週刊朝日に対して訴訟を起こすのならば支持しますよ。

週刊朝日の例の記事に対して私は以前、以下のようなエントリーを書きました。

記事の是非については、裁判を通して争っても良かったと思いますが、そういった過程を踏まえずに親会社に対する圧力で連載を中止されたのは、日本社会の今後に悪影響を与えたと思います。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20121021/1350786500

困ったことに、このエントリーに対して“「ハシシタ」記載自体が差別だ。朝日記事を擁護するのはダブスタ”というエントリーの主旨を全く外した指摘しかしなかった残念な方々が大勢いて、個人的にがっかりさせられる反応を示したコメンタもいました。エントリーの主旨は、政治家が気に入らない記事に対して出版社や親会社に圧力をかけて記事をつぶす行為が正当か、を問うものでしたが、“差別記事を書いた朝日が悪い”で思考停止した形だけのバランスを重視する自称インテグリティには伝わりませんでした。

それはさておき、橋下氏が週刊朝日を訴える考えを示しています。以前書いた通り、裁判に訴えるのであれば、私はその行為には賛同します。

「法的手続きとる」 週刊朝日に橋下氏「ちゃかしている」

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は6日、週刊朝日が昨年10月に掲載した自身の出自に関する記事に関し、発行元の朝日新聞出版と親会社である朝日新聞社に対し、法的措置を取る考えを明らかにした。自身のツイッターに「民事、刑事の法的手続きをとる」と書き込んだ。
 朝日新聞出版は、昨年10月26日号に掲載された連載記事の内容に問題があったことを認め、橋下氏に謝罪。当時の社長は引責辞任した。
 だが橋下氏は6日のツイッターで、最近バラエティー番組に相次いで出演した橋下氏を取り上げ、大阪での影響力低下が背景にあるとの関係者の見方を紹介した4月12日号記事を批判。「週刊朝日は(自分を)ちゃかしている。重大な人権侵害をやったにもかかわらず、半年やそこらでもう忘れている」と怒りをあらわにした。
 その上で「(出自報道は)普通なら慰謝料請求が当たり前だろう。(社長辞任や謝罪で)僕はのみ込んだつもりだ。しかし請求権を放棄したわけではない」と強調。「週刊朝日(の発行元)だけでなく100%親会社、人材も重なり合う朝日新聞も訴えます」と宣言した。

[ 2013年4月6日 19:49 ]

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2013/04/06/kiji/K20130406005558660.html

もっとも、橋下氏の今回の発言は口先だけで実際には訴訟など起こしたりしないと、私は考えています。理由は三つ。
一つ目は、橋下氏のこれまでの虚言癖からの経験則。
二つ目は、訴訟自体にかかる労力の問題。まさか自分で準備などやるわけはないでしょうが、弁護士を雇うにしても何ヶ月もかかる非常に手間のかかるのが裁判です。橋下氏本人が出廷するならメディアを呼ぶ価値もあるでしょうが、代理人ではメディアにとっては結審するまで大したニュースバリューがありません。つまり手間隙かかる割りに橋下氏にとってのメリットが少ないわけです。
三つ目は、既に橋下氏が政治的な圧力をかけた結果、社長が辞任に追い込まれ連載は中止されていることです。さらに週刊朝日に対して他のメディアからの非難までありました。記事の内容に比して過剰な社会的制裁を受けていると言えるでしょう。それに、全国紙上で全くのデタラメをもって誹謗中傷された辻元氏の場合でも、高々60万円程度の賠償金しか得られず、判決までに1年以上の時日を要しました*1。既に社会的制裁を受けている週刊朝日側にどれほどの賠償金が課されるかを考えると、ほとんど得られる見込みはないでしょう。さらに、上記引用記事にあるとおり、橋下氏自身が直近の「4月12日号記事」が気に入らないという理由から、既に終った話である「昨年10月26日号」を訴える、と言っているのは「昨年10月26日号」に関する訴訟を起こす上では致命的でしょう。つまり、訴訟を起こそうと考えた理由が「昨年10月26日号」の記事でないにも関わらず、訴訟理由を「昨年10月26日号」とするのが明らかであって、裁判所によって嫌がらせ目的での程度提訴と判断される可能性が高いと思われます。


そもそも*2「4月12日号記事」が不当であるというのならその記事に対して訴訟を起こすべきですが、そうではなく「昨年10月26日号」を提訴理由に持ち出すということは、「4月12日号記事」には不当性がないことを橋下氏自身が理解しているわけです。
つまり、橋下氏は不当性のない「4月12日号記事」の批判を封じるために「昨年10月26日号」での訴訟をちらつかせて週刊朝日を脅しているわけで、極めて不当な圧力をかけているわけです。
一度、政治圧力で潰した相手だから、同じネタで揺さぶれば折れると橋下氏は踏んだのかも知れません。メディア側に気骨が残っているならば、裁判覚悟で戦うでしょうが、腰の引けた朝日新聞週刊朝日の編集者に圧力をかける可能性も否定できません。

さて“差別記事を書いた朝日が悪い”で思考停止した人たちが、今度はどう判断するでしょうか。