安倍政権にとって、軍人が民間人女性に売春を強要するために軍用売春宿に連行する行為は、強制連行にあたらないらしい

副題:慰安婦強制連行に関する赤嶺質問と安倍政権の回答

第183回国会において2013年6月10日に赤嶺政賢議員(共産党*1から提出された質問とそれに対する安倍政権の回答です。

質問1とその回答

一 安倍晋三内閣総理大臣は、二月七日の衆議院予算委員会で、「さきの第一次安倍内閣のときにおいて、質問主意書に対して答弁書を出しています。これは安倍内閣として閣議決定したものですね。つまりそれは、強制連行を示す証拠はなかったということです。つまり、人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にしてしまったということは、それを示すものはなかったということを明らかにしたわけであります。」と答弁している。この「答弁書」とは、二〇〇七年三月八日衆議院議員辻元清美君提出「安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書」に対する答弁書(以下、「答弁書」という。)であり、「強制連行を示す証拠はなかった」ということを明らかにした部分は、「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。」という部分であると考えてよいか。間違いがある場合は、答弁の該当部分を示していただきたい。

一について
 お尋ねの「答弁書」とは、衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書(平成十九年三月十六日内閣衆質一六六第一一〇号。以下「答弁書」という。)を指しており、政府の認識は、答弁書一の1から3までについてでお答えしたものと同じである。

安倍首相の2013年2月7日答弁における「答弁書」が何をさすのかを確認する質問です。安倍政権は「答弁書」が2007年3月16日質問110号に対する答弁であることには答えましたが、「「強制連行を示す証拠はなかった」ということを明らかにした部分」がどこなのかについては、明言を避けています。
ちなみに、2007年3月16日質問110号の「答弁書一の1から3」というのは以下のやりとりです。

平成十九年三月八日提出
質問第一一〇号
安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書
一 《安倍首相の発言》について
 1 「定義が変わったことを前提に」と安倍首相は発言しているが、何の定義が、いつ、どこで、どのように変わった事実があるのか。変わった理由は何か。具体的に明らかにされたい。
 2 「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」と安倍首相は発言しているが、政府は首相が「なかったのは事実」と断定するに足る「証拠」の所在調査をいつ、どのような方法で行ったのか。予算を含めた調査結果の詳細を明らかにされたい。
 3 安倍首相は、どのような資料があれば、「当初、定義されていた強制性を裏付ける証拠」になるという認識か。

平成十九年三月十六日受領
答弁第一一〇号
一の1から3までについて

 お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。

「強制連行を示す証拠はなかったということです。」(2013年2月7日安倍発言)に対して、根拠を問われ出した回答がこれですが、ここには河野談話の「調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」としかありません。安倍首相は6年前の答弁から「調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には」という限定条件をトリミングして、今もなお「強制連行を示す証拠」がないかのように印象操作を行ったわけです。
その微妙な安倍改竄が露見しないように、2013年の答弁書では「政府の認識は、答弁書一の1から3までについてでお答えしたものと同じ」とのみ答え、具体的には何一つ答えないというやり方をしています。


質問2とその回答

二 「答弁書」は、「お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。」としている。「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」とはどのような資料をさすのか。一九九三年八月四日には、慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話−いわゆる河野談話とともに、「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」という文書も発表されている。同文書は、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の概要を明らかにしたものである。「答弁書」のいう「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」とは、この「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」で概要が示されている資料をさしているのか。そうでない場合、「答弁書」のいう「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」と「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」で明らかにされた資料との間には、どのような違いがあるのか具体的に明らかにされたい。

これも安倍首相の文言の確認です。「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」(2007年3月16日安倍答弁書)とは「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」*2に概要が示されている資料をさすのかそうでないのかを確認しています。

二について
 お尋ねの「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」とは、内閣官房内閣外政審議室(当時。以下同じ。)が平成四年七月六日及び平成五年八月四日にそれぞれ発表した「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」において、その記述の概要が記載されている資料を指している。

これに対しては、安倍政権は「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」=「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」の資料、と回答しています。しかし、「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」のPDFはわずか3ページ程度の内容にすぎず、しかもその3ページ程度の概要にすら「業者らが或いは甘言を弄し、或いは畏怖させる等の形で本人たちの意向に反して集めるケースが数多く、更に、官憲等が直接これに加担する等のケースもみられた」と書かれています。


質問3、4とその回答

質問3以降が本題になります。

三 一九九三年八月四日の「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」には、〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)がある。それは、1「ジャワ島セラマン所在の慰安所関係事件」、2「ジャワ島バタビア所在の慰安所関係の事件」についての「被告人」「判決事実の概要」などを記したものである。この事実に間違いないか。

四 この〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)は、1「ジャワ島セラマン所在の慰安所関係事件」について、「判決事実の概要」を記しているが、そこには、「ジャワ島セラマンほかの抑留所に収容中であったオランダ人女性らを慰安婦として使う計画の立案と実現に協力したものであるが、慰安所開設後(一九四四年二月末ころ)、「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」などの記述がある。間違いないか。

1944年、ジャワ島を占領していた日本軍が、売春を強要するために収容所のオランダ人女性を武力を用いて連行し、売春を強要した事実に関する指摘です。

三及び四について
 内閣官房内閣外政審議室が平成五年八月四日に発表した「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」において、御指摘のような記述がされている。

これに対して安倍政権はしぶしぶながら認めています。


質問5、6とその回答

五 この「判決事実の概要」には、「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」との記述がある。「上記女性」とは、「ジャワ島セラマンほかの抑留所に収容中であったオランダ人女性」である。これらの記述は、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたらないのか。

六 一九九三年八月四日、政府は、いわゆる河野談話とともに「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」を発表した。これは、「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料」の概要を明らかにしたものである。そこには、〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)があり、「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上記女性(「ジャワ島セラマンほかの抑留所に収容中であったオランダ人女性」)らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」との記述がある。これが、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたることは明白である。「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」とした「答弁書」は誤りであり、訂正するべきと考えるが、安倍内閣の見解を問う。

「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」という行為が、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたらないのか、という質問です。
一般的な感覚として、「部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為」が「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す」のは当然にすぎる話です。

五及び六について
 政府の認識は、答弁書一の1から3までについてでお答えしたものと同じである。

(参考:「答弁書一の1から3」内の記述)
「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。」

しかし、安倍政権は「部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為」は「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたらないと答弁しました。

安倍政権下にある日本では、武装した軍人あるいは自衛隊員が女性に売春を強要するために連れ去っても強制連行とはみなされないということでしょうか。

だとすれば、米兵や自衛隊員を見かけたら、連れ去られないように隠れた方がいいかも知れませんね。

さらに言えば、慰安婦問題を非難する米国の管理下にある米兵より、武装した軍人あるいは自衛隊員が女性に売春を強要するために連れ去っても強制連行とはみなさない安倍晋三首相を最高指揮官と仰ぐ自衛隊員の方が危険かも知れませんね。

*1:http://jcpakamine.webcrow.jp/

*2:外務省サイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/index.html にある「いわゆる従軍慰安婦問題について(平成5年8月4日)(PDF)」とあるPDF資料