産経・読売の誤報

「従軍慰安婦の強制連行」を削除したんじゃなくて「労務動員の強制連行」を削除したということの重要性
教科書からの「従軍慰安婦」「強制連行」記述削除は教科書会社だけの問題ではない。
の続き的な補足的な。

安倍政権威圧下における教科書の“自主規制”の件については、産経や読売が意気揚々と報じています。

教科書から「従軍慰安婦」「強制連行」の記述削除 数研出版文科省に訂正申請

産経新聞 1月9日(金)12時19分配信
 数研出版(東京都)が発行している現行の高校公民科教科書について、同社が「従軍慰安婦」と「強制連行」の文言を削除する訂正申請を行ったことが9日、分かった。文部科学省はすでに承認しており、新年度から使われる教科書に反映される。文科省によると、同社は訂正理由を「客観的事情の変更等」としているという。
 訂正申請が出されたのは、「現代社会」2冊と「政治・経済」1冊の計3冊の計4カ所。戦後補償についての記述で「従軍慰安婦」「強制連行」の文言を削除し、表現を改めた。文科省は昨年11月20日に同社からの訂正申請を受け、訂正内容に明確な誤認などがないことを確認した上で12月11日に承認した。
 政治・経済では「戦時中の日本への強制連行や『従軍慰安婦』などに対するつぐないなど、個人に対するさまざまな戦後補償問題も議論されている」との記述を、「韓国については、戦時中に日本から被害を受けた個人が、謝罪を要求したり補償を求める裁判を起こしたりしている(戦後補償問題)」と訂正した。
 学説の変更など客観的事情の変更に伴って教科書の記述に誤りや事実関係の変化があった場合に、教科書会社は訂正を申請できる。また、文科省は昨年1月、高校の地理歴史や公民などの検定基準を改定、近代史で通説的な見解がない場合はそのことを明示するよう明記し、教科書作りの理念にもなっている。
 慰安婦問題をめぐっては、朝日新聞が昨年8月に「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言を虚偽と判断、記事を取り消している。
 数研出版の担当者は「訂正申請の経緯については、今は回答できない」と話した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150109-00000523-san-soci

産経記事はまだマシなほうですが、教科書から「従軍慰安婦」の記述が削除されたという内容に続けて「学説の変更など客観的事情の変更に伴って教科書の記述に誤りや事実関係の変化があった場合に、教科書会社は訂正を申請できる」と述べ、「慰安婦問題をめぐっては、朝日新聞が昨年8月に「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言を虚偽と判断、記事を取り消している」と書くこの構成は、要するにこういうことです。

1.朝日新聞が吉田証言に関する記事を取り消した
2.(産経的解釈)従軍慰安婦は全て嘘
3.教科書の記述に誤りや事実関係の変化があった
4.教科書から「従軍慰安婦」の記述が消えた

もちろん、実際には吉田証言の取消が従軍慰安婦という日本軍による強制売春の事実を否定することにはなりません。「慰安婦問題をめぐっては、朝日新聞が昨年8月に「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言を虚偽と判断、記事を取り消している」という産経の記述はおそらく意図的でしょうが、取り消されたのが、吉田証言の記事だけなのか、従軍慰安婦に関する全ての記事なのか、曖昧になっています。
これにより「2」の産経的解釈が挿入される余地が生じ、全体の構成もあわせると、上記「1、2、3、4」と言う流れになるように読めることになります。

そして、「従軍慰安婦」の記載と共に教科書から削除されたのは、労務動員の「強制連行」の記述もありますが、産経記事は削除された「強制連行」が労務動員に関することであることには特に説明することなく、むしろ「朝日新聞が昨年8月に「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言」と書くことによって、「強制連行」という記述が従軍慰安婦に関連する記載であるかのように読者を誤誘導しています。
まあ、少なくとも誤報のレベル、捏造と言ってもいいレベルだと思いますね。

しかし、読売はもっとひどい。

教科書の「慰安婦」「強制連行」削除…数研出版

2015年01月09日 09時12分
 教科書会社「数研出版」(東京都)が、現行の高校公民科の教科書3点から「従軍慰安婦」と「強制連行」が含まれる記述を削除する訂正申請を文部科学省に行い、認められたことが分かった。
 新年度から使われる教科書で反映される。同社は訂正の理由を「客観的事情の変更等」としている。
 記述が削除されたのは、「現代社会」2点と「政治・経済」1点の計3点の計4か所。いずれも文科省は昨年11月20日に訂正申請を受け付け、12月11日に承認した。
 文科省によると、訂正により、3点の教科書とも、「従軍慰安婦」、「強制連行」の言葉がなくなったという。3点の学校現場でのシェア(占有率)は、今年度で1・8〜8・7%。
 教科書の歴史や領土に関する記述を巡っては、文科省が昨年1月、小中学校の社会科、高校の地理歴史、公民科の検定基準を改正。近現代史で通説的な見解がない場合、その旨を示すことや、政府の統一的見解や確定した判例があれば取り上げることなどを明記した。
 適用は現在検定を行っている中学校教科書からだが、教科書会社は、誤りや事実関係の変化があった場合などに現行教科書の訂正を申請できる。
 昨年8月には、朝日新聞がいわゆる従軍慰安婦問題に関する記事を取り消している。数研出版の担当者は8日、「訂正申請の経緯については、お答えできる立場の者がいない」と話した。
 同社は高校歴史の教科書は発行していない。
2015年01月09日 09時12分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

http://www.yomiuri.co.jp/national/20150109-OYT1T50045.html

記事の構成は産経と同じく、以下の誤誘導を狙ったものです。

1.朝日新聞が吉田証言に関する記事を取り消した
2.(産経+読売的解釈)従軍慰安婦は全て嘘
3.教科書の記述に誤りや事実関係の変化があった
4.教科書から「従軍慰安婦」の記述が消えた

産経よりもひどいのは「昨年8月には、朝日新聞がいわゆる従軍慰安婦問題に関する記事を取り消している」ともう吉田証言に関する記事という限定すらなく、普通に読めば慰安婦関連の記事が全て取り消されたとしか読めない記述になっている点です。

読売記事は産経以上の誤報ですが、池上彰的には見逃されるんでしょうね。