韓国から目が離せない人たちはもう少し視野を広くした方がいい

ロイターで「コラム:韓国ウォン急落シナリオの現実味=村田雅志氏」という記事が出ています。
記事では、村田氏の個人的な見解として、次のように述べています。

現在、底堅く推移している韓国ウォンだが、筆者はその先行きに対して慎重な見方を持っている。なぜなら、たとえ韓国の格付けが相対的に高い水準にあるとしても、ウォンが市場のリスク回避姿勢に対して脆弱と考えられるからだ。

http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE8AD01N20121114?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0

国際的な金融リスクがくすぶっているのは事実ですし、状況が急激に悪化した場合、ウォンが影響を受けるという脆弱性を抱えていることも事実です。「慎重な見方」というのは、将来起こりうるリスクに対する考え方として誤っているとは言えませんが、記事の内容にはいささか疑問もありますし、こういった記事を嫌韓ネタとして意味も分からず歓迎し、改ざんして流布されている*1のを見ると何ともいえない気分になります。

嫌韓が何でもかんでも韓国差別に利用するのは彼等の習性なのでどうしようもありませんが、とりあえず、記事の内容で疑問に思う箇所を上げておきます。

通常、外貨準備は緊急時に備えて米国債といった流動性が高いもので運用される。たとえば、日本の場合は、外貨準備(約1.27兆ドル)のうち1.18兆ドル程度が米国債であると言われている。一方、韓国中銀の年次報告(2011年版)によると、韓国の外貨準備のうち流動性資金と分類される資産は全体の4.5%に過ぎず、残りは収益性資産が79.7%、委託資産が15.8%となっている。

http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE8AD01N20121114?pageNumber=3&virtualBrandChannel=0

上記で、村田氏は日本と韓国の外貨準備構成の違いを挙げて、韓国ウォンの不安要素として使っています。
しかしよく見ると、日本の外貨準備については米国債の額を上げている一方、韓国の外貨準備については「流動性資金と分類される資産」と表現しています。最初に「米国債といった流動性が高いもの」と述べているように、一見「米国債」=「流動性資金と分類される資産」のようにも読めますが、日経の滝田洋一氏の記事では「韓国銀行(中央銀行)の「2011年年次報告」によれば、売却が容易な国債で運用しているのは全体の37%に過ぎない。米国の住宅ローンなどを基にした資産担保証券(ABS)が17%、社債が14%、株式が5%となっている。」とあり、「米国債」≠「流動性資金と分類される資産」と判断せざるを得ません。

報道によってばらつきがありますが、韓国の外貨準備は4割を安定的な国債・預金で、6割を収益性の高い商品で運用しているようです。

日本は外貨準備の9割を米国債、1割を外貨預金で保有し安全性と流動性の確保に努めるが、韓国の内訳は国債+預金が4割、売却が安易にできない、あるいは価値が著しく減価する可能性のある資産が6割近くも占める。

http://president.jp/articles/-/7196

実は村田氏の記事でもこう書かれています。

商品別に見ると韓国の外貨準備のうち預金に分類される資産は全体の6.6%、政府債は36.8%となっており、政府機関債、社債資産担保証券(ABS)、株式といった流動性の低い資産が外貨準備の過半を占めている。韓国の外貨準備は3234.6億ドルと世界第7位の規模に達しているが、流動性危機が生じた際に転用できる外貨準備はせいぜい4割程度と考えられ、ウォン売りの流れを食い止めるには十分とはいえない。

http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE8AD01N20121114?pageNumber=3&virtualBrandChannel=0

「韓国の外貨準備のうち流動性資金と分類される資産は全体の4.5%に過ぎず」という表現と「流動性危機が生じた際に転用できる外貨準備はせいぜい4割程度」という表現は、矛盾と言う他ありません。
日本の外貨準備のほとんどは米国債と述べた直後に、韓国について「韓国の外貨準備のうち流動性資金と分類される資産は全体の4.5%に過ぎず」というのは印象操作と取られてもやむをえないでしょう。


最後に、韓国の外貨準備のうち流動性の高い資金は4割しかない、という表現は正しいか、という点について。
「日本の場合は、外貨準備(約1.27兆ドル)のうち1.18兆ドル程度が米国債」などと、日本の外貨準備はほとんどが米国債で安全で流動性が高いことを引き合いに出して、韓国外貨準備の流動性の低さを問題にする記述が多く、韓国のみが特殊な国であるかのように述べられるのですが、実際には外貨準備の9割以上を米国債で占めている日本の方が特殊です。

そもそも、日本の通貨は安全だ、通貨危機の可能性などない、のなら日本が外貨準備として流動性や安全性を殊更重視する必要性すらありません。通貨危機の懸念がないのに、1兆ドルの資金を収益性のほとんどない米国債で運用するのは、純粋な通貨政策ではなく日米関係上、日本が米国債を引き受けざるを得ないという異常な原因によります。

東アジア諸国・地域の米国財務省証券保有高推移」などを見てわかるように、米国債保有割合は3〜5割程度で、韓国の外貨準備構成は一般的と言えます。