JSF氏のところに以下の内容をブクマしましたが、私の情報が古かったですね。すみません。
scopedog オーストラリアの財政が赤字ってのは間違いでしょ。経常収支と勘違いしてないか?GDPは3%の成長だし、失業率も低下している。財政収支は黒字が続いている。経常収支が赤字なのは民間の消費が活発なためだと思うが?
http://b.hatena.ne.jp/entry/obiekt.seesaa.net/article/126414704.html
去年までは財政黒字だったんですが、今年(2008年度*1 )は世界同時不況の緊急景気対策の出費のため当初黒字予想でしたが、財政赤字となってます。この景気対策出費はしばらく続く予定で、4〜5年は財政赤字が続く見込みでした。
ただし、もともとの財政状態が健全で、これまでの備蓄もあったため、此の一連の財政赤字は大きな問題ではないといわれています。
ただ、間違いは間違いでしたので、罪滅ぼしにオーストラリアの最近の財政状況を調べてみました。
オーストラリアの財政状況
ここ数年来オーストラリア経済は好調だったんですが、2008/2009年の財政は当初の黒字予想から一転して赤字になってます。実質的な景気後退は2008年10-12月期からで、それまで18年間好調でした。
リーマンショックがきっかけではありますけど、直接的なものではなく、アメリカ・EU・日本などの景気悪化を経た間接的な影響です。
また、中国の成長率低下も大きな要因と言われています*2。まあ、2007年度の輸出額の26%は中国向けなので当然ですね。
2008/2009年に財政赤字となった要因は、2008年10月に行った104億豪ドルの緊急経済対策、2009年2月に発表した2次対策424億豪ドル(4年間)によります。これらは2008年度に224.5億豪ドル、2009年度に181.2億豪ドル、2010年度に98.7億豪ドルの出費となります。
主な用途は、給付金やインフラ整備です。給付金とかの対策は左翼的なのかな?
参照
http://www.australia.or.jp/biz/economy_centre/stimulusplan2009.html
これにより、今後4年間は財政赤字になる見通しとなりました。ただし、これらは一時的なもので大きな問題にはならないと見られています。
というのも、オーストラリアは1997年以降、2001年に9.8億豪ドルの赤字を計上した以外、ずっと黒字が続いており、2008年6月末時点で429億豪ドルの資産超の状況にあるからです。
*3
みずほ総研の判断では、「オーストラリアの場合、金融危機に陥った欧米諸国と異なり金融面からの調整圧力は限定的であり、欧米のように金融部門と実体経済が連鎖的に悪化する状況は考えにくい。(略)09年のオーストラリア経済はマイナス成長となるものの、大幅なマイナス成長を記録する他の先進国に比べれば、落ち込み幅は軽微にとどまる公算である。」となっています。
他にこういう意見もありますので、財政赤字は一時的なものという見方が強いようです。
世界同時不況により、連邦政府予算は景気対策が講じられる前に赤字に転落した。しかし、歳入の減少や景気刺激策の実行を考慮に入れても、政府予算は世界各国と比較して依然健全な状態にある。
http://www.australia.or.jp/biz/economy_centre/stimulusplan2009.html
単に財政赤字だからといって、他の先進国と同様に考えるわけにはいかないようですね。実際、オーストラリア準備銀行は2008年9月以降、6回にわたって4.25%の利下げを行ってますが、これは日本には取れない対策です*4。
年度 | 連邦政府予算 | 前年比 |
---|---|---|
2002年度 | 1692億豪ドル | 1.6% |
2003年度 | 1831億豪ドル | 8.2% |
2004年度 | 1953億豪ドル | 6.6% |
2005年度 | 2061億豪ドル | 5.5% |
2006年度 | 2194億豪ドル | 6.4% |
2007年度 | 2356億豪ドル | 7.4% |
www.jlgc.org.au/JPN/duties/images/.../2008AUgaikyo.pdf
このうち9割以上が税収でまかなえるほど健全な状態が続いてました。
2005年度の歳出決算額は2426億豪ドルで、このうち防衛費は158億豪ドル、全体の約6.5%です。日本の防衛費も歳出の大体6%くらいだったと記憶してますから予算能力に対する軍事費配分としては似たような物でしょう。ただし、日本の場合は歳入の30%くらいが国債によりますから、健全性がまるで違いますし、歳出中に占める国債費を考慮すれば日本の防衛費の占める割合はオーストラリアより多いとも言えそうです。
オーストラリアの軍事費推移
年度 | (ドル換算)軍事費 | 前年比 |
---|---|---|
2003年以前 | 100億ドル以下 | - |
2004年 | 101億ドル | - |
2005年 | 105億ドル | 4.0% |
2006年 | 138億ドル | 31.4% |
2007年 | 151億ドル | 9.4% |
(SIPRI年鑑を基に防衛省が作成・www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei2/dai2/siryou2.pdf)
おそらく豪ドル-ドルレートの変動の影響もあると思います*6が、オーストラリアの軍事費は少なくともここ数年来増加してきています。
豪ドル換算でのデータは集めきれませんでしたが、2005年度予算158億豪ドルと2007年度予算220億豪ドルから見ると、軍事費は年平均18%増加しています。
労働党のラッドが首相に就任したのは2007年12月で、1996年以来ハワードの自由党政権です。軍事費増加傾向は、労働党政権だからというわけではありません。
ラッド政権の国防白書
で、問題となったラッド政権の軍備増強計画です。
豪、潜水艦倍増など海空軍大幅増強へ 政権初の国防白書
http://www.asahi.com/international/update/0503/TKY200905030169.html
2009年5月3日22時57分
【シンガポール=塚本和人】オーストラリアのラッド政権は2日、同政権としては初の国防白書を発表し、今後20年間で巡航ミサイルを搭載した潜水艦を12隻体制に倍増し、戦闘機F35を100機導入するなど、海軍、空軍を中心とした大幅な軍備増強計画を明らかにした。地元メディアは、史上最大規模の軍備増強計画としている。
白書は、アジア・太平洋地域について今後20年間で「中国がアジア最強の軍事力を持つようになる」としたうえで、中国の軍備増強やテロへの対応のために国防体制の強化が必要だと強調。新型の海軍ヘリコプター24機や駆逐艦3隻など、海軍中心の強化を目指している。
国防費については、現在の約220億豪ドル(約1兆6千億円)を17〜18年までは毎年3%増、その後、30年までは毎年2・2%増を計画している。
世界同時不況に伴う景気後退と財政赤字は、上述の通り4年で解消できる見通しで、他の先進国に比べれば大きな問題ではありません。なので、景気対策予算以外は特に大幅な修正を迫られることなく、軍事費も経済発展の予測に合わせて増加する計画を立てても、少なくとも軍事費予算の面から見て、特に軍備増強と言えるものではないでしょう。
白書の内容ですが、上記新聞報道だけから判断すると、F35戦闘機100機導入ってのは、現用機との交代と20年かけてやっていこう、という話だと思うのですがどうでしょう。そうだとすれば、普通の世代交代の話であって、増強と言えば増強ですけど、日本でもやってる話ですよね*7。
すると、増強の目玉は海軍であろうと思いますが、目に付くのは潜水艦戦力の増強ですね。
予定通り軍事費が増加すれば2030年には年間370億豪ドルくらいの予算になりますから、潜水艦数2倍と言っても経済成長規模に合わせた順当な増強ではないかと思います。
少なくとも、中国の脅威に対抗するため経済的に無理をしてでも増強している、という感じは受けません。
もちろん、これまで6隻しかなかった潜水艦を20年後に12隻にするというのはオーストラリアにとっては大幅増強と言えるでしょうが、日本の海上自衛隊も1976年から1990年までにトン数でほぼ倍増してますし(17万トン→30万トン)、バブル崩壊後も2000年に37万トン、2009年に43万トンと着実に増加していますので、オーストラリアの軍備増強を対中国危機感からの大幅増強とまでは言えないような気がします。
民主党政権でオーストラリア並みの軍備増強ができるか
何をもってオーストラリア並みと言うかによりますが”防衛費を毎年3%増”というのなら、無理でしょうね。自民党政権が続いたとしても無理だと思います。
歳入の3割を国債発行に頼ってる日本と、税収だけで歳入のほとんどを占めるオーストラリアとでは比較にならないでしょう。
財政収支が同じ赤字だと言っても、10年以上連続赤字の日本と、10年以上黒字が続き今年初めて、しかも景気刺激策としての一時的な支出増で赤字となり数年後には黒字化すると見られているオーストラリアを比較するのもあまり意味がないでしょう。
ちなみに、財政収支については日本だけが悪いわけではなく多くの先進国が似たような状況です。むしろ10年来財政黒字を続けてきたオーストラリアが良すぎるんですね。
http://www.mof.go.jp/zaisei/con_03_g04.html