少子化と徴兵制の関係を検討する上でシンガポールの事例は適切か?

少子化が進むと徴兵制は復活するか? シンガポールの場合」という記事がありまして。
タイトルを見る限り、少子化が進むと徴兵制を復活させなければならなくなるのか、という疑問を呈し、それに対する回答があるのだろうと思わせるわけですが、そこで挙げられている事例がシンガポールという時点で疑問符がつきます。
なぜならば記事中にzyesuta氏が書いている通り、シンガポールは既に徴兵制を実施している国だからです。

シンガポールもまた、人口が少なく、徴兵制を維持している国の一つです。

http://www.riabou.net/entry/2015/07/16/124255

記事中で引用しているニューズウィーク記事は、2015年7月21日号(7/14発売)で「SINGAPORE シンガポール軍は小粒でも強い」*1という半ページほどの短い記事です。内容は人口減少によって徴兵制でも兵力不足に陥る恐れがあるが、経済成長による財源を使って省力化を進めているため、徴兵年限を増やす必要も女性を徴兵する必要も当面は無さそうだというものです。
既に徴兵制を導入しているシンガポールがそれでも人口減少に対応するために省力化を進めているという内容ですから、「いま志願兵制をとっている国も、少子化によって若者が減れば、ふたたび徴兵制をとることが合理的になるでしょうか?」*2という質問の答えになっていないんですよね。

シンガポールは、少子化によって新たに徴兵制を導入したという事例でも、省力化によって徴兵制から志願制へ移行したという事例でもありません。
「いま志願兵制をとっている国も、少子化によって若者が減れば、ふたたび徴兵制をとることが合理的になるでしょうか?」という命題に対して、シンガポールの事例を挙げるのは適切ではないと言っていいでしょう。

ちなみに、ニューズウィーク2015年7月21日号(7/14発売)の「SINGAPORE シンガポール軍は小粒でも強い」は末尾で、近隣諸国と緊密な関係を維持する外交の重要性を説いています。

(P19:赤字は引用まま)
 ウンが強調するのは、小国のシンガポールは軍隊も小規模ゆえ、アジア諸国で台頭するナショナリズムが紛争を誘発した場合、とりわけ弱い立場に置かれるということ。それは欧州などでの紛争を見てもよく分かる。「いざそうなれば小国が最初に、しかも圧倒的に苦しめられる」と、ウンは語った。
 もともとシンガポールの軍隊は抑止力を第一としたものだ。マレーシアやインドネシアといった近隣諸国と緊密な関係を維持することが大切だと、ウンはあらためて力説した。

http://www.newsweekjapan.jp/magazine/153133.php

徴兵制を敷いてなお兵力不足の場合、技術的な省力化だけでなく、外交による安全保障環境の整備が重要であるということですね。
安倍にはできそうもない芸当ですが。

もう一点、同記事にはこういう記述もあります。

(P19)
 今の人材をもっと有効活用することも必要だろう。例えば肉体的に戦闘行為に従事できない者が、サイバー作戦のような新しい分野で従来にはない役割を果たすといったことだ。

http://www.newsweekjapan.jp/magazine/153133.php

徴兵される人材は、必ずしも歩兵のような単純な肉体作業に従事できる体力の持ち主に限らない、ということです。