実はid:sionsuzukaze氏の2度目のエントリーに対するものを書いていたのだが保存に失敗して消えてしまったので、記憶に頼って再現しつつ、3度目のエントリーへの返事とする。
何か長々と書いておられるのですが、2度目のエントリーの趣旨は、アメリカやドイツの法律と照らして「兵役」と「苦役」は別であると主張しておられる様子。
その上で、各国の法令条文における当該「苦役」=「servitude」という文言において、そこには「兵役」を含まない、というのが国際的な解釈であろう、ということを米合衆国憲法、ドイツ基本法、世界人権宣言の条文を参照して確認したわけです。
http://d.hatena.ne.jp/sionsuzukaze/20110703/1309628563
ドイツに関しては、意に反した苦役は禁止だが、兵役は認めるとの文脈である以上、「苦役」と「兵役」が分けて記載されるのは当然でしょう。
アメリカにしても、裁判云々は1917年の第一次大戦参戦前の話ですし(その頃からは法律や社会環境が大きく変化していますね)、徴兵制ではありませんが「兵役」についての記載がやはり憲法にありますので、「苦役」と「兵役」が分けて書かれるのは当然でしょう。
世界人権宣言については、兵役が苦役かどうか、そもそも定めてません。1948年に出されたものですし、兵役をどうとらえるかは各国の判断に委ねていると考えて問題ないと思います。
そして、ドイツにしてもアメリカにしても、兵役の制度と同時に良心的兵役拒否の制度も確立していますから、兵役が苦役であったとしても”意に反した”苦役ではない、とも言えます。
特にドイツの場合は、戦後再軍備するより以前に、良心的兵役拒否の権利が法律に明記されています。
つまり政府解釈における「兵役」を18条で禁止する「懲罰的でない苦役」に含めるという解釈そのものが、解釈次第で疑義を挟まれるであろう、ということを英訳文を元に例示したわけです。そして現政府解釈が「兵役を懲罰的でない苦役とみなして「許容されない」とした、という理解はその通りなわけですが、そもそもその「苦役」という文言に「兵役」を含めるべきか、という疑義の提示である以上、その政府解釈がそう「成されている」という点を理解した上で、「それではまずいのではないか」という疑義を呈した訳です。
そこを指して
上記の点について「無理解」と評しています。
と言われても「政府がそう解釈しているのは知っている」上で、「その解釈では懸念が残るし無理筋だろう」というのが考察の主眼であり、「無理解」ではなく「理解した上で」疑義を呈しています。
えーと、何かずれています。私の文章も悪いのでしょうが、私が上記の点と書いたのは「本来の十八条規定が指し示すそれは「懲罰的」なものであり」に対する指摘から始まる部分です。
で、その根幹は憲法18条の「苦役」が「懲罰的なもの」と決め付けている点。
つまり政府解釈における「苦役」を18条で禁止する「懲罰的でない苦役」に含めるという解釈そのものが、解釈次第で疑義を挟まれるであろう、ということを英訳文を元に例示したわけです。
これはおかしくありませんか?
憲法18条の「苦役」に「懲罰的でない苦役」を含まないのなら、政府は国民に対して「懲罰的でない苦役」を科することが合憲になりますよ。
兵役が他の徴用と決定的に異なるのは職務の性質上、殺人を強要する点。殺人をしたくない人に殺人を強要することを苦役だとは思わない?良心的兵役拒否はそこから出ているはずだが? 2011/07/03
ブコメにてこのように頂きましたが、この場合「良心的兵役拒否」を認めた場合(良心の忖度をすることが他の憲法条文に違反する可能性があるため、申請書類審査に基づき、理由の如何を問わず拒否を認める、という方式を取った場合)、徴兵制は第18条の侵害には当たらない、という理解になりますが、そうお考えだ、ということでよろしいですか?
個人的見解ですが、ドイツ的な良心的兵役拒否を認める場合は、憲法第18条の「意に反する苦役」ではないと解釈できると思いますよ。最終的には裁判所が判断する事ですが。
まあ、現時点で日本には良心的兵役拒否の制度も具体的な案もありませんので「「良心的兵役拒否」を認めた場合」というのがどういう状況を指すのか曖昧に想定せざるを得ないのですが。
自分としては、せめて「第9条」だったのではないか?とは思いますが、いずれにしても第18条“のみ”を根拠法とする否定は「不十分」もしくは「必要要件を満たさない」という理解でおります。
scopedogさんが第18条“のみ”で否定される、とお考えかどうかは分かりませんが、少なくともその論を聞く限りでは第18条“のみ”によって“も”否定可能、という立場だと理解しました。(ここが誤りであればそれはご指摘ください)
私は「第18条“のみ”で否定される」とは一言も言ってませんし、そうも考えていません。「第18条“のみ”によって“も”否定可能」というのは、良心的兵役拒否を認めない兵役であれば否定可能だと思いますよ。
ただ、第18条“のみ”が根拠法として不十分だと指摘する事に意味はないとは思ってます。
それに何の留保もなく、兵役は苦役じゃないと決め付けるのもどうかと思いますし。
目の前の人間を殺せと言われて、殺す事に精神的苦痛を感じない人というのはそう多くはないでしょう。まあ、平気で殺せる人もいるでしょうが、そんな人ばかりでもないでしょう。中には、人を殺す為の兵器を作る事、輸送する事にさえ、精神的苦痛を感じる人がいるでしょう。
そういう人たちにとっては、兵役は苦役でしかありません。言葉遊びではなく苦役なんですよ。
確認したい点
その他色々言われていますが、私が確認したいのは、以下の点。
政府解釈における「苦役」を18条で禁止する「懲罰的でない苦役」に含めるという解釈そのものが、解釈次第で疑義を挟まれるであろう
これを素直に読む限り、”憲法第18条では「懲罰的でない苦役」は禁止していない”というのが、sionsuzukaze氏の解釈となりますが、それでよろしいでしょうか。