そもそも千田氏は「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等に関する法律案」をちゃんと読んだのだろうか?

前回の続き。
千田氏は続く記事「離婚した親に求められる覚悟―親子断絶防止法の問題点(2)」でこんなことを言っています。

お金で愛情は買えないが、子供の成長のために必要なお金を払うというのは、立派な愛情表現である。それなのになぜ、この法案に養育費の規定がないのだろうか。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161020-00063454/

しかし、養育費に関する規定は法案第6条にちゃんと書かれています(強調は引用者による)。

【未定稿】

父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等に関する法律案

第六条 子を有する父母は、離婚をするときは、基本理念にのっとり、子の利益を最も優先して考慮し、離婚後の父又は母と子との面会及びその他の交流並びに子の監護に要する費用の分担に関する書面による取決めを行うよう努めなければならない
2 国は、子を有する父母が早期かつ円滑に前項の取決めを行うことができるよう必要な支援を行うとともに、子を有する父母であって離婚しようとするものに対し、父母の離婚後においても子が父母と継続的な関係を持つことの重要性及び離婚した父母が子のために果たすべき役割に関する情報の提供を行うものする*1
3 地方公共団体は、子を有する父母が早期かつ円滑に第一項の取決めを行うことができるよう必要な支援を行うとともに、子を有する父母であって離婚しようとするものに対し、前項の情報の提供を行うよう努めなければならない。

http://nacwc.net/files/houbun.pdf

養育費という文言は使っていませんが「子の監護に要する費用の分担」ですから、別居親が分担する費用はまさに養育費を意味しています。
ちなみに現行民法でも養育費について同じ表現で記載されています。

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

親子断絶防止法案では協議離婚であっても「書面による取決め」を求めている上、離婚届けを受け取る地方公共団体に対して「取決めを行うことができるよう必要な支援を行う」義務を課しています。
養育費に関して、口約束で協議離婚が成立して、後から養育費請求の調停を起こさなければならないような事態を避ける上で効果的な条文ですが、そういった条文について存在すら気づかないというのはうかつにもほどがありますね。


なお、別居親と子との面会交流に否定的な団体である面会交流等における子どもの安心安全を考える全国ネットワークのサイトによれば、2016年9月27日に親子断絶防止議員連盟の総会で配布された親子断絶防止法案は以下のような内容です。

【未定稿】

父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等に関する法律案

(目的)
第一条 この法律は、父母の離婚等(未成年の子(以下単に「子」という。)を有する父母が離婚をすること又は子を有する父母が婚姻中に別居し、父母の一方が当該子を監護することができなくなることをいう。以下同じ。)の後においても子が父母と親子としての継続的な関係(以下単に「継続的な関係」という。)を持ち、その愛情を受けることが、子の健全な成長及び人格の形成のために重要であることに鑑み、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等に関し、基本理念及びその実現を図るために必要な事項を定めること等により、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進を図り、もって子の利益に資することを目的とする。
(基本理念)
第二条 父母の離婚等の後においても子が父母と継続的な関係を持つことについては、児童の権利に関する条約第九条第三項の規定を踏まえ、それが原則として子の最善の利益に資するものであるとともに、父母がその実現についての責任を有するという基本的認識の下に、その実現が図られなければならない。
(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 地方公共団体は、基本理念にのっとり、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関し、国との連携を図りつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(関係者相互の連携及び協力)
第四条 国、地方公共団体、民間の団体その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。
(法制上の措置等)
第五条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
(離婚後の面会及びその他の交流等に関する取決め)
第六条 子を有する父母は、離婚をするときは、基本理念にのっとり、子の利益を最も優先して考慮し、離婚後の父又は母と子との面会及びその他の交流並びに子の監護に要する費用の分担に関する書面による取決めを行うよう努めなければならない。
2 国は、子を有する父母が早期かつ円滑に前項の取決めを行うことができるよう必要な支援を行うとともに、子を有する父母であって離婚しようとするものに対し、父母の離婚後においても子が父母と継続的な関係を持つことの重要性及び離婚した父母が子のために果たすべき役割に関する情報の提供を行うものする*2
3 地方公共団体は、子を有する父母が早期かつ円滑に第一項の取決めを行うことができるよう必要な支援を行うとともに、子を有する父母であって離婚しようとするものに対し、前項の情報の提供を行うよう努めなければならない。
(面会及びその他の交流の定期的な実施等)
第七条 父母の離婚等の後に子を監護する父又は母は、基本理念にのっとり、当該子を監護していない父又は母と当該子との面会及びその他の交流が子の最善の利益を考慮して定期的に行われ、親子としての緊密な関係が維持されることとなるようにするものとする。
2 父母の離婚等の後に子を監護する父又は母は、当該子を監護していない父又は母と当該子との面会及びその他の交流が行われていないときは、基本理念にのっとり、当該面会及びその他の交流ができる限り早期に実現されるよう努めなければならない。
3 国は、前二項の面会及びその他の交流の実施等に関し、子を有する父母に対し、その相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うものとする。
4 地方公共団体は、第一項及び第二項の面会及びその他の交流の実施等に関し、子を有する父母に対し、その相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うよう努めなければならない。
(子を有する父母に対する啓発活動等)
第八条 国は、子を有する父母が婚姻中に子の監護をすべき者その他の子を監護について必要な事項に関する取決めを行うことなく別居することによって、子と父母の一方との継続的な関係を維持することができなくなるような事態が生じないよう、又は当該事態が早期に解消されるよう、子を有する父母に対し、必要な啓発活動を行うとともに、その相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うものとする。
2 地方公共団体は、前項の自体が生じないよう、又は当該事態が早期に解消されるよう、子を有する父母に対し、必要な啓発活動を行うとともに、その相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うよう努めなければならない。
(特別の配慮)
第九条 前三条の規定の適用に当たっては、児童に対する虐待、配偶者に対する暴力その他の父又は母と子との面会及びその他の交流の実施により子の最前の利益に反するおそれを生じさせる事情がある場合には、子の最善の利益に反することとならないよう特別の配慮がなされなければならない。
(人材の育成)
第十条 国及び地方公共団体は、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に寄与する人材の確保及び資質の向上のため、必要な研修その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
(調査研究の推進等)
第十一条 国及び地方公共団体は、父又は母と子との面会及びその他の交流の実施状況等に関する調査及び研究を推進するとともに、その結果を踏まえて、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策の在り方について検討するよう努めなければならない。
(国の地方公共団体に対する援助)
第十二条 国は、地方公共団体が行う父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策に関し、必要な助言、指導その他の援助をすることができる。

附則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第六条から第九条までの規定及び次条第二項の規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(検討)
第二条 政府は、父母の離婚後においても父母が親権を共同して行うことができる制度の導入、父母の離婚等に伴う子の居所の指定の在り方並びに子と祖父母その他の親族との面会及びその他の交流の在り方について、速やかに検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
2 政府は、前条ただし書に規定する規定の施行後二年を目途として、父又は母と子との面会及びその他の交流の実施状況、第八条の啓発活動の効果等を勘案し、父又は母と子との充実した面会及びその他の交流を実現するための制度及び体制の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

http://nacwc.net/files/houbun.pdf


個人的に修正・追加すべきと思う点はありますが、おおむね賛同できる内容です。
反対派が主張するDV・虐待の懸念ですが第9条で対応されていますし、基本的にDV・虐待については対応する現行法がありますから、この法案が成立したら、DV・虐待が蔓延するみたいな印象操作には首をかしげざるを得ません。

毎日新聞の報道では「専門家やDV被害者たちは「DVや虐待は証明できない場合も数多くある。特別の配慮といってもあてにできない」と危惧する」*3という声が紹介されていましたが、そもそもDVや虐待の疑惑だけで証明できないにもかかわらず、別居親と子供の交流を制限し続ける方が人権侵害に当たるでしょう。
緊急性を考慮して疑惑の段階でも保護すべきなのは当然としても、保護期間中に司法が調査して疑惑の真偽を判定し、事実DVや虐待があるのなら交流制限を行って保護を継続すればいいだけです。逆に疑惑が事実でなかった場合は保護を解除した上で、親子交流ができるように命じるべきです。
司法が疑惑のまま放置して保護を永続化させ、事実上、DVや虐待が事実であるかのような措置を漫然と続けるのは裁判所の怠慢であり、人権侵害です。やってることは冤罪可能性の高い受刑者に対する再審請求をネグって、延々と拘束し続けるのと変わりません。

*1:ママ。「行うものとする」か

*2:ママ。「行うものとする」か

*3:「親子面会交流 法案に懸念」 http://mainichi.jp/articles/20161001/ddm/013/100/011000c