日本政府認定拉致被害者である田中実氏に関する報道に対する日本政府の対応

2014年の段階で北朝鮮が田中実氏について入国の事実を確認した旨を日本政府に通達していた、という報道がありました*1
参考「田中実氏が北朝鮮に入国していたという情報を安倍政権はなぜ4年間も隠蔽したのだろうか?

その後、特に追加情報が出ておらずどうなったのかわからなかったので、とりあえず国会での質疑を調べてみました。

今のところ、検索にひっかかるのは2件。2018年3月20日と4月2日のみです。

2018年3月20日

第196回国会 安全保障委員会 第2号
平成三十年三月二十日(火曜日)
    午前九時開議

○渡辺(周)委員 では、最後に、田中実さんの事案について伺いたいと思うんですが、二〇一四年に、北朝鮮に入国した、生存しているという情報、ただし、本人は帰りたくないと北朝鮮側が言っているということが実はあったということが報道されましたけれども、これはストックホルム合意の、一四年五月の前の話です。
 ですから、これは交渉を有利に引き出すための、本当の話、真偽というのはわからないんだけれども、またこの時点で出てきました。これは、ひょっとしたら、北朝鮮側が何らかの日朝会談を考えているのか、それとも、日朝会談を何とか実現の道のりとするために、実はこういう話があるということで出てきているのか定かではありませんが、この田中実さんが、この方は神戸のラーメン店の店員さん、成田から、たしかオーストリアかどこかに行くという中で行方不明になったんです。その先、行方不明になったんですが、この田中実さんのことにつきまして、この情報について、真偽というものは政府はいかに把握していますでしょうか。伺います。

○河野国務大臣 拉致被害者については、日ごろから情報収集に努めているところでございますが、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、その具体的な内容について一々お答えをすることは差し控えたいと思います。

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/196/0015/main.html

2018年4月2日

第196回国会 北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会 第3号
平成三十年四月二日(月曜日)
    午後一時開議

○江田(憲)委員 (略)
 そこで、先月、一部報道ではありますが、お二方の拉致被害者の方の情報が報道されたんですね。
 三月十六日の共同通信の報道では、拉致被害者に認定されている田中実さんが、実は、北朝鮮が二〇一四年、日本側との接触で、入国していた、我々の立場では入境していたと伝えていたことが十六日わかった、しかも日本政府関係者が明らかにした、こういう報道なんですね。
 それから、二十六日には同じく共同通信が、これは今まで全く言及のなかった、金田、これはリュウコウさんとお読みするんですかね、金田龍光さんについても、北朝鮮が二〇一四年の日本側との接触で、入国していた、入境していたと伝えていたことが二十五日わかった、これも日本政府関係者が明らかにしたと書いてあるんですね。
 この事実関係をはっきりさせていただきたいと思います。

○加藤国務大臣 一つ一つのマスコミの報道に対するコメントは差し控えたいと思いますが。
 ただ、今お話がありました田中実さんについては、拉致認定がされておられる。それから、第三回の協議、日朝国交正常化交渉、これは平成十四年十月、クアラルンプールで行われた、そのときの第三回の協議において、北朝鮮側から、北朝鮮に入境したことは確認できなかった旨の回答があったという方であります。
 それから、金田さんは、金田タツミツさんとお読みするというふうに思いますが……(江田(憲)委員「タツミツさん、失礼しました」と呼ぶ)これは拉致の疑いが排除されないと我々が考えている方でございます。
 ただ、そのお二人も含めて、拉致被害者の方については平素から情報収集に努めているところでありますけれども、今後の対応にも支障を来すというおそれがあることから、一つ一つについてはコメントは差し控えさせていただいているところでございますが、いずれにしても、一日も早く全ての拉致被害者の方の帰国に向けて努力を更に傾注していきたいと考えております。

○江田(憲)委員 いや、本当に北朝鮮が認めたのであれば、それは公表するのが当たり前でしょう、政府は。何が差しさわりがあるんですかね。
 二〇一四年といえば、五月にはストックホルム合意がありましたよね。その場でも一切こういう情報についてはもたらさなかったんですか。

○加藤国務大臣 先ほど申し上げた、報道の一つ一つについてのコメントは差し控えさせていただきたいということを申し上げたところでございます。

○江田(憲)委員 いやいや、事実関係を聞いているんです、報道がどうあろうが。まさに、先ほど申し上げたような拉致家族会の皆さん始め関係者の皆さんは、喉から手が出るほど欲しいんですよ。まさにこんな、北朝鮮が今まで認めなかった入国を一転して認めたという情報があるのであれば、それは真っ先に政府として公表しなきゃだめでしょう。そんな情報があるのに、また隠蔽したとなりますよ、これは。森友、加計問題じゃありませんし、何が支障があるか、私はわからない。
 未確認ならば、なかなかそれは公表までいかないけれども、北朝鮮が本当に、これがもし事実とすれば、特に田中さんについては当然我々も認定しているわけです、当然、北朝鮮も認めたということは公表すべきだと思いますけれども、それを公表していない、今みたいな、はぐらかすということは、それは間違いだということですね、この報道は。これははっきりしていただかないと、このぐらいの情報ははっきりさせていただかないと、何の情報提供だと。さっきの大臣の政治姿勢、節目節目とか云々も全部、何か本気度を疑わせるような話になりますから。田中実さんについてはいかがなんですか。はっきりさせてください。

○加藤国務大臣 一つ一つについて、これはどうだ、あれはどうだと言われても、これはなかなか……(江田(憲)委員「一つ一つが大事なんですよ」と呼ぶ)いやいや、だから一つ一つについて申し上げられても、それについて、一つ一つの状況について申し上げるということは、今後の対応にも支障を来すということがあるわけでございます。
 ただ、今お話がありましたように、それ自体、今の話、政府の関係者で云々ということも含めて報道なされているわけでありますけれども、それについてはコメントを差し控えなければならないというふうに思いますけれども、一般論として、一般論として申し上げさせていただければ、新たな事実というものが我々としてしっかり確認されれば、それはそれとして対応していくということになるんだろうというふうに思います。

○江田(憲)委員 いや、全く理解ができないんです。
 なかったのならばなかったと。それから、あったのであれば、まずはこの田中実さんの御家族や関係者の方には当然知らせないと。そもそも北朝鮮が認めたのであれば、その話ぐらいは。
 では、なかなかそういう今の立場ではあれかもしれませんけれども、一般論として、個別の拉致被害者の方の情報がこういう形で入れば、それはちゃんと伝えているんですね。

○加藤国務大臣 あくまでも一般論として申し上げれば、そうした意味において、政府から提供できるものについてはしっかり提供させていただいている、それぞれの御家族に対して提供させていただいているということでございます。

○江田(憲)委員 本当に、れっきとしたメディアがこういう報道をしている。これは、申しわけないけれども、後で判明したとなると、またあの森友、加計と同じになりますよ。なかったのならばなかったと、事実関係をはっきりさせることが家族会、家族の皆さんのためにもなると私は思いますからね。全く闇の中ですよ、こういう報道があって。間違いなら、ちゃんと共同通信に間違いだといって抗議すべきでしょう。だけれども、否定もされない、肯定もされない。
 だから、こういう状況だから、国民にとっては、家族会の皆さんは当たり前のことですが、本当に国民にとってはわけがわからないですよ、この状況。だから、小泉政権以降、全く一ミリも進んでいないと言われるんですよ。小泉政権以降、拉致問題の解決に向けて一ミリも進んでいないじゃありませんか、美辞麗句は躍っても。
 ぜひ、この関係は今後どういうふうになるのかしっかり私も見きわめさせていただいて、またしかるべき場で政府の対応を問いただしていきたいというふうに思います。
(略)

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/196/0142/main.html

安倍政権の回答は否定も肯定もせず「報道の一つ一つについてのコメントは差し控えさせていただきたい」というゼロ回答。
河野外相は「今後の対応に支障を来すおそれがある」などと言っていますが、理由としては成立していません。
田中実氏の北朝鮮入国情報を2014年に日本政府が知っていて現在まで公表していないのなら日本政府の背信行為でしかありませんので、違うなら違うと否定する以外の選択肢は日本政府にはありません。
そもそも北朝鮮側は、田中実氏の北朝鮮入国情報を2014年に日本側に伝えたという報道内容が正しいかどうかを当然に把握していますから、「今後の対応に支障を来すおそれ」自体が虚構です。まあ、「今後の対応」とやら、拉致被害者家族に対する対応を指すのであれば別ですが。




政府認定拉致被害者(生存帰国者以外)

被害者名 北朝鮮の回答 日本側の反論
横田めぐみ 「1994年 4月に死亡」           遺骨とされた骨の一部から 別人のDNAが検出
田口八重子 「1986年 7月に自動車事故で死亡」     事故記録に本人の名前なく、裏付ける資料の提出なし
市川修一  「1979年 9月、海水浴中に心臓麻痺で死亡」 裏付ける資料等の提出なし
増元るみ子 「1981年 8月に心臓麻痺で死亡」      裏付ける資料等の提出なし
石岡亨   「1988年11月にガス事故で死亡」      裏付ける資料等の提出なし
松木薫   「1996年 8月に交通事故で死亡」      遺骨とされた骨の一部から別人のDNAが検出
原敕晁   「1986年 7月に肝硬変で死亡」       裏付ける資料等の提出なし
有本恵子  「1988年11月にガス事故で死亡」      裏付ける資料等の提出なし
曽我ミヨシ 「入国を否定」              警察は拉致の実行犯を特定し、北朝鮮工作員を国際手配
久米裕   「入国を否定」              警察の捜査で拉致が明らかに 北朝鮮工作員を国際手配
松本京子  「入国の確認できず」           警察の捜査で拉致が明らかに
田中実   「入国の確認できず」           警察の捜査で拉致が明らかに
http://www.nhk.or.jp/gendai/special/23/

*1:2018年3月16日、共同通信など