DV冤罪による親子引き離しとDV見過ごしによるDV虐待が両立するメカニズム

「DV冤罪による親子引き離し」についてはリベラル系の人たちが存在自体を否定することがあります。
むしろ、離婚後の親子交流を推奨することでDVの危険が見過ごされDV虐待の被害が増えるのではないか、という懸念が強い傾向があるかと思います。

ただ、両方とも現実に起こっていることで、どちらかしか存在しないわけじゃありません。

ところで私も親子断絶防止法関連で賛成派と反対派のやり取りを見ているのですが、敢えて左右の色分けをするならば、賛成派が右、反対派が左という傾向は確かに見られます。賛成派で、排外差別に肯定的だったり、反民主・反社民・反共産といった発言も確かに多く、ネトウヨが多いという印象は確かに否定できません。
社民党共産党も法案には反対の姿勢のようですから、左派は反対の傾向が強いというのも否定できません。

困ったことに、家庭教育支援法案というガチの日本会議案件と、この親子断絶防止法案を混同している人も結構見かけます。
“伝統的家族観”大好きの日本会議にとって、離婚家庭はそもそも興味の範囲外なので親子断絶防止法案が日本会議案件であるわけもないんですけどね。親子断絶防止法案を推進してきた別居親の団体は、社民や共産といったリベラル系から相手にされなかったこともあり、保守系に助けを求める以外なかったという事情を考慮すべきです。
ハーグ拉致条約の際、排外主義団体と並んで最も激しく抵抗したのが、リベラルの牙城たる日弁連だったこと*1は、これを理解するうえで重要なポイントです。

左派は伝統的にDV被害を受ける女性を救済する方向で活動し、それに特化し過ぎたため、DV防止法が“悪用”されている実態の把握や対処ができていません。
“悪用”という言い方は適切ではないかもしれません。むしろ特化しすぎたため袋小路に迷い込んだという方が適切かもしれません。

DV原因の離婚でもDVの事実性が重視されない

殺人や傷害のレベルのDVが行われた場合は言うまでもなく刑事事件として対応されます。その場合は離婚は容易に成立するでしょう。
ところが証拠の残りにくいDV、怪我の残らない暴行や暴言、脅迫などは、刑事事件として扱うことが難しくなります。家庭内において行われるそのような行為について証拠を残すことは困難だからです。
そこでDV防止法が出来てDV被害者は避難ができるようになりました。シェルターなどに避難しつつ、裁判所に離婚を申し立て離婚を成立させることが出来るようになったわけです。
しかし、そこでDVの事実認定による離婚ではなく避難・別居に伴う婚姻関係の破綻による離婚という手段が成立し、実態との乖離が生まれました。

刑事事件とはならずとも婚姻関係を継続するには困難なレベルのDVがあったことの事実認定を裁判所が行った上で離婚を認める、という原則になっていれば良かったのですが、それは離婚したい側にとっても裁判所にとっても不都合でした。
なぜなら、離婚したい側にとってはDVの立証が非常に困難でしたし、裁判所にとってはどのようなレベルのDVをもって婚姻関係を継続できないとみなすか判断するための拠り所が無かったからです。そこで、離婚したい側と裁判所の暗黙の了解のうちに生まれたのが、破綻主義の適用です。
現実問題として離婚したい側はDV防止法の適用により避難・別居しているわけですから、それをもって婚姻関係が破綻しているとみなせば、離婚したい側にも裁判所にも効率よく解決できるようになります。
離婚したい側の弁護士も困難なDV立証よりも別居の実績を作る方が、効率良く“DV被害者”を救済できるわけですからこれに異を唱えたりはしません。

しかしその結果、離婚するために破綻実績を作ることが目的化していきます。DVの要件は際限なく拡大でき、極端な話、離婚したいのに離婚を認めないのがDVであるかのような状態になっていきます。裁判所側も、DVであるから離婚とするわけではなく、破綻しているから離婚としているため、DVが事実かどうかには触れなくても構いません。
離婚したい側の主張する“DV”に対して冤罪だと反論すればするほど、“婚姻関係が破綻している証拠”になってしまい裁判所としては、DVが事実かどうかに関係なく破綻していると判断できるようになったわけです。
夫婦二人だけであれば、“DV夫”呼ばわりされた側が事実無根であったとしても、そのような相手と縁切りできたことで諦めることもできるしょう。別れた元配偶者が自分のことをDV加害者呼ばわりしたとしてもそれが事実上の非公開に留まり、自らの交友関係内に悪い噂を広められない限り、“悪い相手に捕まった”と諦め、忘れてしまっても大きな問題にはなりませんでした。
DV冤罪の土壌がここにできあがりました。

DVのレベル

第一条  この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO031.html

DV防止法上の定義では、「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの」と「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」とありますが、前者は「不法な攻撃」とあるようにそもそもが違法行為で、立証はさほど難しくなく、難しいのは後者です。
「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」を暴言や脅迫とすれば、常軌を逸した怒号や殺害予告のような言動のレベルが相当すると考えられますが、夫婦の関係性や生育環境によっては、そもそも実際の言動を第三者が観察しても判断の難しい場合が生じます。
普通の口論レベル(例えば、テレビの討論番組でヒートアップしている時のような口調)について「心身に有害な影響を及ぼす言動」だと感じる人もいれば、それほどのことではないと感じる人もいます。
もちろん、それでもされた側がどう感じたか、という視点は大事です。
ただし、された側がどう感じたか、という基準を適用すると、双方がDV加害者となる相互DVの可能性を真剣に考慮する必要が生じます。つまり、一方がDVを受けたと感じるのと同様に他方もDVを受けたと感じる場合がありえるわけです。
この場合に、どちらがDV加害者でどちらが被害者かを判断するのは極めて困難です。裁判所はそういう困難な判断を避けたいのが普通で、それが故にDVが原因とは言わず、“破綻したから離婚”というロジックを好みます。

その結果、DV防止法での保護を経た場合でも裁判所での離婚(調停離婚・裁判離婚)においてDV認定されるとは限らず、同時に冤罪であってもそれが晴れることなく離婚が成立してしまいます。
裁判所の理屈としては、これでも筋が通っています。破綻しているとさえ判断できれば離婚を認める上で、DVの有無は問題ではないからです*2

子のいる夫婦の場合

問題は、この裁判所的なロジックが子のいる夫婦間でも適用されてしまうことです。そして、親権者の認定にあたって裁判所自身が指針となるべきものを何も持っていないことが、それに拍車をかけています。
離婚時の親権に関連する民法上の条項は以下の2つです。

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
(略)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条  父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2  裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
(略)
5  第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6  子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

第766条に「子の利益を最も優先」とあり、第819条に「子の利益のため必要があると認めるとき」とあるくらいで、「子の利益」とは何なのか、何を基準にして判断するのかについては全く曖昧です。現状では、“現状優先(継続性優先)”、“母性優先”がその基準になっていると言われますが、明確ではありません。

イギリスやオーストラリアの家族法では、その辺はかなり詳細に定義されています。
イギリスの家族法の場合は、

単純に“子どもの意思”の一言ではなく、年齢や理解の度合い、意思が表明された状況を考慮する必要があり(a)、反対する証拠が無い場合(in the absence of evidence to the contrary)は、親やその家族との交流すること(c(i))や双方の親との良好な関係を継続すること(c(ii))が、子の最善の利益に適うということ一般的な原則とする、と明記されています。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20170203/1486137871

オーストラリアの家族法では、

双方の親と良好な関係を維持することが「子の利益」(The benefit to children)であるとはっきり謳っています。もちろん虐待などがある場合は例外となり、虐待リスクについてより重きを置くようにとなっています。
ただし、これは同居親がDVだと主張すれば、立証責任が別居親側に一方的に課されて、立証できない限り面会が停止されるわけではありません。
(略)
この61条DA(4)には、双方の親に等しい共同養育責任を負わすことが子どもの最善の利益に適うという前提が覆されるための条件として、裁判所を納得させるだけの証拠(evidence that satisfies the court)が必要だとされています。その証拠が示せなければ、双方の親は等しい共同養育責任を負う( for the child's parents to have equal shared parental responsibility for the child)ことになります。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20170203/1486137871

つまり、原則として、双方の親と良好な関係を維持することが「子の利益」であり、双方の親は等しい共同養育責任を負うべきであると法律上に明記された上で、「裁判所を納得させるだけの証拠(evidence that satisfies the court)」をもって示された場合のみ、一方の親との交流を制限できるとされています。
日本の民法のようにただ「子の利益」とだけ書かれていて、何を持って「子の利益」とするかは個々の裁判官任せの状態とは全く違います。
そして、個々の裁判官任せになっているが故に起こる問題があります。

調停・審判で起こること

「DV見過ごしによるDV虐待」が発生するメカニズム

明確に証拠を挙げにくいレベルではあるものの実際にDV被害を受け、DV防止法を用いて避難し、離婚調停・審判を起こしている場合に何が起こるかを見てみましょう。
この想定では相手方は実際にDV加害者です。
当然、DV被害者側は離婚の成立と子の親権を求めますし、支援する弁護士もそれを支持します。
相手方はDVの事実を否定し離婚に同意しませんが、調停委員らの説得の末、ようやく子供との面会交流が認められるなら離婚にも同意し、養育費も出すという条件を提示します。態度は強硬です。それも拒否するなら裁判で際限なく争う姿勢を示しています。
こういう調停をやる場合、調停委員らが陥りやすい落としどころは、譲歩しそうな側を説得するというものです。
DV被害者側が際限なく続く裁判に疲れ果ててくると、離婚できるならそれでいいという判断をしてしまう場合がありますし、そういう状態になってくると調停委員らもDV被害者側を説得するように傾きます。
DV被害者側が何が何でも面会交流も認めない、という態度を示し続けないと、調停では弱ってる側が説得されるようになるわけです。

DV被害者というのは家庭内で精神的に抑圧されてきているため、自分の意思を強く示すことに不得手なことが多く、結果として面会交流の条件を受け入れてしまうことがあります。

なぜ裁判所がそういう説得をするのか、というと「子の利益」についての明確な指針をもっていないからです。
同居親であるDV被害者を説得する際には“面会交流は子の利益”だという主張をしてきますが、明確な指針ではないため、いかなる場合が例外にあたるかを真剣には考えません。

これが「DV見過ごしによるDV虐待」が発生するメカニズムです。

「DV冤罪による親子引き離し」が発生するメカニズム

一方で、実際にはDVとは言えないレベルの口論をDVだと主張した場合はどうでしょうか。
この想定では相手方は実際にはDV加害者ではありません。

にもかかわらず、子と引き離された状態で離婚を迫られ、面会交流すら拒否されています。
離婚はやむをえないが、せめて子どもと面会交流できるよう認めてほしい、と主張し、自分は子どものことを愛しているのだと訴えても、愛しているなら婚姻費用を払ってあげなさい、同居親は傷ついているのでしばらくそっとしておいてあげたらどうか、などと調停委員は相手方の説得にかかります。

養育費を払うのが子への愛情だ、子どもは会いたくなったら自分で会いに来る、などと面会交流の約束を曖昧にして説得してくるわけです。
相手方(別居親)の方が譲歩しそうだと見れば、そちらに譲歩させようとして調停委員は説得にかかり、面会交流の条件を曖昧にしたまま離婚に同意させてしまいます。
民法766条改正前は、面会交流の条件が完全に消滅することも少なかったでしょう。現在は民法766条で「父又は母と子との面会及びその他の交流」を定めるよう書かれているため、裁判所関与下で面会交流の条件が完全消滅することは少ないと思いますが、事実上、面会交流を消滅させうる条件がつくことは珍しくありません。
例えば「子の意思を尊重する」といった文言を追加すれば、実際に面会交流する段階になっても「子が嫌だと言っている」と主張し拒絶できます。それが事実かどうかを確かめる術は別居親側にはありません。その他、時期を曖昧にしたりするなどで事実上、面会交流を拒絶することは容易にできます。

もちろん、あくまで同居親側がDV被害を主張し、面会交流条件を消滅させることもできなくはないでしょうが、以前よりそれは難しくなっているので、それを指して“裁判所では面会交流が強制されている”と弁護士が主張しているかと思います。
しかし、実際に被害を立証できるのであれば、今もって面会交流が制限される可能性が高いでしょうね(子に対する虐待懸念が無ければ、第三者関与でやれば良いわけですし、子に対する虐待の懸念があっても、同居親側代理人による監視があれば問題ないと判断されることもあるでしょう*3。)。

いずれにせよ、引き離された別居親は、事実上であっても面会交流が禁止され、「DV冤罪による親子引き離し」が成立してしまうわけです。

これもどうしてこうなるのか、結局これも、裁判所が「子の利益」についての明確な指針をもっていないからです。

明確な指針の不在が、事件当事者のうちより弱い方へのしわ寄せとなっている

子連れ離婚事件における裁判所の役割は子の親権者を決めて離婚事件を解決することです。そこに「子の利益」についての明確な指針がないとどうなるか、が上で見てきた事態です。
「子の利益」についての明確な指針がないと、子の親権者を決めて離婚事件を解決することが裁判所の仕事である以上、裁判所は離婚事件を解決するのに便利な方向で「子の利益」を解釈します。

DV被害者側が弱そうな場合は“面会交流は子の利益”だと解釈し、連れ去られ親が弱そうな場合は“子どもは会いたくなったら自分で会いに来る”と言い“子の意思の尊重こそ子の利益”であると解釈します。
弱い方を説得する方が事件を解決させやすく、効率良く事件を処理できるからです。

「子の利益」とは何か、明確に決まっていない以上、個々の裁判官がその場その場で判断することになり、その時、事件処理の効率性を考慮すると、事件当事者のうち弱そうな方にしわ寄せすることになります。

そしてこの結果、全ての離婚事件を俯瞰してみると、DV冤罪による親子引き離しもDV見過ごしによるDV虐待も両立して存在することになるわけです。

「子の利益」とは何か

先進国での一般的な考え方は、原則として、双方の親と良好な関係を維持することが「子の利益」(The benefit to children)であり、それは明確な証拠によって「子の利益」にならないと示される場合のみ否定できる、というものです。

日本の裁判所は何をするべきか

・同居親がDVや虐待を主張した場合は、それが十分な根拠を伴う場合は面会交流を制限する。
・同居親がDVや虐待を主張した場合で、十分な根拠を伴わないが懸念が払拭できない場合は、監視付などの条件下での面会交流を認めつつ、一定期間経過して問題が無ければ条件を解除する。問題が生じた場合は再度、裁判所関与下で対応を決める。
・同居親がDVや虐待を主張した場合で、根拠が一切無く懸念もない場合は、親権者・監護権者変更を検討する。
・いずれの場合も、面会交流を停止するに相当するDV・虐待であるかについての評価を行う。

以上のような対応が最低限必要で、裁判所はDVや虐待について事実認定を行い、それが面会交流を停止するに相当する内容かを評価し、その上で面会交流をどうするべきか、裁判所として責任を持って決めるべきです。
たとえ、当事者間の合意を目指す調停であっても、「子の利益」のためにどうあるべきかを裁判所として示した上で、それをベースとして当事者間で調整すべきであって、何の指針も与えず、ただ当事者同士で主張させても、“強い方”の意見が通るだけで、「子の利益」に対して十分な考慮が払われることはありません。

子の身分が関わる問題では、「子の利益」とは何かを明示しなければならず、出廷している当事者はいずれも子ども自身ではない以上、「子の利益」の代弁者でもありません。
本来、裁判所はその辺を理解するべきです。

*1:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20120405/1333645932

*2:DV被害に対する慰謝料請求とかがあればもっと複雑な状況になるでしょうが。

*3:第三者監視が適切かという問題はあります