脱原発解散に備えた動き?

どこまで本気かわからない脱原発を争点とした解散総選挙
政治の対立軸が民主VS自民ではなく、菅首相VS原発維持派となっている観がありますね。

脱原発路線を明言できない自民党はもちろん与党民主党もまた脱原発路線には舵を切れないため、議院内閣制にしては珍しい行政府と立法府の対立が生じているように思います。
自民党山本一太議員あたりは、「『脱原発』解散は大歓迎だ」*1、といった威勢のいい発言をしていますが、山本氏は参議院議員で2013年までは国会議員の身分が保証されていますから、安全な場所から煽ってるだけとも見えます。
実際に選挙の洗礼を受ける自民党衆院議員が、本当に総選挙を望んでいるのかは微妙でしょう。6月の不信任案騒動で混乱した与党民主党の支持率が低迷しているにも関らず、自民党の支持率はほとんど上がっておらず、現状の政治の停滞が自民党の責任と考える有権者も少なくありません。まして、脱原発が争点となるのは避けられず、対立候補が脱原発を明言した場合、苦戦は間違いありません。
自民党の本音としては、原発問題が一段落して、民主党政権をあげつらえる状況になってからの解散を望んでいるのではないかと思います。
一方の民主党にしても、解散総選挙は望むところではないでしょう。低迷している支持率から現在の議席数は間違いなく減るでしょうし、脱原発を明言できる候補がそれほど多いとは思えません。だからこそ菅首相には解散総選挙することなく、辞めて欲しいのでしょう。

菅首相はそのあたりを理解した上で、与野党ともに牽制できる解散カードをちらつかせている、と言った感じでしょうか。震災前と比べてかなり強かな態度だと思います。小泉首相郵政解散した時は、自民党内の対立を擬似的に与野党の対立に見せかけ、自民党の中の小泉支持者だけが一人勝ちするという状況でしたが、現状で菅首相民主党内の立ち位置は、郵政選挙当時の小泉氏と比べて遥かに弱い基盤しかないように見えます。
それでも菅首相が強気の態度を取れるのは、反原発の世論が大きいからでしょう。だからこそ脱原発解散がカードになりうるし、政治の停滞の原因が菅首相民主党だけの責任に押し付けられることにもなってないわけです。
菅首相が必ずしも脱原発の旗手というわけではないことは原発の再稼動に向けて動いていることから明らかですが、浜岡原発を停止させたことで有権者の多くは期待を感じているように思います。

別に退陣を明言したわけでもないのに退陣の3条件とされた法案については、菅首相は何が何でも通そうとするでしょうし、これで自民党があくまで反対して潰そうものならおそらく実際に解散総選挙をやると思います。自民党にしても法案を通したからといって退陣するとは限らず、手詰まり感があります。

で、もし解散総選挙した場合、菅首相脱原発の候補を多数立てることができれば、それなりに民主党が勝つ可能性があるでしょうがそもそも党内がまとまるか非常に不安な状況です。一方の自民党も似たようなもので党として脱原発に舵を切ることはできないでしょうから、苦戦せざるを得ない。

では誰が得するかといえば、共産党みんなの党でしょうね。上手く戦えばいずれも10議席以上確保できると思います。
とはいえ、みんなの党の「脱原発」はあまり本気ではないようですから、脱原発っぽく装う必要があります。

脱原発を装う手法

みんなの党の場合。

原発停止、政府が命令=みんなの党が法案発表
時事通信 7月1日(金)18時31分配信
 みんなの党は1日、政府が全国の原子力関連施設の安全性を評価し、運転停止を命令できる「原子力発電所緊急評価法案」を発表した。自民党との共同提出を目指す。現行制度では、電力会社の原発を止める権限は政府にはなく、浜岡原発菅直人首相の要請に基づいて中部電力が停止を決めた。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110701-00000128-jij-pol

原発に停止を命令できる権限を政府に与えるための法案を提示しています。
しかし、浜岡原発菅首相の要請に従ったわけですから、命令で強制できる権限がことさら必要とは思えませんし、そもそも自民党政権時代には停止の要請すらしてこなかったわけですから、原発推進路線の政府であれば命令を出さないでしょう。
その意味では無意味な法案です。

自民党の場合。

原発警備に自衛隊 自民が法改正を検討
産経新聞 7月2日(土)7時55分配信
 自民党は1日、原子力発電所の安全強化のため、自衛隊による原発の防衛を可能にする自衛隊法改正案を議員立法で提出する検討に入った。東京電力福島第1原発事故を受けて政府が進める安全強化策にはテロや武装工作員の攻撃への防衛策がないため、法整備を含めた原発警備態勢の強化を、8月中にもまとめる次期衆院選マニフェスト政権公約)に盛り込む。
 1日に非公開で初会合が行われた「原発警備に関する検討会」(座長・浜田靖一元防衛相)が自衛隊法81条の2で定める「警護出動」の対象に、原子力関連施設を追加するなどの検討を始めた。自衛隊を常駐させる場合、在日米軍基地へのテロ行為を想定した現在の警護出動の発動要件を緩和することも考える。警察との役割分担も見直す。
 国内の原発警備は、2001(平成13)年9月の米中枢同時テロ以降、警備強化時に警察が軽武装の「原子力関連施設警戒隊」を派遣することになっているが、平常時は民間の警備員が警戒するだけ。内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が5月上旬に公開した米外交公電は、米政府が日本の原発警備を憂慮していたことが記されている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110702-00000083-san-pol

ドサクサ紛れに自衛隊の権限を拡大させようとしているとしか思えません。今回の福島原発の事故は、それまでの安全対策の不備と自然災害によるものであって、テロとかじゃありません。
そもそも原発の警備が必要の場合、自衛隊法81条に従い知事の要請で自衛隊の派遣ができますから、81条の2を改正する必要性はありません。
ちなみに「自衛隊法81条の2で定める「警護出動」の対象」とは、自衛隊施設と米軍施設です。
むしろ自民党にとっては「現在の警護出動の発動要件を緩和することも考える」ことが狙いで、原発は口実に過ぎないように思えますね。

明言できない脱原発

民主党も含めて、自民党など国会議員の多くは、本音では脱原発を望んでいないのでしょうが、現在の世論でそれはなかなか明言できないため、「『脱原発』は衆院選の争点にならない。自然エネルギーへの転換という大きなテーマは、どの党も反対しない」(参院西岡議長(民主))*2と言いつつ、脱原発の明言を避けると状況になっているようです。