中国の通貨スワップ外交

「通貨スワップ外交」という言い方が正しいかどうかはともかく、中国は経済成長と共に世界における影響力を増しています。ネット上では、中国の脅威=軍事力増強、としか考えない短絡思考がはびこってますが、各国との経済的な結びつきを強化して中国の影響力を強める経済的覇権主義にも目を向けるべきでしょう。1960年代以降に日本が東南アジアやアフリカに対してやってきた経済侵略に近いと言えるかもしれません。

で、通貨スワップ協定です。10月に野田政権が韓国との通貨スワップ枠の拡大をしたことに対し、ネット民が過剰なお祭り騒ぎをして片山さつきも便乗してデマをばら撒いたことは記憶に新しいですが、その直後に中国と韓国が通貨スワップ協定の拡大を行ったことは全く注目されませんでした。

合意日 相手 スワップ 期間
2008年12月12日 韓国 1800億元/38兆ウォン 3年*1
2009年1月20日 香港 2000億元/2270億香港ドル 3年*2
2009年2月8日 マレーシア 800億元/400億リンギット 3年*3
2009年3月11日 ベラルーシ 200億元 3年*4
2009年3月23日 インドネシア 1000億元/175兆インドネシアルピア 3年*5
2009年3月29日 アルゼンチン 700億元/380億アルゼンチンペソ 3年*6
2010年6月10日 アイスランド 35億元 3年*7
2010年7月23日 シンガポール 1500億元/300億シンガポールドル 3年*8
2011年4月18日 ニュージーランド 250億元 3年*9
2011年4月19日 ウズベキスタン 7億元 3年*10
2011年5月6日 モンゴル 50億元 3年*11
2011年6月13日 カザフスタン 70億元 3年*12
2011年10月21日 韓国(拡大) 3600億元/64兆ウォン 3年*13
2011年12月22日 タイ 700億元/3200億バーツ 3年*14
2011年12月23日 パキスタン 100億元/1400億パキスタンルピー 3年*15

中国は2007年の世界金融危機、2008年の韓国通貨危機以降、積極的に各国との通貨スワップ協定を結んでいます。理由として、協定国との経済的な結びつきの強化やドル決済を間に挟むことの無駄回避、ドルの信用低下による影響回避、そして人民元の国際化などが考えられます*16
つまり、明らかに単純な通貨危機時の相互支援というチェンマイ・イニシアティブ(CMI)的な発想とは別の戦略で中国は動いています。

通貨スワップ協定の提案を”借金の無心”としか理解できないような人たち*17にはわからないでしょうが、通貨の国際化や基軸通貨ドルの信用低下を見据えた戦略的な動きに注目しておく必要は多分にあります。

日本がインドとの通貨スワップ協定に入ったのも、こういった動きを踏まえたものでしょう。日印通貨スワップ協定は中国に対抗する動きともとれますが、一方で「ドル離れ」に備えた中国との国債持ちあいなどの対応もとっており、複雑な状況になっています*18

「ドル離れ」は欧米諸国にとって望ましくはありませんので、何らかの対抗策が打たれるか、あるいはEUがこの動きに参加するか、予断を許さない状況にあるように思います。この辺は専門家の判断を知りたいところですが、ネット上には、なんちゃって専門家が多いので困ったものです。