マイケル・ヨン氏をありがたがっている人たちのための時系列整理

捏造と改ざんで知られる産経の古森氏が最近一押しの活動家、マイケル・ヨン氏の主張で利用されている2007年の米国の報告書です。

(古森記事)
・米国政府は2000年頃からドイツや日本の戦争犯罪の再調査のためにIWG(各省庁作業班)という組織を作り、慰安婦問題などを8年もかけて調べた。だが、慰安婦制度の犯罪性や強制連行を示す米政府や軍の書類は一点も発見されなかった。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42355

レイシストにクラスチェンジしたケント・ギルバートによる翻訳記事)
$30 million US Government Study specifically searched for evidence on Comfort Women allegations.
 慰安婦たちの主張を裏付ける証拠を求めて、米政府は3000万ドル(30億円超)の費用を掛けて調査を行った。
After nearly seven years with many dozens of staff pouring through US archives -- and 30 million dollars down the drain -- we found a grand total of nothing.
 約7年の歳月を掛けて、大勢の米政府職員や歴史学者が過去の公文書を徹底的に調査した結果、有力な証拠は何一つ見つからなかった。結局3000万ドルが無駄に費やされた。
The final IWG report to Congress was issued in 2007. (Linked below.)
 IWGの最終報告書は2007年に米国議会に提出され、発表された(文末のリンク参照)。

http://ameblo.jp/workingkent/entry-11958461771.html

さて、その米国の報告書ですが、“Nazi War Crimes & Japanese Imperial Government Records Interagency Working Group”による米国議会のための最終報告書のことです。これは2007年4月に提出されています。
上記、マイケル・ヨン氏の主張ではこの報告書はまるで、慰安婦の証拠調査だけを目的としたものであるかのように書かれていますが、それは嘘です。驚くべきことに古森記事の方が正確で「ドイツや日本の戦争犯罪の再調査のために」と慰安婦問題を専門に調べたわけではないことがわかるようになっています。まあ、どちらも結論を誤誘導している点については変わりませんが。

2007年のアメリカ議会の動き*1

2007年1月12日 「100,000 Pages Declassified in Search for Japanese War Crimes Records」*2と発表
2007年1月16日 IWGが「Interagency Working Group Announces Press Availability for Experts on New Japanese War Crimes Records Volume and Records Guide」*3を発表
2007年1月16日 「Experts to Discuss New Japanese War Crimes Records Volume and Records Guide」*4を発表
2007年1月31日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)提案 共同提案者6名
2007年2月14日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者16名
2007年2月28日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者25名
2007年3月1日 安倍首相「旧日本軍による組織的な女性の強制徴用の証拠はない」と発言
2007年3月2日 訪日中のネグロポンテ国務副長官が安倍首相発言を批判
2007年3月5日 安倍首相、参院予算委員会で「事実誤認がある」「日本政府のこれまでの対応を踏まえていない」と再度慰安婦問題を否認する発言。
2007年3月5日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者33名
2007年3月6日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者36名
2007年3月9日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者42名(決議案反対を公言していたローラバッカー議員が賛成に転じる)
2007年3月16日 安倍政権が「河野洋平官房長官談話」について「(談話と)同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする答弁書閣議決定
2007年3月20日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者49名
2007年3月22日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者54名
2007年3月24日 ワシントン・ポストが「安倍晋三のダブル・トーク(ごまかし)」と題する社説を掲載
2007年3月25日 下村博文官房副長官がラジオ日本で「従軍看護婦とか従軍記者はいたが、『従軍慰安婦』はいなかった。ただ慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う。だが日本軍が関与していたわけではない」と発言。
2007年3月26日 米国務省のトム・ケイシー副報道官が「日本は犯罪の重大性を認め責任ある態度で対処すること」を求める*5
2007年3月26日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者61名
2007年3月28日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者66名
2007年3月29日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者77名
2007年4月 Allen Weinsteinによるドイツや日本の戦争犯罪の調査報告書作成
2007年4月3日  Larry Nikschによる報告書「Japanese Millitary's "Comfort Women" System」*6が提出
2007年4月3日 安倍首相が小ブッシュ大統領に電話して泣きつく
2007年4月17日 日本の戦争責任資料センターが外国特派員協会で会見し、「従軍慰安婦」徴用に軍関与があったことを示す資料が、極東国際軍事裁判東京裁判)の証拠書類として存在していた事を公表。
2007年4月17日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者80名
2007年4月17日 安倍首相がニューズウィークWSJの取材に対し、強制性否定を正当化、河野談話は継承と発言。
2007年4月20日 中山成彬文部科学大臣が、米下院での慰安婦決議の動きを非難。「当時は公娼制があり、売春が商行為として認められていた。慰安婦はほとんど日本の女性だった」「(慰安婦は)もうかる商売だったことも事実だ」等発言。
2007年4月23日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者83名
2007年4月24日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者90名
2007年4月26日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者93名
2007年4月27日 安倍首相、訪米して小ブッシュ大統領に謝罪。米議会での演説なし。
2007年4月30日 CNNによる安倍首相インタビュー配信。
2007年5月1日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者98名
2007年5月2日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者102名
2007年5月7日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者107名
2007年5月8日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者110名
2007年5月10日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者115名
2007年5月14日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者122名
2007年5月16日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者127名
2007年5月17日 石原慎太郎都知事が「戦争中に軍がそういう女性たちを調達した事実はまったくありません。ただ、便乗して軍にそういうものを提供することを商売にした人間はいましたな」と慰安婦問題否認発言。
2007年5月22日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者129名
2007年5月25日 松原仁議員(民主党)が衆院外務委員会で慰安婦問題「無かった」発言
2007年6月5日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者130名
2007年6月12日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者135名
2007年6月14日 The Facts事件
2007年6月14日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者140名
2007年6月19日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者142名
2007年6月21日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者145名(下院外交委員会のラントス委員長が賛同)
2007年6月25日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者146名
2007年6月26日 下院外交委員会で対日非難決議案(下院決議案121号)可決
2007年6月26日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者149名
2007年6月27日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者151名
2007年7月10日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者153名
2007年7月11日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者155名
2007年7月12日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者156名
2007年7月16日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者160名
2007年7月19日 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者162名
2007年7月26日頃 慰安婦問題に関する対日非難決議案(下院決議案121号)共同提案者168名
2007年7月30日 慰安婦問題に関する対日非難決議(下院決議案121号)可決
2007年9月28日 Allen Weinsteinによるドイツや日本の戦争犯罪の調査報告書が議会に正式提出*7


報告書まわりの話

IWGの最終報告書が完成したのは2007年4月、この時期、慰安婦問題に関する対日非難決議の採決をめぐって下院内で攻防が続いていましたが、安倍政権による慰安婦否認発言が繰り返されたことにより可決に傾きつつありました。4月27日、安倍首相は慰安婦否定論をぶちまけ日韓関係を悪化させたことを小ブッシュ大統領に謝罪するものの、まるっきり本音を隠しきらずに否認論を繰り返し、アメリカ国内での反安倍感情の悪化は止まらず、対日非難決議案への賛同者が増え続け、6月14日のThe Facts事件ワシントンポスト慰安婦否認論の歴史修正主義広告を掲載した事件)がダメ押しとなり、下院外交委員会のラントス委員長も賛成に転じ外交委員会で対日非難決議案が可決されました。
7月30日に下院決議が正式に成立しています。

IWGの最終報告書の正式な議会提出は9月28日ですが、4月時点では完成しており、中間報告も2002年3月には出ていますし、2006年までの史料については2007年1月時点でまとめられています
IWGの最終報告書が完成した2007年4月には、Larry Nikschによる報告書「Japanese Millitary's "Comfort Women" System」が提出されており、それまでに知られていた資料で十分に日本軍慰安婦を非難に値する人権侵害であると示せており、その結果として対日非難決議121号が可決したわけです。
IWGの最終報告書では慰安婦問題に関して既に知られていた資料以上のものが出てこなかっただけで、既に知られていた史料だけで強制性は明確に示せています。

マイケル・ヨン氏をありがたがっている人たちは、マイケル・ヨン氏が言うとおりIWGが8年かけて調べても慰安婦の強制性を示せなかったのなら、なぜ2007年に慰安婦問題に関する対日非難決議が可決されたのか、合理的に説明するべきでしょうね。

どうも、このIWG報告書に言及している連中が、同年の下院決議121号に触れているのを見かけないんですよね。

知らないわけはないでしょうに。特に古森氏やヨン氏は知ってて無視しているんでしょうね。