日韓政府間合意関連の年末年始にかけての文政権対応を評価した個人的な理由

“今回の韓国政府の対応は批判すべき”みたいな発言をちょいちょい見かけたのですが、個人的には全く賛同できないんですよね。
もちろん、合意を破棄すべきと主張している元慰安婦らに寄り添うためにも破棄すべきだった、という意見には同意できるところも多いのですが。それとは逆方向の理由で批判している意見には全く賛同できないということです。

日韓政府間合意について私は1年前にこう書きました。

2015年の日韓政府間合意については、文言としては悪くないとも思っています。日本政府には先の記事で言及した対応をし、韓国政府には関連団体と協議して日本政府・関連団体共に了承できる形での少女像のあり方を韓国政府仲介の下で考え実施する、という方向も文言上はあり得る話でした。
あり得る形としては、韓国の財団からの出資で慰安婦記念館を作り、そこに少女像を移転し、移転にあたって日本大使レベル以上の高官が元慰安婦や関連団体の代表を前に謝罪と癒やしの言を述べて今後の和解を求める形式をとること、等が考えられます。
これは合意中の「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」に相当し、その結果として日本政府の希望通り少女像が移転されるわけで、しかも「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて」という合意文言にも適合します。「適切に解決される」努力というにふさわしいでしょう。
むしろ韓国政府が強引に少女像を撤去・移転することは「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて」とある合意に反します。
そういうわけで私自身は日韓政府間合意をそれなりに評価しています。
この意味ではハンギョレのような主張とも違います。もちろん、朝日新聞朝鮮日報とも違いますし、産経・読売とは全く違います。
韓国次期大統領候補が合意に否定的だという状況にもあまり賛同はできなくて、ちゃんと落とし所を考えているのか不安です。大統領就任直後に合意の文言を上手く利用し世論を納得させることが出来ればいいんですけどね。
要するに安倍政権や朴政権のやり方を批判するにしても、現にある合意の文言を上手く利用すべきだという考えです。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/20170113/1484261043

文政権は、日韓政府間合意について破棄も再交渉もしないと決断した上で「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」という合意に基づき、努力の継続を日本側に呼びかけています。「現にある合意の文言を上手く利用」していると言える対応です。
文政権の対応は、1年前の私の希望をほぼ実現してくれているわけですから、私としては評価する以外にありません。

日本側に自発的な対応を求めるというのも評価ポイントです。これ、日本がイヤならやらなくてもいいわけなので本来日本側が激怒するような対応ではないはずですが、振り上げた拳の落としどころが無く日本側は韓国に八つ当たりしている状態ですね。
それはともかく、日本側に自発的な対応を求めるということは、日本側が対応を拒絶したとしても韓国政府としては日本側に対応を迫る必要が無いということでもあります。つまり、日本政府が元慰安婦らに謝罪の手紙を書かないのならば日韓首脳会談を拒絶する、などという措置をとる必要が無いということです。
韓国政府としては日本政府が自発的に謝罪するなら歓迎するとだけ述べ、さりとて日本が謝罪しなくても、それ以外の外交事案では普通に接触し、懸案に対応しようと呼びかけることができます。
もし、日本政府が韓国政府の慰安婦問題への対応に不満を覚え、それを理由に他の外交懸案の解決を拒絶するなら、慰安婦問題にこだわって日韓外交を阻害しているのは日本側であることが国際的に明らかになります。実際、2018年2月9日の日韓首脳会談の内容の公表に際し、慰安婦問題に関する記載を冒頭に掲載した日本政府に対し、韓国政府は慰安婦問題に直接言及する記載を一切掲載していません。
第三国から普通に見れば、戦時性奴隷制の加害国である日本が慰安婦問題にこだわって他の日韓外交を損ねているように見えるでしょうね。
朴政権時代の状況から見れば、日韓の立場が逆転したようなもので、その点について私は評価しています。

人道問題としての対応

もう一点重要な評価ポイントがあります。
慰安婦問題において最も重要な当事者は元慰安婦ら本人ですが、彼女らに対する文政権の対応について個人的に非常に高く評価しています。
日韓政府間合意に対する対応方針を公表する前の2018年1月4日に、文政権は元慰安婦らを国賓並みの待遇で青瓦台に招待しています。体調の問題から青瓦台に訪問できなかった元慰安婦に対しては、文大統領自らが元慰安婦の元に訪問してもいます。
そして文大統領は、日韓政府間合意が誤りであったことを認め、元慰安婦らに対して謝罪しています。

政治状況や世論を考慮した上で日韓政府間合意を評価する場合も元慰安婦らの希望に沿わないと反対する場合でも、この合意内容が元慰安婦らの希望を十分に満たすものであったとは到底言えないわけですから、慰安婦問題に対して人権問題であるという認識を持っている人は日韓政府間合意に対する賛否に関わり無く、まず、この程度の合意しか形成できない社会の一員であることを被害者である元慰安婦らに謝罪すべきだと思うんですよね。
この程度のことしか出来なくて申し訳ない、と。
で、個人的にはそういう思いがあったので、日韓政府間合意直後に元慰安婦らに謝罪するエントリーをアップしたわけです。
1月4日の元慰安婦らの国賓待遇での招待・訪問は、大統領の立場でそれよりもずっと丁寧にやってくれたということになります。

これだけでも文政権の対応を私としては最大限の評価をせざるを得ないと思っています。

この点を評価せず、批判ばかりだったのはとても残念です。
慰安婦問題を日韓政府間、あるいは国家間の問題とだけ認識し、肝心の元慰安婦ら本人に視線が向いていないのだなぁ、と思わざるを得なかったですね。