群馬県の朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑に関する歴史修正主義的策謀としての設置期間更新不許可処分に対する前橋地裁判決の件

この件。

朝鮮人追悼碑の更新不許可は違法 前橋地裁、県の裁量権逸脱認める

2018/2/14 18:44
©一般社団法人共同通信社
 群馬県高崎市の県立公園にある朝鮮人労働者の追悼碑の設置期間更新を県が許可しなかったのは違法として、管理する市民団体が不許可処分の取り消しを求めた訴訟の判決で、前橋地裁(塩田直也裁判長)は14日、「裁量権の逸脱があった」と認め処分を取り消した。
 原告側が年に1度、碑の前で開いた式典で、出席者が戦時中の朝鮮人動員を「強制連行」と述べたことなどが、建立許可の際に県が付けた「政治的行事を行わない」との条件に違反するかどうかが主な争点だった。判決は一部式典が条件違反と認めたが、憩いの場としての公園の役割は失われなかったとして「裁量権の逸脱があり違法」と結論付けた。

https://this.kiji.is/336384441806718049

朝日、産経などでも報じられていますが、産経新聞では「強制連行」という表現自体を政治的発言だと地裁が認めたと報じ、今後の歴史修正主義活動に利用する意思をちらつかせています。

朝日:群馬県の不許可処分取り消し 朝鮮人追悼碑の期間更新(2018年2月14日21時13分)
産経:朝鮮人追悼碑訴訟 群馬県の処分取り消し 3年余の論争に結論 「強制連行」は政治的発言


で、私も群馬県側の法解釈に無理があることは、2014年の記事で指摘していますが、改めて記載しておきます。

群馬県立公園条例

(公園施設の設置等の許可)
第十二条 県有公園において、公園施設を設置し、又は管理しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。許可を受けた事項を変更しようとするときも同様とする。
2 前項の許可を受けようとする者は、第九条第一項各号に定める事項を記載した申請書を知事に提出しなければならない。この場合申請書には、第十条に定める設計書等を添付しなければならない。
3 公園施設を設け、又は管理する期間は、十年を超えることはできない。これを更新するときの期間についても同様とする。
4 知事は、第一項の許可に県有公園の管理上必要な範囲内で条件を付することができる。

http://www.pref.gunma.jp/s/reiki/333901010023000000MH/333901010023000000MH/333901010023000000MH_j.html

この条例12条4項に基づき知事は条件をつけることができ、そこで政治的行為を行わない旨の条件をつけているわけです。ところが、12条4項の条件は無制限に有効なのではなく「県有公園の管理上必要な範囲内で」という制限があります。したがって、政治的発言・行為があったとしても、それにより「県有公園の管理上」問題が生じない限り、それを理由として知事が不許可処分を出すことは出来ません。

前橋地裁の判断は「強制連行」という表現は政治的発言だと認めたものの、それにより「県有公園の管理上」問題が生じたわけでないことから、知事による不許可処分は裁量権の逸脱だとみなしたようです。

「強制連行」という表現をもって政治的行事とみなした地裁判断は、来賓の発言の事前検閲を正当化しかねないという点で問題があります。無論、政治的行事だから即規制とはならないという判決でもあるわけですが、この判決で確定した場合に想定されるのは、今後この種の行事に際し、極右団体が監視し「強制連行」という表現を合図にわざと騒動をおこし、「県有公園の管理上」問題となる状況を作り出す可能性です。
安倍政権シンパの極右団体が起こした騒動を理由に、群馬県知事は堂々と不許可処分を下すことが出来るようになるわけで、極右団体と癒着した首長をいただく自治体では同様の事態が多発しかねません。

その意味では前橋地裁判決は、わざと騒動を起こすことで政治的目的を達成できるという点で社会の安定性を損なう可能性がある判決とも言えます。

それでもまあ、現安倍政権下ではまだマシな判決とは言えるでしょうね。



群馬県の不許可処分取り消し 朝鮮人追悼碑の期間更新

2018年2月14日21時13分
 群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」にある、労務動員された朝鮮人犠牲者の追悼碑をめぐり、県が設置期間の更新申請を不許可としたのは違法などとして、碑を管理する市民団体が不許可処分の取り消しなどを求めた訴訟の判決が14日、前橋地裁であった。塩田直也裁判長は「県の更新不許可は裁量権を逸脱し、違法」などとし、処分を取り消す判決を出した。
 判決では、「碑前での発言や式典は『政治的』で碑の設置条件に違反した」とする県の主張について、原告側と県が話し合った上で、碑の文面からあえて「強制連行」の文言を外した経緯などを考慮。「碑前での行事で『強制連行』の文言を使って発言したことは『政治的』」として設置許可の条件に違反するとした。
 ただ、政治的な行事によって「碑が公園の施設としてふさわしくなくなった」と県が判断したことについては、直後に混乱などが起きていないことなどから認めず、不許可処分を「裁量権を逸脱しており違法」とした。一方、原告が求めた更新許可の義務づけなどは「いかなる期間や条件で更新を許可すべきかは公園管理者の裁量に委ねられる」として棄却した。

https://www.asahi.com/articles/ASL2G56QYL2GUHNB012.html

朝鮮人追悼碑訴訟 群馬県の処分取り消し 3年余の論争に結論 「強制連行」は政治的発言

 「一部勝訴」-。高崎市の県立公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑の設置期間の更新を県が不許可にしたのは違法として、碑を設置した市民団体「追悼碑を守る会」が不許可処分の取り消しを求めた訴訟は、3年余りの論争を経て、前橋地裁が処分を取り消す形で幕を閉じた。閉廷後、守る会と県側はそれぞれ会見し、“勝敗”の受け止めを語った。 
 「満点ではないが、結論は良かった。行政に対して司法がしっかり判断をした」と、守る会弁護団長の角田義一弁護士は判決を評価した。ただ、一部判断について、守る会は「不満が残る」とした。
 不許可処分は取り消したものの、争点となった(1)政治的行事はあったか(2)県の「政治的、宗教的行事および管理を行わない」とする設置許可条件は「表現の自由」を侵害しているか-について、塩田直也裁判長は「強制連行」という言葉を使用した集会が政治的行事に該当すると判断した。
 さらに、「宗教的・政治的行事に当たらなければ規制されない。表現の自由の趣旨に反していない」などとし、いずれも県側の主張が認められた形となった。
 これに対し、守る会弁護団の下山順弁護士は「不当だ」とし、「今後、来賓が(碑の前で)どのような発言をしていいのか、わざわざ行政当局に確認しなくてはならないのか」と指摘。政治的行事に対する前橋地裁の判断についても「『強制連行』は歴史学的にも確立した用語。納得できない」と主張した。
 ただ、判決では、「政治的行事を行った事実があることをもって、直ちに公園の効用を全うする機能を喪失していたということはできない」などとして不許可処分を取り消し、原告の一部勝訴という結果になった。
 下山弁護士は「(県側は)政治的行事があったというだけでは不許可処分にできなかった。判決が確定すれば許可処分とせざるを得ないはず」とし、控訴については協議するとしている。
 一方、県土整備部の中島聡部長は、「許可条件に違反があったと認定されたことは、県の主張が一部認められた。だが、不許可処分が取り消されたことは、大変残念だ」と受け止めた。
 (1)(2)の争点について中島部長は、「裁判所の判断は適正だと考えている」と評価したが、不許可処分取り消しには、「約束したことに違反したわけだから、県として不許可処分は妥当と考えていた。公園の管理者として利用者の安心安全を守るのが使命だ」と述べた。
 県は判決文を精査した上で、控訴も含め、今後の対応を検討していくという。
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 ◆まだ救いがある
 角田義一・守る会弁護団長「裁判長が考え抜いた判決だと思う。日本の司法は死んでいない、まだ救いがある。控訴については、政治的に解決できるか、高裁に行くか、和解できるかなどを考え、高度な判断が必要になってくる」

 ◆取り消しは残念
 大沢正明知事「許可条件違反があったにもかかわらず、更新申請に対する県の不許可処分が取り消されたことはたいへん残念である。判決文を詳細に検討し今後の対応を考えたい」
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 【視点】「強制連行」は政治的発言 玉虫色の判決 歴史問題に向き合わず
「政治的行事」の有無を最大の争点とする今回の訴訟は県の処分を取り消す一方、10年間の設置期間更新については知事の裁量に委ねるという玉虫色の判決に終わった。どちらが勝ったといえるのか、判断が難しい結果となったものの、集会での「強制連行」を含む複数の発言を明確に「政治的発言」と断じた意義は大きい。
 どのような行為が、守る会と県の間で交わされた「政治的、宗教的行事および管理を行わない」との設置許可条件に違反するのか-。曖昧だった判断基準に対し、前橋地裁は「強制連行」を含む発言をすること自体が、条件に違反すると“境界線”を引いた。守る会が碑文に盛り込む予定だった「強制連行」の文言を県との協議を経て削除した経緯を重要視した形だ。
 物足りないのは、「『強制連行』は一般的に使用され、過去の歴史的事実の表現を超えない」とする、守る会側の主張に対する判断だ。判決は「重要性があるとはいえない」と切り捨て、正面から向き合わなかった。
 守る会側は、法廷で繰り返した歴史認識をめぐる政治的主張は訴訟の「意義づけにすぎない」としてきたものの、集会などでは「強制連行」の文言を多用している。
 県側は「強制連行」を認めない政府見解を引き合いに出して議論に臨んだ。何らかの司法判断を示すことはできなかったのか。
 守る会側は「強制連行」の文言の使用にこだわり、「これからが勝負。新たな戦いが始まった」(角田義一弁護団長)と意気込み、両者の溝は埋まりそうにない。主張の応酬を続ける限り、追悼という本来の碑の趣旨から乖離(かいり)し続けるばかりだ。(吉原実)

http://www.sankei.com/region/news/180215/rgn1802150027-n1.html