「歴史の教訓として直視」「このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意」を示した26年後に、放火テロ予告と公権力の圧力で少女像の展示は撤去された

この件。
テロ予告や脅迫に挫折 「表現の不自由展」識者の見方は(井上昇、柏樹利弘 千葉恵理子、上田真由美 2019年8月4日05時00分)

歴史修正主義の影響を受けた慰安婦問題否認論者やそのシンパによると思われる抗議は、初日だけで電話200本、メール500件で、8月2日朝には「撤去しなければガソリン携行缶を持ってお邪魔するというファクス」が届いたとのこと。ちなみにネット経由のファクスらしく発信者の特定が容易ではないらしい。「職員の個人名をインターネットにあげてさらす事例」もあったそうで、ほぼ無差別テロを予告しているに等しい。

憲法21条で保障されている表現の自由を守らなければならない立場の公権力の動きとしては、河村たかし名古屋市長が「2日に会場を視察し、「日本国民の心を踏みにじる行為で、行政の立場を超えた展示が行われている」と主張」*1し、「3日夜には記者団に「主催が民間団体だったら、こんなことにはならない。委員会方式だが、主催は名古屋市であり、愛知県。国のお金も入っているのに、国の主張と明らかに違う」」と述べ、国の主張と異なる内容の表現についてはその自由を認めないという主旨の発言を行っている。あまつさえ「「やめれば済む問題ではない」と述べ、展示を決めた関係者に謝罪を求めた」*2とのこと。
補助金停止をちらつかせた典型的な事後検閲な上に、脅迫の存在を知って上で脅迫犯に同調するような謝罪要求。
8月2日は、松井一郎大阪市長も同種の発言を行い、柴山文科大臣や菅官房長官も終了後に支払う予定の補助金停止をちらつかせて展示中止の圧力をかける発言をしている。
「撤去しなければガソリン携行缶を持ってお邪魔するというファクス」を送った脅迫犯も、河村たかし名古屋市長、菅官房長官松井一郎大阪市長、柴山文科大臣等の公権力も、要するに展示を中止させようという方向性において、安倍がトランプに電話する時と同じくらいのレベルで完全に一致している。

今から26年前、日本政府はこのような談話を発表している。

 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。
 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

“われわれ”はこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい?「“われわれ”は、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する?

“われわれ”って誰のこと?
少なくとも日本政府でも日本社会でも無いよね?
歴史の真実を回避し、教訓として直視することを拒み、歴史研究、歴史教育から慰安婦の記載を排除し、永く記憶にとどめるための事業すら潰すんだから。