「内外政治に強い影響力をもつ集団が、誤った認識を共有していた」ことの方がよほど問題だと思うけどね

朝日の慰安婦報道に対する第三者委員会の検証について、以前こう予想しました。

予想される結論として考えられるのは、人権問題としての慰安婦問題から徹底的に視線を反らして瑣末な揚げ足取りに終始するか、歴史学的・人権問題的にぎりぎり常識的な範囲の結論に収まるか、のいずれかでしょうね。全力で安倍政権や排外差別団体に媚を売る結論にはならないと思います。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20141005/1412517226

概ね予想通り、人権問題としての慰安婦問題から徹底的に視線を反らして瑣末な揚げ足取りに終始する内容でした。
慰安婦とはどういう存在であり、どういう問題があったのか、という認識なしに、朝日の報道がどう間違っていたのかなど評価できないはずですけどね。

(3)調査の範囲
 当委員会が行う調査は、慰安婦問題に関して朝日新聞が行った取材及び報道並びに過去の報道を取り消さなかった不作為及び過去の報道の訂正又は取消しのあり方が、報道の自由の範囲内のものとして許容される適正なものであったかを明らかにするために行うものであって、検証事項に関連する事実の認定も、その判断を行うために必要な範囲で行う。
 本来、過去の歴史的事実の究明は、多くの歴史考証の専門家による長年にわたる精密な研究に委ねられるべき事柄であり、当委員会がそれらの事実について、上記の調査を実施するために必要な限度を超えて認定判断することは、当委員会の任務の範囲を超えるものである。

http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122201.pdf

突っ込みたい点は多々ありますが、興味深い指摘もありましたので、そちらを取り上げます。

(2)国際社会に与えた影響(波多野委員)

吉田清治氏の「亡霊」

 政治家はしばしば、国民教育の基本である歴史教科書に注目する。慰安婦問題がどう書かれるかも、国の名誉や誇りといった点からすれば見逃せない事項である。このような観点から、公的発言の場で、慰安婦問題に最も頻繁に言及してきたのが、ほかならぬ安倍首相である。たとえば、97 年5 月27 日、衆議院決算委員会第2 分科会で安倍議員は、慰安婦の教科書記述に関連して、次のように述べている。
 「吉田清治なる詐欺師に近い人物」の本や証言が虚偽であることが明らかであるにもかかわらず、マスコミにしばしば登場したが、朝日新聞をはじめテレビ局も新聞も「その訂正は未だかつて一回もしていない。」「彼の証言によって、クマラスワミは国連人権委員会に報告書を出した。ほとんどの根拠は、この吉田清治なる人物の本、あるいは証言によっているということであります。その根拠がすでに崩れているにもかかわらず、(河野)官房長官談話は生き、そしてさらに教科書に記述が載ってしまった。これは大変大きな問題である」
 確かに、吉田氏はほんの一時期、日本のマスメディアにしばしば登場したが、むろん、加藤談話や河野談話を支える証拠として採用されたわけではない。では、このような認識がどのように形成されたのであろうか。それは、安倍氏自身が述べているように、問題が多いとされた従軍慰安婦の教科書記述について、「自民党議員だけで60 名近い議員が勉強会を重ねてきた」結果であったことは想像に難くない。その一人であった板垣正議員も、97 年3 月18 日の参議院予算委員会で「吉田清治と称する全く無責任な男」の証言が問題の発端だったとして、安倍首相と同趣旨を発言している。
 問題は、内外政治に強い影響力をもつ集団が、誤った認識を共有していたことである。そこでは、慰安婦の強制連行を告白した貴重な吉田証言は、河野談話の有力な根拠と認識され、談話は「強制連行」を認めたもの、というステレオタイプが形成されていたのであろう。本文で触れたように、2007 年3 月の参議院予算委員会では、安倍氏は首相として、「慰安婦狩りしたという吉田清治の証言」は強制連行の証拠とみなされていたが、虚偽と判明した後は、「慰安婦狩りのような強制性、官憲による強制連行的なものがあったということを証明する証言はない」と述べている。「強制連行」の有力な根拠であった吉田証言が否定されたことをもって、この集団は「強制連行」を日本の公的立場と認識する河野談話の見直しに言及するようになる。強制性をめぐって日韓双方の主張の微妙なバランスを表現し、国際的評価も定着しつつあった河野談話は、その信認を失う危険にさらされることになる。それは、「強制連行」の実行者としての吉田清治証言の「亡霊」がなせる業であった。

http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122201.pdf

波多野氏のこの指摘を見る限り、吉田証言が、河野談話の根拠だという認識は、朝日新聞報道の直接的な責任などではなく、朝日を毛嫌いしている安倍晋三氏のような極右議員が朝日に対する反発から勝手に幻視した結果でしかないとしか言いようがありません。「慰安婦の強制連行を告白した貴重な吉田証言は、河野談話の有力な根拠と認識され、談話は「強制連行」を認めたもの、というステレオタイプ」という安倍首相ら極右勢力の認識について、波多野氏は「誤った認識」と明確に指摘しています。
これを波多野氏は、「吉田清治氏の「亡霊」」と呼んでいますが、その亡霊を召還したのは安倍晋三首相に他なりません。

安倍晋三首相らによる「慰安婦の強制連行を告白した貴重な吉田証言は、河野談話の有力な根拠と認識され、談話は「強制連行」を認めたもの」という誤った認識について、安倍首相も産経新聞もその他多数の極右勢力も、一切訂正も謝罪もしていません。
おそらく今後も謝罪・訂正することなく逃げ続けることでしょう。

そしてその責任を日本国民が負わされることになります。

まあ、アベに投票したんだから自業自得ですがね。