募者数 採用者数 倍率
一般曹候補生 18887 2655 7.1
       4967 1001 5.0
       7291 780 9.5
       31145 4457 7.0
自衛官候補生 21224 5948 3.6
       4451 789 6.0
       5686 1502 3.8
       31361 8239 3.8
http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2015/html/ns047000.html

イラクに派遣された自衛官の派遣期間は約半年(5ヶ月程度)でした。一度に派遣される規模は500人程度でした。

持続可能な派兵規模

新規入隊する陸自隊員が年間8500人、派遣期間を半年と想定すると、現状の陸自が海外派兵できる人員は最大4250人(下士卒のみ)となります。これを超える状態が続くと、派遣部隊の構成が曹(下士官)士(兵卒)中心から曹中心へ変わらざるを得なくなり、年齢構成も高齢化するようになります。あるいは一度派遣された自衛官が再度派遣されるようになります。
自衛隊がIS壊滅後のシリアに治安維持任務で派兵されるとしたら、1.2万人規模での派兵も考えられます(イラク戦争後の英軍並み)。大規模戦闘終結後のシリアに1.2万人の自衛隊を派遣するとして、階級構成を士官1800、下士官4200、兵卒6000と想定すると*1、派兵開始9年目には自衛隊の兵卒人数が枯渇します。派兵規模を1万人規模に圧縮すれば多少持ちますが、それでも13年目には破綻します。(ここでいう「枯渇」「破綻」は現役兵卒の全てが一度は派兵されている状態のこと。)
これは任期制自衛官は2年の任期中に必ず1度は派兵される状態ですから、かなり過酷な状況で実際には志願者数減少もありえるため、破綻がもっと早く訪れる可能性が高いでしょう。
最新兵器を用いた大規模武力侵攻は投入される兵力は大きいものの作戦期間が短いため、意外にリソースを逼迫させません。10万人規模で半年間の戦闘なら、必要なリソースは5万人年です。これに対して長期間の駐留警備は兵力は小さくとも作戦期間が長いため、必要なリソースが大きくなります。1万人規模で10年間の警備なら、必要なリソースは10万人年になります。

人員が枯渇しても派兵を中止できないのであれば、採用者数を増やすしかなく、それでも足りなければ徴兵せざるを得なくなるでしょうね。10年後に徴兵制が必要となった時、徴兵制を禁止している憲法がまだ機能していればいいですけどね。

派兵規模12000人の場合の想定人員推移

派兵期間 派兵人員(曹) 派兵人員(士) 採用者数(曹) 採用者数(士) 派兵未経験(曹) 派兵未経験(士) 派兵経験(曹) 派兵経験(士)
0 4200 6000 137000 56000 0 0
0.5 4200 6000 2500 6000 132800 50000 4200 6000
1 4200 6000 128600 44000 8400 12000
1.5 4200 6000 2500 6000 126900 44000 10100 12000
2 4200 6000 122700 38000 14300 18000
2.5 4200 6000 2500 6000 121000 38000 16000 18000
3 4200 6000 116800 32000 20200 24000
3.5 4200 6000 2500 6000 115100 32000 21900 24000
4 4200 6000 110900 26000 26100 30000
4.5 4200 6000 2500 6000 109200 26000 27800 30000
5 4200 6000 105000 20000 32000 36000
5.5 4200 6000 2500 6000 103300 20000 33700 36000
6 4200 6000 99100 14000 37900 42000
6.5 4200 6000 2500 6000 97400 14000 39600 42000
7 4200 6000 93200 8000 43800 48000
7.5 4200 6000 2500 6000 91500 8000 45500 48000
8 4200 6000 87300 2000 49700 54000
8.5 4200 6000 2500 6000 85600 2000 51400 54000
9 4200 6000 81400 -4000 55600 60000

※想定条件:採用は1年ごとに発生、同じタイミングで採用者数と同数が退職、退職は経験者優先
実際には8年頃には新規採用者をそのまますぐに派兵するような状態になる。

*1:英陸軍の階級構成に相当。http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20150824/1440351953