木村幹氏の記事についてです。
これに関して私がブクマに書いた評価は以下の通り。
scopedog
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.huffingtonpost.jp/kan-kimura/comfort-women-asahi-shimbun_b_5713083.html
気になる点もあるけど、まず評価できる真っ当な記事。 2014/08/27
私は基本的に朝日新聞の慰安婦検証記事を評価しています。指摘したい点や補足したい点は多々あれど、現在の状況下でここまで書いたこと自体、評価に値すると思っていますので。批判したい点については機会を見て書きたいところですが、ともかく全面的に賛同するわけじゃないけど評価はできるというのが、私の朝日記事に対する評価です。
木村氏記事に対しても似たような評価ですが、朝日記事に対する評価よりも高めの評価ができると思います。「気になる点もあるけど、まず評価できる真っ当な記事」と書きましたが、朝日記事に比べて「気になる点」は少ないと感じています。
それでもまあ、気になる点はあるわけでそのひとつはブクマで既に言われています。
Zephyrosianus 「朝日新聞の側もまた、このタイミングで報道を行うことにより、首脳会談に混乱が生じるであろうことは十分に予測できたはずだ」なんだか朝日新聞に要求するレベルが高すぎる気がする 2014/08/27
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.huffingtonpost.jp/kan-kimura/comfort-women-asahi-shimbun_b_5713083.html
1992年1月の報道に関する部分ですが、これに関してはZephyrosianus氏と同じ意見です。それ以外にも気になる点は若干ありますが、全体としては評価できる内容だと思います。それも朝日記事に対してあまりにひどい侮辱と中傷キャンペーンが続いている中での記事だけにかなり高い評価をつけるべきだと考えますね。
というわけで、ここでは木村氏記事に対する批判は特に述べません。批判と評価のバランスを考慮すれば、ここで多少でも批判を述べることはバランスを崩すことになると考えますので。
ここでの対象は木村氏記事に対する非難記事です。
「慰安婦問題で朝日新聞は何を検証すべきだったのか」という同名タイトルでの増田記事です。
朝日の「検証記事」は「優等生の不器用な言い訳」めいているそうだが、
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
この記事自体も「優等生の不器用な言い訳」ではなかろうか。
とまあ、基本的に木村記事をこき下ろす内容です。
慰安婦と挺身隊の混同が「スキャンダラスな捏造事件」?
この記事を信じるなら、朝日新聞読者の立場から見た植村記事は、外国(韓国)で流布されている日本国と日本国民にとって不名誉で根拠薄弱な噂話を、現地紙で反論するどころか、それに迎合し十分な検討なしに大手有力紙が大々的に掲載した。そういうことでしかなくなる。
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
この時点で、十分にスキャンダラスな捏造事件と呼ばざるを得ない。
ここで増田は明示してませんが、植村記者に言及していることから、「日本国と日本国民にとって不名誉で根拠薄弱な噂話」というのは慰安婦と挺身隊の混同を指す以外に考えられません。木村記事内で該当する部分は以下にあたります。
(木村記事)
http://www.huffingtonpost.jp/kan-kimura/comfort-women-asahi-shimbun_b_5713083.html
この点を考える上では当時、先の植村の文章と同一の主張を行っていたのが誰だったかを考えればよい。それは即ち第一に吉田清治その人であり、第二に、韓国における最大の元慰安婦支援団体である挺身隊問題対策協議会(通称「挺対協」)に他ならなかった。そしてこの両者に影響を与えたのは、1973年に出版された千田夏光の『従軍慰安婦―“声なき女”八万人の告発』という書籍だった。千田はこの著作で、ソウル新聞等に依拠する形で、朝鮮半島においては「慰安婦は挺身隊という名目で強制的に連行された」と結論付けており、このような千田の理解が、吉田証言や挺対協を創設した尹貞玉の従軍慰安婦問題に対する理解に大きな影響を与えていた。
事実、挺対協はその名称の一部に「挺身隊」を冠していることからも明らかなように、発足の当初から「慰安婦は挺身隊として強制連行された」という大前提に立っており、植村報道の3日後に行われた金学順との記者会見でも、団体側はこの見解を繰り返し示している。そのことは植村報道があろうとなかろうと、韓国の運動団体の主張に変化は全くなかったであろうことを意味している。
また朝日新聞においては「慰安婦は挺身隊として強制連行された」という理解は、80年代前半から繰り返し示されていている。その意味で、植村報道もまた同紙が用いて来た慰安婦に関する「枕詞」を繰り返したに過ぎなかった。その意味でこの植村報道の内容に、同紙の一連の報道の中で特殊な意味を見出すのには無理がある。
この木村氏の記述は概ねその通りで「この植村報道の内容に、同紙の一連の報道の中で特殊な意味を見出すのには無理がある」と言う評価は極めて妥当です。ただし補足するなら、「慰安婦は挺身隊という名目で強制的に連行された」という理解は、1973年の千田氏「従軍慰安婦」より以前から存在していると言う点です。
1965年の朴慶植氏「「朝鮮人強制連行の記録」には「戦線に連行されたのは軍人、軍属としての青年ばかりではない。うら若い同胞の女性が多数「女子挺身隊」、「戦線慰問隊」などの名目でひっぱられ、「慰安婦」として戦争遂行の犠牲にされた。」*1という記述が既にありますし、挺身隊の名目で慰安婦にされるという噂自体は戦時中から存在します*2、また、挺身隊だと騙されて慰安婦にされたという被害者もいる上、中には学籍簿に「挺身隊に動員された、という記録がある」元慰安婦もいます*3。少なくとも挺身隊募集と偽って慰安婦を集めた女衒はいたということで、根も葉もない噂話とは言えないわけです。せいぜい公的制度としての挺身隊と慰安婦は異なる、という程度に過ぎず、「根拠薄弱な噂話」とは言えません。
そして、そもそも慰安婦問題がほとんど無視されてきたために、公的制度としての挺身隊と慰安婦は異なる、という程度の事実すら1990年頃までは断言できる状態ではありませんでした。これが気に入らないとすれば、文句は慰安婦問題について真面目に調べようとしなかった日本政府に言うべきでしょうね。
いずれにしても、そのような状況にあった1980年代〜1990年代に「「慰安婦は挺身隊として強制連行された」という理解」で報道したことを「スキャンダラスな捏造事件」とは言えません。例えば、公害病の因果関係がよくわからなかった頃に風土病説とか細菌説とかを報じた新聞はたくさんありますが、それを「スキャンダラスな捏造事件」と言わないのと同じです。
朝日非難先にありきの先入観にどっぷり浸かっていない限り、そのような認識はありえません。
「以下、私が気になった点を列挙する。」と増田が列挙した内容
これがまた酷いんですよね。
1.「韓国社会にはもとから吉田証言と大同小異の風説が横行」?
1.この記事によれば、つまるところ、韓国社会にはもとから吉田証言と大同小異の風説が横行していたことになる。(「<内容の一致度を考えても>、朝日新聞の報道が<韓国>のメディアや社会に与えた影響を、過大評価するのは禁物」)
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
のっけから木村記事をよく読んでいないことがもろばれな理解です。
木村氏は「朝日新聞が83年段階で既に吉田証言を慰安婦に関わるものとして注目して取り上げたのに対し、韓国メディアはこれをより広い問題、即ち、「慰安婦をも含む強制連行問題」に関するものとして取り上げた」「当時の韓国メディアの報道は、あくまでこのような韓国国内の文脈で書かれており」と書いていることから、韓国社会での認識は、朝日報道とは一致していない、と言っています。これが何で「韓国社会にはもとから吉田証言と大同小異の風説が横行していたことになる」のかさっぱりわかりません。
今現在、朝日新聞が日韓関係を悪化させたという主張が与党や右翼メディアによって宣伝されてるよね
2.「■吉田清治氏の証言」のパラグラフでの主張は「韓国のメディアや社会」に与えた影響は限定的、というものだったのが、続く「■植村記者の記事」のパラグラフでは「朝日新聞の報道がもたらした影響が、巷間指摘されるよりも遥かに限定的」と、いつの間にか日本やそれ以外の世界での影響も限定的だったかのように話がすりかわっている。
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
朝日が日韓関係を悪化させたという主張を政治家やメディアが散々しているじゃないですか。そのように「巷間指摘されるよりも」朝日記事の影響が「遥かに限定的」なのは事実であって、「話がすりかわっている」とか認識する方が頭おかしいと思いますよ。
日本政府の対応が拙かったのは事実だしね
3.リンク先の記事が言う所の「キワモノ」「タブー」めいたその風説が、日本、韓国、それ以外の国際社会で市民権を獲得してしまったのはなぜか?92年1月11日の報道とそれに続く日本政府の対応の拙さに帰そうとしているが、それが問題をここまでこじらせた主因かと言うと、それは主観の問題だろう。個人的には眉唾ものだ。
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
まず「リンク先の記事が言う所の「キワモノ」「タブー」めいたその風説」と言うのは、木村記事では「1970年代といえば、従軍慰安婦に対する話は日韓両国の間で一種のタブーとなっており、これに先行した千田夏光らの指摘も「際物」扱いされていた時代である」と記載されていて、慰安婦問題がどうとらえられていたかの時代背景を説明しているに過ぎません。木村氏が慰安婦問題を「「キワモノ」「タブー」めいたその風説」が「市民権を獲得してしまった」などとは言っているわけではありませんので、増田の捏造と言っていい部分です。
1992年1月11日報道に対する木村氏の評価は「従軍慰安婦問題の展開過程に大きな影響を与えたことが明らか」であり、「日韓両国間における慰安婦問題の状況を一変させ、この問題が政治問題化する分岐点的存在だった」というものです。
この木村氏の評価に対して私はあまり賛同できないのですが、少なくとも「「キワモノ」「タブー」めいたその風説が、日本、韓国、それ以外の国際社会で市民権を獲得してしまった」などという評価でないことは確かでしょう。
そもそも木村氏は、慰安婦問題そのものに対する評価をこの記事では行っていません。問題設定自体が増田の脳内で勝手に作られたもので、言責を木村氏に押し付けているに過ぎません。
(木村記事)
http://www.huffingtonpost.jp/kan-kimura/comfort-women-asahi-shimbun_b_5713083.html
朝日新聞の「検証」記事や、政府自身の「河野談話検証報告書」が述べているように、同様の史料があることは既に日本政府にも知られていたから、その意味で本来なら、このことが何時公になってもよいように、日本政府があらかじめ入念な準備を積んでおくべきだったことは明らかである。当時の混乱した事態の一義的な責任が、この点を怠った当時の日本政府にあり、朝日新聞側にないことは疑いがない。
木村氏は政府対応については、このように述べています。日本政府の対応は実際拙かったという他ありませんので、この点は木村氏に同意です。
ほぼ増田の自己主張
4.92年1月11日記事の 「軍関与を示す資料」なるものは、取引先の業者が軍の威光をかさに着てむちゃくちゃやってるのがいるから、契約から排除しろという通達だったとするそれなりの説得力のある反論がある。間接的な関与も関与の内だというなら「関与」だが、「強制連行説」が否定されていない段階で「強制連行説」を主張する日本の大手新聞社が「関与」と報道した。それも政治的に極めて微妙なタイミングで。この影響や責任を軽く見るべきだろうか?
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
木村氏は1992年1月11日記事の解釈について「この時、朝日新聞が報じた史料が、日本政府の慰安所に対する「関与」を示すものであることは明らかであり、その指摘自身には間違いは存在しない。」としか述べていません。ですので、「それなりの説得力のある反論」などと自己主張しても無駄な遠吠えに過ぎません。
また「この報道は単にそれまでの「慰安所に対する日本政府の関与はなかった」という政府の公式見解を覆すものであった」という記述くらいは読んでおくべきです。「「慰安所に対する日本政府の関与はなかった」という政府の公式見解」があったわけで、「日本政府の慰安所に対する「関与」を示すもの」が報じられた後で、「間接的な関与も関与の内だというなら「関与」だが」などと言っても非難されるのが当たり前です。後ろめたくないなら、何で隠したんだという指摘くらい政府として予想できて当たり前でしょう。
増田の「それも政治的に極めて微妙なタイミングで。この影響や責任を軽く見るべきだろうか?」とか言う点については、木村氏も「しかしながら、朝日新聞の側もまた、このタイミングで報道を行うことにより、首脳会談に混乱が生じるであろうことは十分に予測できたはずだ、ということもまた、見落としてはならない。」と指摘しているんですから、「私が気になった点」として列挙すること自体ナンセンスですね。その点に関しての問題意識は、増田と木村氏で共有できているはずですよ。
ちなみに私は上でも述べたとおり、この木村氏の指摘には賛同できませんけど。
それは木村氏記事にいう話じゃないでしょうに
5.「『害』しかなかったのか、それとも従軍慰安婦問題という(中略)女性の人権問題に関わる何らかの貢献を行ってきたのか」とあるが、人権問題のためだったら、裏取りの不十分な記事や虚報、捏造が許されるのか?それは私は政治宣伝と呼ぶべきで、報道記事と呼ぶべきではないと思う。
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
木村氏が述べているのは以下の通りで、これはこれで真っ当な認識で、増田の疑問が的を大きく外しているだけです。
(木村記事)
http://www.huffingtonpost.jp/kan-kimura/comfort-women-asahi-shimbun_b_5713083.html
同紙の過去の報道は、単に誤謬を広めた「害」しかなかったのか、それとも従軍慰安婦問題という日韓両国のみならず国際社会においても重要な女性の人権に関わる積極的な問題提起を行うことで、日韓関係や女性の人権問題に関わる何らかの貢献を行ってきたのか。そもそも一連の記事の背後には当時の朝日新聞の記者たちのどのような考え − それがどの程度明確に意識されていたのかも含めて − があり、今後は同じ問題についてどのように取り組んでいくべきなのか。朝日新聞が「検証」し、また、答えなければならないのは、本来なら、これらの点についてであったはずである。
「人権問題のためだったら、裏取りの不十分な記事や虚報、捏造が許されるのか?」
私の意見として言いますと、虚報や捏造は論外ですが、「裏取りの不十分な記事」は許されると思いますよ。もし「裏取りの不十分な記事」も許されないと増田が思うのならば、中国や北朝鮮の人権問題に関する報道に対して慰安婦問題以上に声を大にして非難するべきです。情報が制限され裏取りが難しい人権問題はごまんとありますが、だからと言ってそれを「政治宣伝」と言うなら、それは中国や北朝鮮の当局の主張と変わりません。
増田が「朝日の援護射撃」と思っているだけでしょうに。
韓国側の反応と日本側の再反応によって悪循環が形成されているのは周知のことだし、朝日報道後の経緯や影響を、ことさら直接的な因果関係にのみ絞って論じるのは、朝日の掩護射撃ととられても仕方ないだろう。
http://anond.hatelabo.jp/20140827052617
「朝日の掩護射撃ととられても仕方ないだろう。」とかまるで自分以外の多くの第三者がそう思っているという書き方ですが、「朝日の掩護射撃」ととらえているのは、第一に増田自身でしょうに。
*1:(P168-169)http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140511/1399809440
*2:1944年6月の「官制改正説明資料」には「未婚女子ノ徴用ハ必至ニシテ中ニハ此等ヲ慰安婦トナスガ如キ荒唐無稽ナル流言巷間ニ伝ハリ此等悪質ナル流言ト相俟ツテ労務事情ハ今後益々困難ニ赴クモノト予想セラル」と当時の状況が書かれています。http://www.awf.or.jp/pdf/0062_p041_060.pdf